八章7
紅葉館の前にある坂道は山をばっさりと縦に切られて作られたものだ。そのため、坂道の両脇は木々が生い茂っていた。桜花たちは非効率ではあったが集団でサンドールの行方を探していた。
しかし、一向に見つからないため、紅葉館へと引き返そうとしたその時、爆音が彼女らを突き抜けたのだった。
「今のは⁉」
「爆発……音だな。紅葉館の裏側か」
よく見てみると、紅葉館の裏側から煙が上がっているのが分かる。量からして火事でないのは明らかだ。
「あそこって……はっ‼」
それを見るや、桜花は両足に魔法陣を展開し、地面を蹴りあげた。
「ちょ、桜花ちゃん!」
「おいおい、マジか」
コンマでトップスピードへと達した桜花に、上級生二人は驚愕した。見ている間にも彼女の影は小さくなっていく。
「ほんと、彼女は優秀だよね」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ‼ 桜花ちゃんがあれだけ焦ってる理由は一つじゃない」
「薫君だね?」
聞き返してくるも、分かりきっていると言わんとばかりの顔をしていた。
「分かってるなら、言わないで。私たちも行くわよ!」
「了解だ」
二人も桜花と同じく加速魔術で現地へと向かった。
***
薫とサンドールは浜辺へと降り立った。
魔術を自由に行使できるサンドールは浮遊で、薫は跳躍で壁を乗り越えた。
「いいんですか? この壁を越えたということは、もうあなたは紅葉館に入れなくなりますど?」
「残念ながら、荷物を取りに行く時間もないのでね。諦めて戦うことにするよ」
そうは言うが、彼の表情から残念さが微塵も伝わってこない。おそらく、必要最小限のものしか持ち込んでいないのだろう。組織にかかわるものは持ち込んでいないと主張線とばかりの反応だ。
「そうですか」
軽く頷いて、会話を切る。
薫は両の手を相棒へ差し伸べると、そっと柄に添えた。
サンドールもふわりと右手を掲げる。二人はにらみ合い、その時を待つ。
途端に吹き抜けた風を合図に、二人は走り出した。
「おらぁ!」
サンドールは右手を振り上げ、突き出す。無詠唱の魔術。薫は即座に抜刀し、目に見えぬ何かを切り捨てる。
「ほお、すごいじゃないか」
「それはどうも」
不可視の風を切り捨てるのはもはや人間のすることじゃないな。サンドールは冷静に分析する。本来ならば避けるであろうものを易々と切り捨てられてはあらかじめの作戦を変更する必要があるようだ。
などと算段を立てていると手加減のない一閃がやってくる。
「おっと」
サンドールはバックステップでそれを躱すと、両足に魔力を込めて蹴る。
彼のいた場所に一振りの追撃。サンドールは薫の背後に回り、その加速を利用して右フックを打ち出す。薫は前に走ることで距離をとって回避。
「意外とすばしっこいですね」
おもむろに渋い顔を作る。
「じゃなきゃ、やってられないからな!」
互いに距離をとると、サンドールは砂に手を着いて振り払う。その場から砂が巻き上がり、小さな竜巻が生成される。
それは薫に徐々に近づいていく。
「確かに物理攻撃は苦手ですが……無駄ですよ」
薫は左手の小太刀を逆さに持ち替えると背中側に引き、右手を胸前まで持ってく。そして、その姿勢のまま迫る竜巻へと突進する。
「あまり甘く見ないでほしいですね」
まずは右手を横なぎすることで風圧を当て、竜巻を瞬時に消す。さらに踏み込んでサンドールの眼前へと辿り着くと遠心力でついてくる左手をそのまま連撃へと繋げる。
「ちぃっ」
寸でのところで魔法障壁を張るが、
「やば」
小太刀は障壁をすり抜けて迫る。彼にとって、魔術の壁など、あってないものに等しい。身体を前に屈めることでぎりぎり追撃を逃れる。幸い、髪を数本持っていかれただけにとどまったが、薫はそのまま回転を止めず、太刀を振り下ろす。
サンドールは薫の脇をすり抜けることで避ける。そのあと、薫の足に獏が突進してきた。
「残念」
「なっ!」
軸足への攻撃でバランスを崩し、倒れ込む。
「こっちは一人じゃないんでね」
薫は戦闘に集中しすぎて、小さな身体の存在を忘れていた。
サンドールは懐から引き抜いた銃を薫に向ける。
「案外、旧式のは使いやすくていいな。センサーにも引っかからないし」
今では自分の魔力を銃弾へと変える魔法銃が主流となっている。なぜなら銃弾にコストがかからないからだ。
サンドールはロックを外し、弾を込める。
「さようなら」
ためらうことなく引き金を引く。
これで終わりだ。二人はそう思った。しかし、結果は予想とは違っていた。
「私の薫に手は出させない!」
「な、に」
サンドールと薫の間には魔法障壁が張られていた。
動揺している隙に薫は立ち上がると刀で銃を弾き飛ばす。それは黒い弧を描いて海に落下した。
「そんな、どうして」
紅葉館と浜を隔てる壁の上に桜花は佇んでいた。彼女の顔にはあからさまな怒りが浮かんでいた。
「見事に騙されましたよ。おかげで余計な時間をとってしまいました」
壁を蹴って桜花はふわりと地面に降り立つと、薫のもとへと走る。
「薫……」
「ありがとう桜花。助かった」
彼の顔には玉のような汗がにじみ出ている。
「さて、これで数は互角ですね」
「ええい、あなたはどこまでも邪魔をしてくれますね。神奈崎の娘」
「薫に手を出した時点で、私の怒りを買ったも同然です。諦めてください」
「うるさい‼」
サンドールな頭を振り、両手に魔法陣を展開する。
『我は分身。幾度と倒れぬ幻影と化せ‼』
たちまち、サンドールの身体は二人、四人、八人と二乗に分散していく。
「私たちを騙した技の応用ですか……」
「なら、僕らも」
「う、うん」
彼女の手を握るとなぜか頬を染め始めた桜花に薫は疑問を抱いたが無視する。
二人は右手を突き出し、
『我が制約し龍よ、闇よりその姿を現せ‼』
二人の手から魔法陣が形成され、轟音が全体に広がっていく。そして、魔法陣を突き破るように二体の龍が降臨する。
「召喚獣を出したところで、私には及ばない」
「一体その自身はどこから出てくるのでしょう?」
「さあ」
二人の力は契約によって強化されている。そばに桜花がいる状態の薫は剣士として最大の力を発揮できる。
「最終戦を始めましょう」
桜花の合図でサンドールたちと二人は動いたのだった。
こんにちは。
戦闘シーンで予想以上に手間取ってしまいました。クライマックスシーンもあとわずかなので、せっせこ行きたいと思います。←見事にフラグ立ててるな。




