四章1 生徒会始動
この日、南星市は荒れていた。
街のサイレンや、魔獣の咆哮などがあちこちから響き渡っている。
召喚制限のあるこの街で一般人が魔獣の声を聞くことは珍しい。
南星市は現在市全体に結界を張り、他市への干渉および市内からの逃亡などの一切を封じている。
薫率いる規則委員会(生徒会含む)の面々は学校と魔警からの命令により、その荒れた街に駆り出されたのである。
影里は学校で通信係として生徒会室に待機してもらっている。金西は彼女の付き添いとして学校に残った。
「やはり、生徒会と規則委員の初仕事はこれか」
会長が独り言のように呟く。
まだサイレンはやまず、耳が痛い。
その横で副会長が元気よく、
「私は薫君たちに期待してたりして! やられっぱなしじゃ、さすがにいやでしょう?」
そうなのだ。薫たちは一度家を襲撃されている。今日はそのお返しでもある。
「もちろんです。一度は逃がしましたが、もう逃がしません!」
こくり、と横に居た桜花も頷く。
「それは頼もしい限りだ。ぜひやってくれたまえよ。魔術と魔獣召喚許可はこの前出したから存分に暴れたまえ」
会長も同意してくれた。薫は後ろに居る委員のほうに向いて言う。
「これから事前に決めておいた班に分かれて行動してもらいます。何かあったら端末で書記の方へ報告を。以上です」
委員会は行動を開始した。
「やはり君を長にしてよかった」
僕の指揮を横で見ていた会長が呟く。
「お世辞でもありがたくもらっておきます」
「いやいや、お世辞などではない。本心からそう思っているとも」
「それはどうも」
「冷たいな~君は」
苦笑交じりに会長は言う。
「そうですか?」
「そうだともせめてもう少しくらい乗って欲しいところだよ」
そんなやり取りをしている中、急に端末が鳴った。開始からまだ十分とたっていないのに。
薫は端末を手に取って話し出す。
「どうしました? ずいぶんと早いですね」
『それが……目標を捕捉しました』
「はい? 場所は?」
『え? あ、すみません。何、移動した! すぐに追え! ……すいません。目標が移動したようなので追いかけます。また連絡します!』
そう言われて、通信が途絶えた。
「優秀だな。もう発見したのか」
「……追跡はまだ苦手なようですけどね」
苦笑交じりに薫は言う。
「できてから二日で出動という無理難題をこなせるのだからたいした物だろう。君たちの人選が当たりだったわけだ」
「ですから、そんなにほめても何も出ませんよ」
正直、会長にそう言われるのはうれしかった。桜花も同じ気持ちだろうな。
確かに結成二日目にしてはうまくまとまっている気がする。
個人の能力も一、二年生の中でなるべく優秀な人を選んだつもりだから薫自身も期待していた。
しばらくして、ポケットの端末がまた鳴る。
『すみません。逃げられました』
はは、やっぱり。さて、逃げられてはしょうがない。また探さなくては。
「会長そろそろ僕らも移動――」
またもや端末が鳴る。
「はい」
『薫君! 今すぐ学院に戻ってきてください!』
なんと、連絡者は班員ではなく影里さんからの連絡だった。
「どういうこと?」
状況が飲み込めず、質問する。
『村沢が学院に現れました。念のため、学校にも人を残しておいて正解でした。彼はおそらく魔術を使って身を隠しているようです。至急、こちらへ帰ってきてください』
「り、了解」
こちらが返事をすると通信が途絶えた。どういうことだ? なぜこっちにいたやつが学院になんって、まさか……
薫は再度、影里と連絡をとり、会長へ顔を振り向かせる。
「会長! 端末を使ってみんなを学院へ……生徒会室に集合させてください。それと、副会長! なるべく早く村沢を外に出ないよう足止めしてください。僕らはまだやることがあるので二人とも先に学院へ向かってください」
「りょーかい」
「うむ」
両名はその場から去っていった。薫はさっき連絡が来た班と連絡を取り、村沢が消えた場所へと移動する。現在地から七百メートル先の場所だった。桜花がしゃがんで地面に触れ、魔力を探知していく。始めた場所から数歩先の地面にわずかばかりだが、魔力が残っていた。
「やっぱり、転移魔法よ。これなら学院まで誰も気づかれずに飛べるもの」
ビンゴ。やはり魔術を使って、移動していたんだ。この前の時もそうだった。火を放った後もこれで安全圏まで離脱して、姿を見られないようにしていたんだ。
「桜花。もういいから、僕たちも学院へ行こう」
「うん」
僕は右腕を前に突き出し叫ぶ。
『我が制約し龍よ、闇よりその姿を現せ!』
呪文とともに右手から魔方陣が展開され、それを突き破るように赤い龍が姿を見せる。彼の龍型契約魔獣である。
「学院まで頼む」
『了解』
そう答えると、龍型魔獣は背中を低くして僕らが乗りやすいようにしてくれた。
「そういえば、ガウゼス以外の魔獣の上に乗ったの初めてだ」
唐突に桜花がそんなことを言うので、僕は笑いを堪えずにはいられなかった。緊張が続いていく中で、彼女の言葉はそんなことを忘れさせてしまうかのように温かい。
桜花は頬を少し染め、「もう」と少し怒ったご様子だった。
僕としてはいい意味での笑いだったのだが、桜花は違う意味に捉えてしまったようだ。
「いや、だってさ、こんな非常時にそんなことを真顔で言われちゃうとさ。さすがに笑っちゃうって」
「……ごめんね。でも本当のことだから、少し舞い上がっちゃった」
「うん、別に怒っているわけじゃないからな」
「大丈夫。分かってるから」
笑顔で言われてしまった。
「それじゃあ、ダウゼス。飛べ」
『了解』
魔獣たちは空へと羽ばたいた。
四章スタートです。




