三章3
春先の事件から一ヶ月がたった。
南星学院は独自入試のため、二月下旬に試験を行う。そこで落ちると進学できないし留年もさせてくれない。つまるところ退学させられてしまうので、受験する人は相当なプレッシャーを受けることになる。そんな厳しい条件とは無縁の薫は他校から見事に進学したのだった。ついでに、受験者の約三割は今頃途方にくれていることだろう。
そして、今日は入学式だった。校長先生や自治会長、生徒会長の謝辞で一時間ほど座りっぱなしだった。
今は放課後。本来、一年生は部活特待でないかぎり帰宅している時間だが、今日は生徒会の顔合わせがあるため、薫と桜花は校舎に残っていた。これは後で先輩から聞いた話だが、この学校は生徒会選挙をしないそうで、毎年役員決めは生徒会長がやっているそうだ。
「あと二人。どんな人が選ばれたのかな?」
独り言のように、横にいる桜花に問う。
「どう……だろうね」
「桜花はその人見知りどうにかしなくちゃね」
「むう……」
しばらくの沈黙。生徒会室に近づくにつれて、桜花の肩が徐々に震え出していく。そんな彼女の反応に薫は微笑する。その場で止まり、安心させるようにそっと肩を手で包んでやる。段々と緊張がほぐれていき、震えは収まっていた。
「しかし桜花、びくびくしすぎ」
桜花は上目使いで薫を見て、
「だ、だって……怖いんだもん」
と、かわいい発言をした。手を下ろし生徒会室に再度向かい始める。
桜花は恐怖のせいか、さっきより歩くスピードが落ちていた。
なんだかなぁ、と思いつつ桜花の手をとってやると、がしっとしがみついてきた。それと同時に彼女の豊満な胸が腕に押し付けられる。……うーん、ここは少しでも照れておくべきだろうか? しかし、妹のせいで慣れているし、いいか。
ちらりと脅える横顔を見る。
ふーむ。この人見知りをどうにかしなければ……というより、人見知りってどうしたら直るのだろうか? 人ごみの中に放置しておいたら直るかな――うわっ、これ絶対いじめだよ。
変な妄想を追い出すようにぶんぶんと頭を振る。横で桜花がまるで未知の生物でも見ているかような目で、こちらを覗き込んでいる。
「大丈夫、心配ないよ。僕がついているから」
「そう……だね」
元気のない返事が返ってくる。正直僕がいるから治らないのではと最近思うのだが、どうなのだろう。いや、数年離れて暮らしているにも拘わらずこの状態なのだから違うか。
生徒会室に着くまでの数十秒間、二人は無言だった。
四階校舎の最北端にある生徒会室に今年の(とは言っても会長、副会長ともに二年なので来年も同じだろう)生徒会メンバーは集められた。男女三人ずつ、計六人。
室内は教室の三倍の広さを持ち、その両脇にはずらりと本棚が並んでいる。中央には長机一つと椅子が八席置かれていた。
「よし。全員そろったようだね」
今日は会長が司会を担当している。「新人に押し付けはしないさ」と満面の笑みで司会を引き受けてくれた。
今は全員がその椅子に座っていて、薫と桜花は会長の隣に座っている。桜花はまだ、薫の手を握り締めていた。
「では、自己紹介をしてもらおうか……そうだな、では薫君からお願いしようか」
「え?……はい。八城薫です。書記を勤めさせていただきます。 ……ついでに規則委員会の委員長です。よろしくお願いします」
自己紹介を終え、頭を下げる。それと同時に控えめな拍手が送られた。
「では次に金西、頼む」
会長の向かいに居る体つきのいい男子生徒に視線を向ける。
「了解した。金西元也という。会計を勤める。よろしく」
とても短い挨拶だった。しかし、会長は気にせず続ける。
「では……」
そう言って会長は僕の隣にいる桜花に視線を向けた。視線に気づいた桜花は肩をビクつかせて薫の背中に隠れる。
「……振られてしまったな。仕方ない、影里君頼むよ」
金西の横に居る小柄な女子生徒だ。
「はい。影里清華です。会計監査を勤めさせていただきます。よろしくお願い申します」
普通の人達のようで少し安心した。
生徒会室ってこんなに広いんだな。と、思いながら周りを見渡す。
すると、会長の左横には灰色の物体……いや、巨大なねずみの姿があった。
「えっと……会長。横になんかいるんですが」
「はは、何を言うのだね。私の横には誰もいな、って先生! いつの間に私の横にいました?」
『え〰〰!』
突拍子なことに全員で驚いた。
「やっぱり、気づいていなかったんですか」
「ああ。紹介しよう。このねずみ……いや、彼女は木逆真奈先生。こんななりだが一応生徒会の顧問だ。今はねずみなので、一切話すことはないから話しかけても返事は帰ってこないか、「チュー」と鳴くくらいなので注意するように。それから、薫君の横にいるのは神奈崎桜花君。書記補佐だ。見ての通り極度の人見知りだそうなので、こちらにも注意してほしい。最後になるが、生徒会長の御川忍と生徒会副会長の長瀬真里亜だ。以上六人と例外一で今年の生徒会とする。約二年、よろしく頼む。解散」
会長の声は生徒会室全域に響いたのだった。
続きです。




