幸せな男の手帳
社会人の私は、ある日、仕事の帰路に乗った電車の座席に一冊の手帳が落ちているのを見つけた。
表紙には名前も連絡先もなかったが、中を覗くと、驚くほど緻密なスケジュールと、その日ごとに感じたであろう「幸せな一言」がびっしりと書き込まれていた。
「4月10日:
公園の桜が最高に綺麗だった。生きててよかった」
「5月22日:
欲しかった時計を半額で買えた。なんて幸運なんだろう」
「6月1日:
彼女にフられてしまった。でも、これは新しいチャンスにもなった。今日、運命の人に出会ったんだ!」
読み進めるうちに、私は持ち主のあまりにもポジティブで誠実な人柄に惹かれ、「絶対に返してあげなければ」という使命感に駆られた。
手帳の最後のページを見ると、「今日の予定」が書いてあった。
「7月14日:
19時に坂梨町の酒屋『よいどれ』近くの路地裏で、新しく出会った運命の人にプロポーズをして付き合う」
時計を見ると、今は18:30。場所もすぐそこだ。
私は手帳を返すために坂梨町の駅で降り、路地裏の近くで待つことにした。きっと、幸せそうな顔をした男性が現れるはずだ。
しかし、19:00を過ぎても、それらしい男性は現れなかった。路地裏に入ってみても、人の形跡は全くない。
一体どうしたのだろうかともやもやしていると、後ろから、女性が声をかけてきた。
「すみません、その手帳……詳しく見せて貰ってもいいですか?」
この手帳に心当たりがあるということは、きっと彼女こそが手帳の持ち主の新しく出会った運命の相手だろう。私はその手帳を彼女に見せると、女性は嬉しそうに微笑んだ。
「貴方ならきっとここに返しにきてくれると思ってたんです。やっぱり、運命の相手だったんですね」
彼女の手にはスタンガンが握られていた。




