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無魔力剣士と召喚士  作者: 夜空 切
第一幕
4/97

一章1 冬休みの唐突な依頼と再会

一章開始です。

 時は戻り三か月前。

 

 一月九日。


 冬休みが明けて始業式から三日後のことである。

南星学院中等部の応接室に薫はいた。


 帰りのHR終了後のことだった。

 珍しく担任から声がかかり、「来客だ」と聞かされてこの応接室に連れて来られたのである。

 六畳くらいの間取りで二人がけの椅子二つがガラス製のテーブルを挟んで置いてあるだけのこじんまりとした応接室。 特に何も飾られていない質素な空間だ。

 本でもあればまだましだったが、手持ち無沙汰の解消になりそうなものはなかった。


 担任はというと、僕を席に座らせるや自分の仕事は終わったと言う感じでいつの間にか応接室から出て行ってしまった。

 詳細が分からぬまま薫は一人応接室に残されたので、仕方なく来客とやらを待つことにした。受験シーズンということもあり、学校全体(主に三年校舎)がピリピリとした空気に包まれて、静かな空間というものがそんなに時間も経っていないというのに懐かしい気持ちにさせた。


 外では野球部がランニングを始めたらしく、掛け声が室内にまで響いてきた。


「部活かー」


 薫は呟いた。

 数ヶ月前までは似合わずにも科学部に所属していた。本当は帰宅部がよかったのだけれど、学校の方針で必ず部活に入らなくてはならない規則があった。そんなわけで、薫は楽そうな科学部を選んだ。やはりと言うべきか人気がなく、なぜか顧問が理科ではなく国語教師と言う部活だった。しかもその教師。これと言って科学に興味があるわけでもないらしく、活動内容も生徒任せである。


 薫の代は彼一人で三年生に上がるっても同年代がいないため、強制的に部長をやらされることとなった。薫自身は別の方に興味があったので、そちらに時間が取れる分良心的な部活動であった。

 まあ、それなりに楽しかったからよしとしよう。

 薫は人を待つ間、あと少しで終わる中等部の生活を思い出していた。



              *


 

 しばらくして、応接室に校長と高等部の生徒と思われる男女が入ってきた。校長は担任同様、二人を席に勧めるやそそくさ出て行ってしまった。

 

 二人の容姿は誰もが認めるであろうほど整っていた。

 特に女子生徒の方は高等部とは思えないほど大人びており、思わず視線が引きつけられた。二人が席に座ること数秒後。


「行ったかな」


 男子生徒が言う。


「そのようね」


 と、隣に座っていた女子生徒が相槌を返す。返答に男がふっ、と笑みを浮かべた。


「では、始めようか、初めまして、八城薫君。僕は南星学院高等部来季生徒会長の御川忍(おがわしのぶ)という。で、隣にいるのが来季副会長の長瀬真里亜(ながせまりあ)。別名〝魔獣殺し(モンスターアウト)〟とも呼ばれている」 

「“魔獣殺し”……あっ」


 中等部でもよく聞く名前であることを薫は思いだした。何でも、校内で暴走した魔獣を次々と倒していく学院最強の女子生徒がいるって噂であった。その生徒がどうやらこの人であるらしい。


 もともと、魔術省と呼ばれる魔術に関する研究や法律を作る機関により学校で許可無く魔獣を召喚するのは禁止されている。魔獣に対抗できるのは、同じく魔獣を召喚出来る者か、高レベルの魔術使いのみであるとされ、魔獣を使って悪事を働くものは後を絶たない。


 そのように悪魔の力を持つ魔獣はきわめて強いため、街中で暴走して建物等を破壊するような事態を起こしてほしくないからだそうだ。学院側が対処に困るからだろう。南星学院にも高レベルの魔術使いは存在している。僕の目の前にいる先輩もその一人というわけだ。そのほかにもいるようで詳しくは知らないけれど、数人しかいないと噂されている。


「知っているようでなによりだ。話が進めやすい」


 こちらの表情から察したのか、御川は微笑みを見せた。


「はあ……。それで先輩、本題は何ですか?」


 優秀な魔術師を排出する南星学院の次期会長と副会長がわざわざ僕を訪ねてくる理由が分からなかった。ただでさえ、僕はある事情を抱えている問題児だというのに。


「うむ。では薫君。君は今年、我が校に進学したいと考えている。まずはこれを確認したい」


 もう少ししたら一般受験が本格的に始まるのだ。

 そして、無謀にも薫は第一志望を南星学院としていた。


「ええ、そのつもりです」

 

 薫は()()()()()であるために、普通の魔術学院への受験は難しい。しかし、南星学院であれば資格を必要とすることなく志望することができる。

 薫が答えると、会長はふっと笑って、


「そうか。それはよかった。……では単刀直入に言わせてもらおう」


 一呼吸をおいてから、


「薫君! ぜひとも我が生徒会に入ってほしい。役職は書記だ!」


 ダン! と机を叩き、御川が身を乗り出してくる。


「はい?」


 突然のことに声を裏返してしまった。生徒会? まだ学院に通えるかもわからないのに何を言っているのだろうか? 

 こちらの困惑を気にも留めず、御川は続ける。


「もちろん無償で引き受けてくれとは言わないよ。だから、もし君が書記という立場を引き受けてくれるなら、学院の入学推薦と、高等部の授業料、施設料など、学院にかかわる全費用を無料にしようじゃないか!」

「「えええっっっ!」」


 僕と長瀬副会長は声を揃えて驚いた。いくらなんでも、生徒会長とはいえ一生徒がそんなことを勝手に決められるわけがない。


「いくらなんでも、やりすぎじゃない?」


 長瀬副会長が言うが、御川は不敵な笑みを浮かべるのみである。それには僕も同意見だ。初対面の僕にそこまでする意味が分らない。何か嫌な予感がする。でも、費用がかからなくなるのは助かるな。これで少しは恩返しできるし。御川の顔をじっと見つめるが、彼は嘘をついている様子は感じられなかった。


「……御川会長。確認しますが、生徒会に入ることで僕は学院に通うことができるのですね?」

「そうだとも。君の()()は知っている。だからこそ、私は君を欲しいのだよ」 

「僕が欲しい?」


背筋にぞっとするものがあり、薫はソファの背もたれいっぱいに下がる。すると御川の脳天に拳骨が下された。かなり力がはいっていたのか、両手で頭を押さえて踞る。


「言い回しが気持ち悪い」

「だからといって殴る必要はあるまい!」


 このことから自分を実験材料として使うことではないと推測する。この世界に適合できていない日陰者の僕を欲しがる目的はなんだろうか? 

 

「……じゃあ、根本的な話に移るね。ええとね、薫君。最近、うちの学校で暴走する魔獣が増えているの。そのため、私一人じゃ、全生徒を守りきれないのね。情けない話だけど……」


 そうなのか。他校の話はあまり入ってこないから知らなかった。


「それでね、学院側が来年度から〝規則委員会(ガーディアン)〟を創設するっていう話を持ち出したのね」

「ガーディアン?」

「そう。校内で起きた暴走事故や、魔獣を使って悪巧みをするやつらをぶっ飛ばして学院に連行する。これが規則委員の活動内容よ。で、申し訳ないことに、薫君に初代委員会をやってもらうことが無料化にする条件だって学院側が言ってきたのよ」

 

 うわ、厄介事きたー!


「でね、君がこの委員会に適した力を持っているから今すぐにでもって、学院側がうるさくて。さっきの条件だったら引き受けてくれるだろうという学院の汚いやり口なのだけどどうかな?」 

「それが条件――」

 

 なるほど、この体質を有効利用する代わりに学苑へと入学できるわけか。


「あの、僕の体質を研究するとかそういうことではないのです……ね?」

 

 確認のため尋ねるも否定される。


「そもそも、君の体質についての研究はMLが独占しているはずだろう? そこに学院が横槍を入れることはしないそうだよ」


 そうなのか。本当に助けられてばかりで申し訳ないな。

ちょっと考えさせてください、と断りを入れてしばしひとりで熟考した。

 

「……わかりました。そこが心配ではありましたが、問題ないのであれば来年度の生徒会に入らせてください。規則委員の話も引き受けます」

「おお! 引き受けてくれるか。ありがとう、薫君!」


 と言って会長は僕に握手を求めてくるので、握り返す。これで僕は来年度から生徒会に入る事が決定したわけだ。ついでに受験から解放されるという副賞も添えて。


「それとですね、もう一つ気にかかっていることがあって……」 


 薫は御川の横にいる副会長を指して、


「長瀬副会長。無料化になること知ってたんじゃないですか!」

「そこかー!」

「そうですよ! さっき僕と一緒に驚いていたのは一体何だったんですか?」

「いやー、それはついノリでね! やってみたくなったのよ。いいじゃない、少し遊んだって!」


「まあまあ、二人とも落ちついて」

 

 会長が割って入ってきた。


「よし、話をそらそうじゃないか。まだ君には聞かなきゃいけないことが残っているからね。こんなに早く終わるとは思わなかったけれど」

 

 面と向かって話を逸すと宣言するのはいかがなものかと思います先輩。

 

「……なんです?」


 ふてくされ顔で薫が訊く。


「改めて聞くのは無粋だろうが、君は体質のせいで魔術が使えないんだよね?」

「……はい」

「それなのに魔獣は召喚できる」

「ええ。なんか生まれつきの体質のようで」


 実は、自分でも良く分らないんですよね。


「えっと、それが何か?」

「何かじゃないわよ!」

「うわっ、いきなり怒鳴らないでください先輩!」


 何やら興奮気味に長瀬が言う。


「面白いじゃない! 魔術が使えないのに魔獣を召喚できるなんて。ねえ、忍。この子お持ち帰りで」

「出来ないからな」


 会長が冷静につっこんだ。副会長はぶぅと頬を膨らませ―――


「あはっ。じゃ~さー」


 副会長はニタッと満面の笑みを浮かべた。一瞬、先輩の目が光ったのは気のせいだろうか。席から立ちあがり、僕の方へ両手を広げて歩いてくる。なにやら獲物を狙うような眼をして。


「ハグしちゃう!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 飛びついてきた。しかも薫の体をペタペタと触り始めた。柔らかい肢体が薫を包み、薫の顔は一瞬で茹で上がった。


「ちょっ、な、何してるんですか先輩!」


 ペタペタ。


「会長も見てないで助けてくださいよ!」


 ペタペタペタ。


「いやー、見ていて面白いからそのままにしておくよ」


 放置プレイだった。


「ひどっ! というより副会長。色んなとこ当たってます! てっ、ドサクサに紛れて僕のズボン下げようとしないでください!」

「なんもきこえなーい。そして気にしなーい」

「気にしてください!」


 ただでさえ初対面なのにこんな綺麗な人にやられると男として色々と不味いものがある。


「ははははは。まぁ、そのくらいにしときなよ真里亜。……で、どうだった?」


 傍観していた会長は長瀬の奇行を止めさせる。長瀬は渋々薫から離れると、自身の席へ座る。

 そして会長はふざけた笑みを一変させ、真剣な表情をした。更に副会長の態度も真面目なものとなった。


「本当みたいだよ。彼の身体から一切、魔力を感じないんだもん」


 本当に不思議そうな顔をする二人。

 そうなんですよね。これは医者にも言われたことだが、二世紀ほど前から人間は生まれながらにして魔力を持つようになった。しかし僕は例外だったらしく、まったく魔力を持たずに生まれてきたらしい。さらに不思議なことで別に身体障害とかではないそうなのだ。


 魔力がなくて困ることといえば魔術が使えないという点だ。

 魔術は身体の魔力を自分の思い描いた事象に変化させることを指す。たとえば風を操り相手にぶつけたければ、そのことを頭で想像すると発動する。そのためには体内の魔力をコントロールしなくてはならないらしい。想像力と魔力、それとコントロールの三大要素が揃うことで始めて魔術が完成する。どういう原理でコントロールするかはいまだに分かっていないそうだが、無意識かつ感覚的に操るらしい。脳のどこかで制御をしているはずなのだが、いまだに詳しい場所ついては判明していないそうな。そして、練習を重ねることで次第に操れるようになるのだとか。人が魔術を発動する際に想像力の補助として現象を言葉にすることを詠唱という。詠唱はその人がイメージしやすいもののため同じ魔術でも人によって発する長さは変わってくる。だけど、僕の場合は、体に魔力そのものが無いわけだから、魔術を発動することができないのだ。ははは。……なんか、自分で言っていて落ち込むなー。


「そうか。ふむ」


 腕を組み、ぶつぶつと独り言を始める会長。が、すぐに


「考えることは後にするとして、真里亜は満足か?」

「うん!」


 満面の笑みを返す副会長。満足してくれなくては困る。


「よしよし。あっ、薫君。もう一つ訊きたいことがあるんだ」


 思い出したように……わざとな可能性があるが、いまはスルー。


「ええ、どうぞ」


 僕が答えると会長は手に持っていたファイルから二枚の紙を僕に差し出してきた。

 僕はその紙を受け取り、表面を見る。それは南星学院の受験票だった。薫も提出していたため、覚えがある。


「えっ……」

 

 受験票に貼られている写真を見て薫は驚いた。写真には幼馴染である神奈崎桜花が写っていたのである。


「何故僕にこれを?」


 一応親戚とは言え、個人情報を気軽に見せる物ではない。


「次の紙を見てくれればわかると思うよ」


 そう言われたので、ページをめくってみる。それは願書とは違い住所変更届であった。その変更先は……


「うち?」

「そういうことだ。神奈崎家から連絡がきてないかな?」

 

 いいえと首を振る。僕は今初めて聞いたぞ。どうせおじさんの仕業だろうが。


「ねーねー」


 今まで会話に参加していなかった副会長が右手を挙げて飛び跳ねている。


「なんですか? 先輩」

「その神奈崎って子、どうなの? かわいいの? 君の彼女?」


 先輩。会話そらしてどーするんですか! まさか襲いたいんですか? と、突っ込みたかったが我慢する。そして、


「可愛いです」


 と自慢げに薫は頷いた。

 最後の彼女であるかについては答えなかった。 

お読み下さりありがとうございます。

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