悩みの綴られた手紙
ジジジジジ。目覚ましのアラーム音に目を覚ました。グーっと伸びをして、顔を洗おうとベットから立ち上がった──ところで気がついた。
ベッドの横にある、勉強机。その上にポツンと置かれている、封筒の存在に。
「なに、これ」
真っ赤な封蝋が押されたソレを手に取ってみる。差し出し人はおろか、宛名も住所も書いてない。どうしてここにあるのかも分からない。わたしの部屋にあるし、わたし宛てと思って良いのだろうか。
……ええい、ごめんなさい。
後ろめたい思いもあったけれど、突如現れたこの不思議な手紙を読みたいという好奇心が優ってしまった。豪華に見える封蝋を丁寧に、丁寧に外して中身を開く。
『名も分からぬ君へ
どうか、俺の悩みを聞いてくれないだろうか。俺はとある組織で統率を取っているのだが、どうにも部下たちには怖がられているようだ。
具体的には、
・世間話をしてスキンシップを図ろうと声を掛ければ「スミマセンッ」と何故か謝罪をされて逃げられる。
・部下たちの間で「いつも怒っている」「圧が凄い」「あの人は笑う時があるのか」などと噂をされる。
・父親からは「まあそう怒ってやるな、彼も一生懸命やってくれているんだ」と部下のフォローを入れられるなどなど。
怒ってなどいないし、圧をかけたつもりもない。俺だって人間だ。笑う時だってある。部下が一生懸命やってくれていることなど、他のだれよりも。少なくとも父親よりは理解しているつもりだ。
なのに、なのにどうして! こんなにも俺は周囲から怯えられているのだろう。俺だって、部下たちと気安く世間話がしたい。あわよくば同じ釜の飯を食いたいし、慕われたいんだ!
……すまない。取り乱してしまった。名も分からぬ君よ。こんな見ず知らずの人間の悩みを最後まで読んでくれてどうもありがとう。心優しい君に、多くの幸せが訪れるよう、祈っている。
カザミ』
「不器用な人なんだろうなぁ」
丁寧な文字と、時折溢れている優しさを感じる文章に、わたしは頬を緩ませた。
「……レターセット、あ、あった。最後に使ったの、いつだっけ。懐かしいなぁ」
ちょうど大学一年目の長期休みで暇を持て余していたところだ。暇潰しがてらこの手紙に返事を書いてみよう。
何年も前に購入した古く幼いデザインの便箋を広げる。
『カザミさんへ
貴方の悩み、読みました。
もしかしたら表情が怖いのかもしれません。例えば、眉間に皺を寄せてる癖がついてませんか。わたしの父の眉間には深〜い溝がありまして、幼かった頃は父に名前を呼ばれる度に怒られるのかとビクビクしていたものです。眉間に皺があるだけで厳しく、怒っているような印象を受けますし、一度、鏡で確認してみても良いのかなと思います。
あと、声の大きさも確認してみて欲しいです。組織を管理する立場であるそうですから、ボソボソとか細い声というのも問題ですが、大きすぎると圧を感じてしまうかもしれません。
大きなお世話かもしれませんが、役に立てば嬉しいと思い筆を取らせて頂きました。
不器用な貴方の努力がいつか実を結びますように。
凪沙』
ふう。大きく息を吐いた。手紙を書くのって、こんなにも疲れるものなんだ。封蝋なんてオシャレなものは置いてないので、適当にマスキングテープで封をする。
「返事を書いたものの、これ。どうしよう」
何せ差出人が不明なので、これをどこに届ければ良いのか分からない。……まぁ、いっか。
お腹が空いたし、朝ごはんでも食べよう。わたしは封をした手紙をそのまま机の上に置いて部屋を出た。何を食べようかなんて、献立を考えている間に手紙の存在をすっかり忘れてしまっていた。




