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第二夜 前

誰かが俺を呼んでいる……


「…………ぃ」


うぅ……。なんだか体がガチガチで痛い……。


「…………さい」

「起きなさい!!」



「……ぁぁ、」

そうだった……昨日は氷室の家に来て…、それで監視を任されて……。


「やばっ!」


「もう遅いわよ、ったく。」


既に日は登り始めており、窓からは青い光が差し込む。

「まぁ、吸血鬼は来なかった訳だし……不問でいいわよ。」

「誠に申し訳ない…」


声に籠った感情は怒りというより、呆れと軽い苛立ちを感じさせる。



彼女の服装は寝ていた時の、制服から変わっており、ラフな寝巻きのようなものになっていた。

きっと自分が起きるよりも前に目を覚ましていたのだろう、昨日はリボンによって編まれていた髪がスラッと腰まで伸びて、少ししっとりとしていることから恐らく朝風呂をしてきたのだろう。そんな姿に昨日までのとは違う印象を強く受け取る。



ようやく気がついたが、自分はまた彼女に気遣われてしまったらしい。

布団でこそないものの、掛け毛布に枕替わりのクッションが頭のところには敷かれていた。


さすがにフローリングに直ではあるため体の節々は痛いが、彼女の優しさにはどうも叶わない。


そうだ、聞きたいことがまだ残ってたんだ……


「ねぇ、このタイミングで聞くのはおかしいかもだけど……」

「俺が吸血鬼に襲われた時、なんであの場にいたのか気になってて…。それに俺をここまで助けてくれるのも無粋かもだけど、気になってたんだ。」


「ん?とりあえず、あの場にいた理由とあなたを助ける理由を言えばいいのね?」


「教えてくれるのか?てっきり、昨日の魔法みたいに断られるものだと……」

「別にこれぐらいいいわよ、あたしをなんだと思ってるの……?」


「まあ、あの場に居合わせた理由ね。理由は1つだけ」

「私の目的に直結する事よ、昨日話した吸血鬼の階梯を覚えてる?」

「あぁ、4段階あるって話だろ?」

「そう、その第四階梯の吸血鬼に用事がって、こうして日本に来てるのよ。本当なら学校にも行くつもりはなかったのだけど……っと、これは別の話ね。」

「まあ、低階梯の吸血鬼を片っ端から潰して元凶のご本人に出てきてもらおうって魂胆よ。」

「理解できた?」

「あぁ、わかった。」


正直、なぜ彼女が吸血鬼を追っているのかを聴きたくなるが、きっとこれ以上の追求は許してくれない。聞いてしまえば、そっち側に大きく踏み込むことになってしまう……。


「あと、あなたを助けた理由ね……」


正直に言うと、本命はこっちだ。なぜ彼女がここまで俺を助けてくれるのか、不思議で堪らなかった。

本当なら突っぱねたとしても誰も文句も言わないし、面倒事も減る。

自分ながらにも、足手まといの自覚はある。

彼女は強かった……だからこそ、理由が知りたかった。


「襲われてる人が居たから助けた…じゃ、ダメ?」


----まあ、予想はしていたし、当たってもいた……。こんな人がいるんだなと感心してしまう。俺にはそんな器量のでかい事は例え嘘でも口にすることが出来ないだろう。


「といっても、他にも理由は色々あるのよ。」

「他に?」

「昨日も言ったでしょ……?吸血鬼が特定の個人を追いかけることは必ず裏があるのよ。だから……」

「……だから?」


「----はぁ。……簡単に言えば、あなたに興味が湧いたのよ。」

「倫理と法律が無かったら、今頃あなた事を”解剖”して、原因を探りたくなるぐらい……。」

彼女の瞳が一瞬にして冷たく、鋭く、俺の体に突き刺さる。



「ーーーーーーは……?」



完全に自分の意思と関係なく、声が出る。

背筋が凍り、一気に嫌な汗が吹き出しそうになる。


「あくまで比喩よ、真面目に受け取らないで?」



「----趣味の悪い冗談は止めてくれ、それを流せるほど余裕は無いんだ……」


口ではそういうが、彼女は本気だ。

俺への興味が溢れんばかりに伝わる。もちろん悪い意味で。好奇心は猫を殺すと言うが、彼女はこのままなら俺を殺すのではと感じるほどに……


「ボーッとしてないで、さっさと風呂入りなさい。学校遅れるわよ。」


「----へ?」


学校?風呂?このタイミングで???


「待ってくれよ氷室!俺今吸血鬼に狙われてるってそっちが教えて来たんだろ!!」

「ええ、そうよ。」

「なのにそんな呑気に学校行くってのか!?」

「なに?私に逆らうの……?死にたいんならそうしなさい。興味があるとは言ったけど、肩入れするとは言ってないわよ。」


昨日の雰囲気が嘘のように、冷たい……。

どうやら俺の目はなかなかに腐っていたらしいが、それでも彼女について行かなければならない。

それだけが俺の生き残る道だからだ。


「わかった……。」


風呂を借りる。

昨日の疲れが相当溜まっていたのか、シャワーを浴びているだけなのに疲労がスっと抜けていく感覚がする。

そんな中で思考されるのは、彼女の言葉。

「興味がある」「肩入れはしない」――その意味を、ようやく冷静に考えられる気がした。

そりゃそうだ。何かしらの代価も無しに、人を助ける何て、相当なお人好しか、人格破綻者の2択だ。


というか、本当になんで学校に行くんだ……。


ほんの数分のシャワーだけでもかなりの気分転換にはなった。

脱衣所には、さっき脱いだはずの下着類がなぜか洗濯から乾燥まで終わっており、柔軟剤の匂いと、乾燥直後特有の暖かさを感じる。


………本当に彼女の事がよく分からない。

今のような、自分を気遣う彼女が本物なのか……

それともさっきの冷たい眼差しをしていた彼女が本物なのか……

はたまたその両方か……。


だが、考えを変えていくことに決めた。

ただ守られるだけでは、彼女に悪すぎる。

彼女にとっては「興味がある」だけでも守る対象としての価値はあるのだろうが、俺はそんな事は望んでいない。何かを返してやらなければ気が済まない。


「ようやく出てきた、さっさと行くわよ。ここ学校からそこそこ距離あるから。」


既に彼女は制服に着替えており、特徴的な赤のリボンで腰ほどまで伸びていた髪は綺麗にまとめられ、湿気を含む綺麗な艶が、朝日の光を淡く返していた。

まさに、昨日の昼のような可憐さを感じさせる。……しかしカバンの中から脇差がちょっと見えてるのは……うん、恐ろしい。


彼女の言う通り、ここから学校はかなりの距離がある。

駅も近くには無いため、徒歩で、遠くの駅まで行く必要が出てくる。

時計は6時前を指しており、街はまだ寝ている。


扉を開けると、冷気が一気になだれ込む

「寒ッ……」

「あら、そんなに?」

「そりゃ寒いに決まってるよ、というより……なんだその格好。」

まだ秋とはいえほとんど冬に差し掛かっている。

そんな時期に、手袋やネックウォーマーなどの防寒着無しで、登校するのはさすがにどうかと思う。


制カバンを開けて、彼女にマフラーを手渡す。

自分としては、これをつけて登校したかったのだが、これも彼女へのお礼だと思って渡そう。


「……なにこれ?」

「使ってくれ。正直、そんな格好でいられると見てるこっちが寒くなってくる。」


「----」

不思議そうに手渡したマフラーを見つめてくる。

「----これ、どうやって使うの?」


「え?」

「え?」


どうやら彼女は本気でマフラーの使い方を知らないらしい。

目を白黒させながら手に持っているマフラーと俺を交互に見る。

……まるで、とんでもなく珍妙な何かを渡されたかのような反応を。


「えっと……」

彼女に渡したマフラーを1度回収する。


「ちょっと失礼するね……」

彼女の艶やかな髪に触れ、巻き込まないようにマフラーを巻いていく。

なんというか、何も悪いことはしていないはずなのに、罪を犯した気分になる……。

ここまで近づくと、彼女髪の匂いまでどことなく漂ってきてしまいそうで、極力嗅がないように徹底した……。



「へー、こんなものがあったのね……なかなか暖かいじゃない。」

「……まあ、有難く頂戴するわね。」


あげるとまでは言っていないのだが……まあ、彼女が満足そうだし良しとしよう。


昨日と同じ様に、彼女の2歩後ろを歩きながら登校する。

こうやって見ると、本当にただの女の子みたいだ。


駅に着き、いつものように改札を通り電車を待つ。

簡単に計算したが、あの時間に家を出ていなかったら割と遅刻寸前の距離だった。


さすがにこの時間帯に若者はおらず、スーツを着た会社員のような人しかいなかった。

ホームに着き、5分後に来る電車を待つ。

ホームのベンチに座り、癖で携帯をパカッと開けてニュースを見る。


------------


行方不明者続出


------------


ここ数日になって、行方不明者の増え方がどんどん増えている……。きっとあの吸血鬼達が関係しているんだろう。

氷室は親玉に用事があると言っていたけど、どういう意味なのか……聞いていいのかダメなものか……。


「何見てんの?」

「え?……あぁ、ニュースだよ。行方不明事件の。」

「昨晩も1人消えてるらしい。」

「そうなのね……。」

「興味無いのか?」

「あるわけないでしょ。別に私と関係の無い人間が1人2人消えたところで、なんの影響も無いもの。」


そういう問題か……?


電車がホームに入ってくる音で会話は強制的に終了する。


ホーム同様、電車の中もスーツ姿の会社員ばか…り……?

昨日、電車で見た海外の女性がいる……、昨日とは全く違う方向の電車のはずなのだが、何故ここにいるのか。

その瞬間、目が合ったような気がした。

ほんの一瞬すぎて勘違いかと思ってしまうような、そんなレベルの一瞬だった。


「久我、あんまりアレを見ちゃダメ。」


小声で彼女が俺にそう言う。

疑問を問いかける前にその答えは帰ってきた。

「あいつは、言わば裏世界の警察みたいなものなの。」

「絡まれたら確実に厄介なことになる。とはいえ、喧嘩しに来たわけでもないんだし、変に手出さえしなきゃあっちも無視してくれるわよ。」


「は、はぁ。」


そんな返事しか出来なかった。やはり、彼女に恩返しをしようにも知っていることが少なすぎる。これでは恩の返しようがない。

だからといって知ろうとしても帰って彼女を不機嫌にさせてしまうだけだ。

むず痒い……


座席に座ると氷室もノータイムで隣に座る。

意識している訳では無いが……もう少し躊躇いとかないのだろうか……


さっき警察だと言われていた人は対角線上の座席に座って本を読んでいる。

ごく普通、昨日と似たような私服に本……今回の表紙は夢十夜か…………夢十夜!?


「見るなって言ったでしょ。ただでさえあの集団変人多いんだから。」


そう言いながら氷室は俺のほっぺを割と強めにつねってくる。

「いだい!ちょっ、マジ!」


------------

数十分ほど電車に揺られ、ようやく目的の駅に着く。


ようやく隣の氷室から開放される安堵でそっと胸を撫で下ろす。

椅子から立ち上がり、ドアの前で開くのを待つ。


外には大勢の人がおり、ちょうど通勤ラッシュが始まるタイミングらしい。

ドアが開き、先に電車から降りる人が動き出す。

その人混みの中……


「何故貴方が……」


ボソッと呟くような声なのに、他の騒音よりもハッキリと聞こえた。

声の主は分からない。

分からないのに何故か分かる。

そう、あの外国の人だ。

警察だとか言われていたあの人だ。

一体なんなんだ……

こんな気味の悪い感覚は初めてだ。

心臓が脈打ち、異常を知らせるが、脳は何一つ異常を把握出来ていない。

把握出来ている事としたら異常が起きているという事実のみだった。



「早く動きなさい」



氷室の声によって現実に戻される

ホームには既に人が消えており、電車も動いて消えてしまっている。

「ーーーぁ……ぇ?」


「何ずっと突っ立ってるの……」


ようやく自分の状況を理解し始めた。

彼女からしてみれば、自分は駅のホームを移動していたら急に放心状態になったのだ。

訳が分からないだろう。かくいう本人の自分も何故こうなったのかが分からない。


「まあいい、とにかく学校に向かいながら話してちょうだい。」


------------

さっきと同じように、彼女の後ろを歩いていたが、会話をする為か2歩ほどだった幅は大きく近付いていた。


「大方、さっきの女ね……何か言われたの?」

「特に、内容といえるほどの内容は……」


本当に、言われた言葉の内容としてはほとんど無いに等しい。



「----なるほどね……分からない事だらけだけど、1つだけ言えることがあるわ」

「よくここまでまともな人生送れてきたわね」


彼女の言っていることが段々と理解できるようになってきた。

きっと自分は気付いていないだけで彼女達からすれば異常性の塊なのだろう。そうでもなければ説明がつかない。


「吸血鬼には追われて、無式庁にも何かしらの因縁があるって……。例え狙ってもそんな芸当中々できないわよ」


「無式庁?」

「さっき、警察って言った奴の所属している組織のようなものよ。」


また知らない単語が出てきた。


「簡単にどんな組織か教えてくれないか?」


「あんまり、こっちに深入りさせたくないってのに……はぁ、分かった。簡単に説明するわね」

「さっきも言ったように裏社会の警察のような存在だけど、その役割の本質としては表社会に裏社会の存在が露見するのを防ぐのが目的ね。だから魔法を使った犯罪をしよう物なら、無式庁に最悪殺されるわね。それに魔法自体を毛嫌いしている節もあるし、どんなイチャモンつけられるかわかったものじゃない。」


「そしてもう1つの役割は吸血鬼のような類の抹殺とかもアイツらの仕事にカウントしていいわね。」

「じゃあ、俺を追いかけている吸血鬼も倒してくれるんじゃないのか?」

「可能性はあるけど、かなり低いと思って。」


「そもそも、警察部隊と討伐部隊でアイツら明確に区分分けされてるの。」

「そして討伐部隊の人数はごく少数。裏社会でもトップクラス以上の能力を持つ奴しか居ないの。」


「しかもここは日本。」

「無式庁の本拠地はエジプトって言われてるから、こんな辺境の地にそんな化け物を送ってくるとも思えない。」


情報量の暴力で思考停止しそうな脳みそをフル回転させて、ひとつの答えを出す。

「とにかく関わるメリットとデメリットだと、デメリットの方が大きいってことか?」

「そう。なかなか分かるようになってきたじゃない」



いつの間にか学校まで近くなっており、あと数分もすれば校門を通る距離だ。

「お昼休みに別校舎の三階教室に来て。そこで今夜の作戦会議するわよ」

「わかった」


そんな事を言って、彼女は駆け足で校門を通り抜けて行った。


自分はそのまま歩きで校門を通り、下駄箱で履き替え、教室まで歩く。


教室の空気は昨日とほぼ変わらないが、気持ち行方不明事件の話題が多く感じる。

カンタはどうやらサボりのようだ。


チャイムが鳴る……

------------



授業に全く集中出来ずに昼休みまで来てしまった。

授業中も、吸血鬼の事、氷室の事、自分の事、無式庁とやらの事が無限に脳のリソースを占め続け、まともに受けられなかった。

というより、まともに受けられなくて当たり前だ。

自分の命がもしかしたら今夜なくなる可能性があるのだ。

不安になるなって方が無理ある。


不安からか、昼食を取るのも忘れて早足で別校舎に向かう。


ガラッと勢いよく空き教室を開けると、既に氷室…………と無式庁のあの人が居た。


既に臨戦態勢を取っていた2人がこちらを見て、一旦ストップした。


「----思ってたより早く来たわね。」

「氷室……これはどういう状況だ?」

「見てわかるでしょ?こいつが久我にストーカーしたのよ」

「人聞きの悪いことを言わないでください。私は、私の仕事をしようとしただけです。」


状態はよく掴めないが、とにかくこの人に捕まったらダメという思念を氷室からめちゃくちゃ感じる……


「私の仕事、言いましたよね?」

「一般市民の保護……。おかしな点はないでしょう?」

「あなたの保護っていうのは私達にとって拉致って言うのよ。……分からない?」


淡々と話す2人だが、殺気が明らかに抑えられていない。

2人の雰囲気が更に険悪になっていく。

今にもぶつかりそうな程。

窓がカタカタと音を立て、置かれていた机もガタガタと嫌な音のステップを踏む。

教室どころか別校舎全体が軽く震え始める……


本気でまずい……

早く2人を止めないと巻き添えを喰らいかねない……!


「とにかくここではやめてくれ!!」

「「チッ」」


怖っ!!


--------

何とか2人を落ち着かせて椅子に座らせることに成功したが……


「…………」

「…………」


とてつもなく空気が重い!!!

とにかく俺が仲介をしないと進まなそうだ……


「----えーっと……」

「マリエル……、マリィって呼んでもらって構わないわ」

「じゃあ、マリィさん。直球で聞きます。あなたの目的は?」


「私の目的は一般人の保護です。それ以上でも以下でもありません。」

「なら、もう1つ質問……」

「どうぞ」

「”あんた”と俺、一体なんの関係があるんだ。」


その質問をした瞬間、俺は座っていたはずなのに体は宙を舞い、天井を見つめていた。

バタンと、音を立てて思いっきりに教室の床に体を打ち付ける

「痛ッッッ!」


何が起きた。

理解はしているが、全く分からない。

急にマリエルに投げ飛ばされた。


「すみません!!」

「え?」


マリエルは飛ばされ……飛ばした俺の元に駆け寄り怪我がないかなどを聞いてくる。

マリエルの様子からすると投げた本人すら不本意、または反射的にしたのだと分かる。


「今のは投げられて当然よ」

「俺、なんかしたっけ……」


氷室にそう言われるが全く心当たりがない。


「気づいてないの?あんた、さっき相当殺意漏れてた。反射的に投げ飛ばされるだけで済まされたなら、むしろお釣り返ってくるレベルよ。」


殺意があっただなんて、そんなつもりは一切ない。

ただの疑問を投げかけていたつもりだ。


「もしあの殺意が私に向けられてたら……冗談抜きであんたのこと反射的に殺してた。それぐれぐらい異常な殺意を出してたの。」

「自覚してないのはハッキリ言ってどうかしてるわよ」


氷室の様子的に、どうやら本当に殺意が出ていたらしい。それも相当。

ただ、もちろんだがそんなつもりは一切ないし、自覚もしていない。


「ーーーーはぁ。とりあえずあんたの吸血鬼に追われる理由に関係するかもしれないし、1歩前進と前向きに考えましょう。」


俺の吸血鬼に追われる理由……

結局のところ不明点が多すぎてなんのヒントにもなっていない気もするが、無いよりマシと考える他ないだろう。


ここでマリエルが話を戻す。


「それで、あなたと私の関係についてですか?」

「あ、あぁ……その事について聞きたかったんだ。」


「関係は……無いですね、何一つ。無理やり挙げるとすれば、同じ人間という関係しかないぐらいに。」

「何故そんなことをお聞きに?」


「いや、自分でもなんでこんなことを聞いたのかよく分かってないんだ。こっちから聞いたのに変な事を言ってしまってすまない……」


正直な話、あの質問をした一瞬だけ体が勝手に動いた……というより自分の体が自分のモノじゃ無くなったような……そんな感覚に陥っていたが、その感覚はまるで勘違いだったかのように体から抜けている。


「しかし、投げてしまったのは私の責任もあります。」

「ひとついい事を教えてあげます。これで手打ちにしてください。」


「いい事?」


「はい。今のあなた達に取ってかなり重要な情報ですよ。」

「その様子だと、吸血鬼に追われてる感じですよね?」

「残念ですがそれに追加で、無式庁に久我くんは指名手配されてますね。」



「「はぁ!?!?」」

氷室とほぼ同時に叫んでしまう。

サラッととんでもないことを言われ、思考が停止する。

無式庁ってあれだよな?裏社会の警察とか言われてたあれだよな??


「無式庁にはどれぐらい知ってますか?」


「まあ、裏社会の警察的なやつって……」


「半分正解半分不正解ですね。」

「確かに警察的な役割はしていますが、その本質は表社会に魔法を露見させない為というのが目的です。」

「なので、吸血鬼などの魔の類の討伐なども仕事に入ってますね。まあ、本当に1部の部隊だけですけど。」


「は、はぁ……」


「少し話が逸れましたね。とにかく言いたいこととしては、本来なら久我くんが指名手配をされるということはありえないと伝えたかったんです。」


間髪入れずに氷室が聞く。


「つまり、指名手配は裏がある……ということ?」


「ご名答、本来なら犯罪に魔法を使用した者やそれに類する行為でもしない限り、指名手配がつくことはありません。ましてや一般人に。」

「そして、わたしは独断でここに来て調査……まあ、尾行をしたわけです。」


この人、組織よりも先に見つけるってなにげにヤバいことしていないか……?


「結果として、私は久我くんを無害と判断し保護する事に決めた、という訳です。」


「本当か!?」


「何反応してんのよ。まだ信頼できるレベルに至ってないわ。」

「例え、貴方が本当に久我を保護するとしても、無式庁はそんなのお構い無しに久我を捉えに来るわ……貴方が把握している通り、吸血鬼にも目をつけられてる。」

「あなた1人でこれを捌けるとは到底思えないわよ」


氷室の意見を聞いてようやくハッとする。

確かにこの人に保護されたとしてもその先の保証は全くされていない。

そもそもこの人が保護する、ということ自体が嘘の可能性だってある。

こんな簡単なことすら見落とすほど自分の精神が追い詰められていたことをようやく自覚出来たかもしれない……



オマケ

設定

無式庁

元々は魔法を嫌う魔法使いという矛盾した者の集まりによって構成されていた。

一般社会に影響を出さない為という建前で魔法使いを取り締まっていたりしていたが、時代が流れると、その取り締まるという部分のみが残り、裏社会の警察と言われるようになった。

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