三章6
放課後。
「今朝言われた通り、生徒会室に来てみたはいいが……誰もいないのはなぜだ?」
無意味だとわかっていながらも辺りを見渡してみるが、やはり誰一人として確認できなかった。
このまま帰ってしまおうかとも考えたが、座って待つことにした。
視界に誰一人居ない広々とした空間が目の前に広がっていた。
「みんなだったら、委員会の勧誘に行ってもらったよ」
「なっ⁉」
驚いて声の方を向くと、いつの間にか御川が自分の席に座っていた。
鼓動の高まりを抑えるべく深呼吸をして正常に戻すと、あらためて会長と向き合った。
「……会長。いつから居たのですか」
「変な質問だね。私はずっとここに居たとも。ただ、魔術を使って隠れてはいたがね」
隠れていた? なぜそんなことをしているのだろうか。
考えれば考えるほど疑問があふれ出していく。
「おや、ずいぶんと不思議そうな顔をしているじゃないか。まさか……魔術が使えるのは真里亜だけだと思っていたのかね?」
相変わらず、人の困った顔を見るのが面白いようだ。
「いや、そうではない。というより、その質問自体がおかしい。生徒の長が魔術を使えないのでは元からいる意味がないではないか。むしろ、私が聞きたいのはなぜ隠れる必要があるのか、というところだ」
一瞬真剣になった顔を元に戻し、会長は笑いながら言う。
「いやぁ、生徒会はこの学院の最高機関だからね。その長ともなると……いつ何時攻撃されるか分かったものではないからね。平日に一人で居るときはこうして隠れて過ごしている」
し、知らなかった。というより、この学院に暗殺者などが紛れ込んでいるのだろうか? 本気で言っているのであれば、この人は何か狙われることを裏でしているのだろうか。
「君の疑問は解消されたかね? 見たところ疑問点が増えているようだが、まぁそんなことはどうでもいいとして。君には勧誘ではなく別のことをしてほしかったから、あえて伝えなかったのだけれど……」
そう言って、自分の机から大型のクリップで留められたプリントの束を取り出し、金西に渡す。プリントにはぎっしりと問題が印刷されていた。
「こ、これは……まさか……」
プリントから、会長へと視線を移す。
会長はニコニコ顔だった。
「そう、見ての通り問題集さ。一年のカリキュラムに沿ってあるから、予習もかねてやってくれたまえよ。朝も言ったが学生である以上、そしてこの生徒会に所属している以上、成績は上位とまでは言わないがせめて赤点だけは避けてほしいのが現実だ。学院側がうるさくてね。なるべく頑張ってほしいな」
彼の言葉にまた疑問が生じた。
「では、なぜ成績が下位である私を生徒会に選んだ? ほかの優秀な人間に頼めばよかっただろう?」
お世辞でも金西の入試成績は底辺ギリギリで滑り込んだ形だ。生徒会として選出され、通達が来たとき何かの間違いではないかと思ったほどだ。
「もちろん、理由もなく君を入れた訳ではないよ」
そう言って会長は立ち上がり、金西に近づくと会長は金西の肩に手を置いた。
「君はこの学院の中で、一番お金に執着心を持っている。だから君を会計という職につかせた。ただ、それだけだよ」
軽く肩をたたかれる。……理由がよく分からん。
「それに学業のことについては影里君に一任しているのでね。私はまったく心配していない」
「なっ、いつのまに」
「ん? 三月にしていたが、何か問題でもあるのかね? 彼女は君の幼馴染だしパートナーなのだから、勉強を教えてもらうことは簡単だろう」
「そ、それは……その」
金西はうつむいて、語尾をにごらせた。その様子を見ている会長は苦笑していた。
「まあ、いろいろとあるだろうが、後は君たちで解決したまえ。お、そろそろ薫君たちが帰ってくる頃かな」
ちらりとドアのほうに視線を向ける。それにつられ、金西も向く。するとドアは盛大に開かれ副会長が飛んできた。いや、蹴りあけたのだろうが今はそれがしっくり来る表現だった。
「たっだいま!」
変わらず元気な人だ。それに続いて薫たちも部屋へと入ってくるが長瀬以外、顔が疲れ切っていた。
「その顔を見る限り、希望者はいなかったのかね?」
長瀬以外全員は顔を見合わせてため息をついた。
相当まいっているようだね。やはり誰も来なかったのだろうな。
「逆ですよ」
考えを読まれたかのように薫が重い声で言った。
「逆というと……多すぎたのかね?」
その問いに全員が頷いた。
その反応を見て、会長はにやりとする。
「ふむ……何が原因なのかね。話してみたまえ」
とぼけた口調で会長は言った。
「これに決まっているでしょう!」
そう叫ぶと、薫は背負っていたものを八つ当たりするように、会長の前に突きつけた。
「何ですか! このノボリは! こんなのを見たら誰だってやりたくもなりますよ!」
薫が手にしていたのはプラスチック製の伸縮機能を搭載した棒と布で簡単に作られたものだった。
そこには『委員募集! 引き受けてくれるものには授業単位を』とでかでかと書かれていた。
「このノボリがどうかしたのかね?」
会長はさらに笑顔で問う。
「とぼけないでください! どう見てもおかしいですよ。生徒会にはこのような権限はないはずです!」
声を荒げて薫は問う。
放課後開始早々会長から箱に入ったこれを受け取り、メンバーが集合したところで昇降口へ向かった。
そして一行は箱を開け、のぼりを見るや驚愕したのだった。会長はうむ、と唸ってから、
「別におかしな話ではなかろう。私は元より、何もせずこの委員会に人が入ってくるとは思っていない。だから、人の心理を使って呼び込むのが一番だと思った。これが理由だよ」
「だからって、勝手に成績をいじるのはまずいのでは?」
薫の横で影里が呟く。
「まあ、私だって成績をいじることはできないし……誰も成績をあげるとは言ってない。単位を与えるとだけ書いてある。高校で言う単位とは成績ではなく授業に出席していたかどうかだ。委員会は時々、授業時間でも働いてもらうことがあるからね。そのための処置だよ」
「会長、それは詐欺というものですよ」
「まあ、方法はどうであれ……本来の目的である人集めは終わりましたから、人選は僕に任せてもらえます?」
完全に会長に振り回された形となったが、仕事でもあるのでこれ以上文句は言わないようにしするため、話を変える。
「かまわないよ」
頷く会長。
「ちょっといいか」
今まで会話に参加できていなかった金西が割って入る。
彼は薫の後ろ――桜花を見て問う。
「我々は彼女とコミュニケーションがとれない。ここへおいて行かれても困る」
「「「「えっ!」」」」
その問いに対して全員が驚き、冷たい視線を金西に送った。
「桜花ちゃんは薫君とセットだよ。元也君」
「私もそう思っていました」
「……」
桜花は金西を睨んでいたりする。
金西は大きな体躯を縮こませて謝っていた。
それを見ていた薫は微笑んでいた。
これからもっと楽しくなるだろうな。そんなことを考えつつ、桜花の横へ移動。彼女の頭へ、ぽんと手をのせる。
「そんなに怒らないの。彼に悪気はないし、僕の言い方も悪かった。それに、桜花が居ないと選べないよ。僕は魔術について知識が乏しいからね」
桜花はしばらく薫を見つめてから、頷いてくれた。
「よし。きりもいいし、ここで終わるか」
『はい!』
元気な返事で今日の生徒会はお開きとなった。
続きです。




