八章5
サンドールはひたすら走っていた。中庭を抜け、坂を下り始める。もうすぐ、住宅街に差し掛かる。そこに逃げ込んでしまえば、奴らも苦労するに違いない。そう思ったのだ。しかし、その案は瞬く間に瓦解されたのである。
「待ちなさい、と忠告しましたよね?」
坂の下の路地から桜花が姿を現した。
「なっ!」
彼女の後ろには巨大な龍の姿があった。上から飛んで先回りしていたのだろう。ガウゼスはその長い身体を使って道を鎖す。
「そうそう、観念したらどうですか?」
にこやかに長瀬は問いかける。サンドールは見事、挟み撃ちに嵌ったのであった。
しかし、その顔には絶望は浮かんでいない。
「残念ながらはいそうですかと引き下がるわけにはいかないのでね」
すっと右手を持ち上げると、
「はっ、ガウゼス。炎弾!」
「遅い!」
『我が制約し獣よ、闇よりその姿を現せ!』
呪文を言い終わると同時にダウゼスの放つ炎弾が届くが、何かに阻まれて霧散した。
「やはり、その獏はあなたの魔獣でしたか」
「その通り」
炎弾は小さな身体によって遮られていた。
獏は鼻先から魔法陣の障壁を展開し、主人を守ったのである。
「ずいぶん可愛いですね」
「ありがとう。こちらのほうが何かと動きやすいのでね」
桜花の皮肉をもともせず、返してきた。
「しかし、我々を相手には数が足らないのでは?」
こちらは会長ペアを含めて四。相手は二。どう考えても向こうが不利である。
「ふふふ、言われなくても分かってますよ」
そういうと、彼は着ている白衣に手を伸ばした。
「させない!」
長瀬は瞬間でトップスピードになり、坂を下る。その手には魔法陣が浮かんでいた。
『地はあらゆるものを固める』
後ろから呪文が飛び、サンドールの足元が液化した。
瞬間的に彼は沈む。その刹那、地面は何事もなかったように元に戻っていた。
「ふむ、やはり素晴らしい。このスピード、呪文短縮。予想以上だよ」
「なら、ついでに喰らいなさい‼」
サンドールの目の前まで近づいた長瀬は
『我が腕は氷に守られる』
彼女の腕は一瞬にして凍りついた。それをスピードに乗せてサンドールの腹を穿つ。
「ゴァ‼」
足の動かせないサンドールはもろに一撃を受けた。本当は吹っ飛んでもいい攻撃だが、固定されているためどうすることもできない。腹の中のものが一瞬出かけたが、寸でのところで戻る。長瀬は若干めり込んだ腕を引き抜くと、固定していた土が砕け、彼は後ろに倒れ込んだ。
彼の魔獣はというと、ガウゼスの放つ炎弾を何度もかわし続けていたので、主人に手助けできないでいたのだった。連続で炎弾を放つガウゼスの顔は桜花から見ると楽しそうであった。
「ふう、案外あっけなかったねー」
「さて、何を隠していたのやら?」
御川はダウンしているサンドールの白衣をまさぐろうと手を伸ばす。すると、彼は一瞬にして、ドット絵のように変化し、霧散してしまった。
「「「――はい?……」」」
ぽかんとする三人。
「って、それあり⁉」
長瀬が全員分を代弁してくれた。
「探すぞ‼」
「はい!」
「もちろん!」
三人はまたしても逃げられたのだった。




