八章4
桜花たちは麗の部屋からぐるりと半周することで薫の部屋の前へと移動した。
「確か、サムさんは薫の部屋に籠っていたね?」
「今更な質問ね……」
麗を抱えた長瀬は幼馴染みの問いに嘆息する。
「どこにも行ってなければいいのですけれど」
そういって桜花は宛がわれた鍵で解錠した。
「おう、お帰り」
「……あれ?」
「おいおい、我が娘よ。父親にあれ? はないだろう」
別にそういうことではないと突っ込みたかったが今は抑える。
「そんなことよりお父様! 麗が眠らされました」
娘の思わぬ報告に総一郎は先程とは打って変わって真剣な表情を作る
「……てことはサムを頼りに来たということか?」
「はい」
コクリと頷く。
「そうか――よし、桜花。後ろの二人も、麗は俺に任せてお前は彼女の部屋に行け。案外面白いものが見られるかもしれないぞ」
「どういうことですか?」
総一郎の意味の分からない返答に思わず聞き返す御川。
「百聞は一見に如かずってな」
ひょいと長瀬から麗を取り上げるとそれ以来、総一郎は麗に視線を向けたっきり何も言わなくなった。
「会長、副会長。行きましょう」
このまま居座っても、父はなにも教えてくれないだろう。
そう結論付けた桜花は二人を催促し、来た道に再び足を向けた。
***
総一郎に言われ、食堂で遅めの夕食をとったあとのことだった。
サンドールは薫の部屋には向かわずに正反対の場所へと足を向けた。
向かう先は麗の部屋である。
「社長も案外甘いな。ここまで、好きにやらせてもらえるのはある意味予想外ではあったが……まあいい。
呪術もうまく作用しているようだし、無効能力も完全でないことが証明された。団長に報告すれば驚くに違いない。無魔力者は完全な魔力無効を備えていないのであれば、あいつを必要としなくなるだろう。ならば、私にも目を向けてくれるはずだ……」
部屋の前に到着すると、彼女から奪っていた部屋のキーを刺し、解錠する。
部屋に足を踏み入れた時、体が違和感を覚えた。
「ま、まさかっ――」
仕切り戸を強引に開け、中を覗くとそこには思い描くものは存在しなかった。
床には切り裂かれ解かれたロープが残っているだけで、それで戒めていたものは消え去っていた。
……いや、待てよ――
サンドールは慌てた思考を落ち着かせると、冷静に巡らせる。
まず、連れ出した奴は十中八九社長の娘だろう。生徒会メンバーは魔術に関してエキスパートがそろった連中だと聞く。なら、俺のかけた催眠魔術は解かれたと思っていいだろう。しかし、あいつは俺の顔を見ただろうか? いや、隠せていただろう。ならば、心配するとしたら声だろうか。どのみち、あいつが起きてしまえば辿り着かれてしまいそうだな。
思わずその場で熟考してしまったサンドールはようやく現実へと戻った。
「結論を言えば、八城薫を連れて行ってしまえばいいことだ」
「そう。あなたが犯人だったの、サンドール・アレクさん」
凛とした背筋が凍ってしまいそうな声音がサンドールの鼓膜を震わせた。
「な、なんだと」
「ふむ、確かに面白いものが見れたな」
「ほんと、社長も人が悪いというか、わかってたんなら教えてほしいところだよね」
サンドールはそっちのけで三者三様な意見をこぼしあっていた。
「貴様ら――なんでいるんだよ!」
愕然とした表情でサンドールは三人を見ていた。
「なぜって……今のやり取り聞いていなかったの? 社長から、ここに来れば面白いものが見られるから行ってみるといいって言われたからよ。あの人はほんと、退屈させてくれないわね」
「今回以外の例はないだろうが」
「お二人とも、コントはあとでしてください。
サンドールさん。今の独り言は確かに頂戴いたしました。よって、生徒会権限により、確保させていただきます」
「いやいや、桜花ちゃん! ここ、学校外だから生徒会権限通じないからね? しいて言えば魔術警察代理くらいのほうが相手も納得が――」
「いくかーー!」
「だそうだよ?」
「困ったわね」
さほど困った様子も見せず、長瀬は苦笑した。
「ですからコントはあとにしてくださいと何度――」
「お前らよくも人をコケにできるなおいっ!」
サンドールまでもが突っ込んでしまう状況を上級生たちは作り出していた。
「と、いうわけでサンドール・アレクさん。魔術警察代理権限によりあなたを拘束します」
「是非ともお断りだ!」
そういって、彼はこちらに背を向けて窓に突き進むと迷わず飛び降りた。窓は先ほど桜花が開けたまま放置してあったのを今思い出した。
「待てよ、おい!」
「追いますよ!」
「あたりまえ!」
三人も続いて中庭に飛び降りたのだった。
第二部もクライマックスに突入です。




