六章5
場所はまたもや変わります。
今度は紅葉館から外へ出ること十分強。砂峰の大市場へ薫と影里は足を運んだ。
ここは砂峰市が誇る魚市場も兼ねており、各方面から次々と客が押し寄せてくることで有名だった。魚介類だけではなく、採れたての山菜も充実しているのも見所のひとつとも言えよう。こちらには地元特有のものは存在しないのだけれども、新鮮さと何より価格が安いことが他方より人気もぎ取っている理由だそうだ。
後に聞いた話だと、村長が赤字を覚悟に始めた企画だそうで、「利益よりも多くの方に食べて欲しい」ということらしい。
しかし、魚介類をはじめとした水産物の売り上げは日本で万年堂々の一位を記録しているので、どちらかと言えば利益はプラスなのである、という策略が見て取れてしまうのが残念ではある。
「どこから回りますか?」
市場の賑わいに圧倒されていたものの、影里は冷静さを取りもどした。
「今日入手したいのは主に魚介類と小麦粉、卵です」
「卵は移動中に割れても困るので後にしましょうか。では、先に小麦粉を買ってしまいましょう」
「了解」
***
その後、薫たちは市場を一周することですべて買い揃えたのだが、
「やはり、ずいぶんな量になってしまいましたね」
「そ……そうだね」
今、薫は三段重ねとなった魚介類の入っている発泡スチロールを背負い、両手には小麦粉を詰めた袋を提げている。
さすがに金西を連れてくるべきだったとその場で後悔した。
実際、彼の持つ量は今の半分ほどの予定だった。しかし、紅葉館からの使いであることと、薫の顔を憶えていてくれた店員のおまけが重なったことで大荷物となってしまったのだ。
薫自身、持てないわけではないのだが、もう一人いれば重労働となることはなかっただろう。
「ないものねだりしていても仕方ない……か」
「諦めましょう」
「予定より遅くなりそうだなあ」
と、ため息ひとつ。
「さて、帰りますか」
「ええ」
重装備となった薫と軽装な影里の背中を市場の人たちは温かく見送ったのだった。




