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第一夜

不思議な夢を見た。

周りの人は、俺を「    」と呼ぶ。

知らないはずなのに、どこか懐かしい。



ミーンミンミンミン

ミーンミンミンミン

ミーンミンミンミン

ミーンミンミンミン



日差しが肌を焼くように突き刺さる。

手には赤。視界も真っ赤。俺は立っている。

目の前の男は地面に沈んでいた。

肌の血の気はすでに失われ、赤い池が男を中心に静かに広がっていく。

その周囲には、切れた糸のようなものが散らばっていた。

男の流す赤に染まらない、白い糸。

蜘蛛の糸のように細く頼りないそれは、何か大事なものを繋いでいた気がする。

だが、その糸はとっくに意義を失っている。

何かを繋いでいた痕跡だけが、ただ残っていた。

それを眺めている。

ただ、眺める夢。

~~~~~~~~

「はぁ〜〜……」

自然とため息が漏れる。

たまに見る、あの謎の夢。

いつも同じ光景、同じ感覚。

初めて見たのはいつだったか。

はっきりとは思い出せないが、子どもの頃に見て泣きながら親の布団に潜り込んだことだけは、妙に鮮明に覚えている。

べっとりとした生暖かい感触。

鼻を突く鉄の匂い。

どこまでも現実めいていて、目が覚めても感覚はしばらく残り続ける。

最悪の目覚めだ。

そんな感覚は残るのに──あの「    」だけは、いつも思い出せない。

夢の中で呼ばれていた、俺の名前。

……まあ、所詮は夢だ。そう切り捨てて、学校に行かなくては……。


一通りの支度を終え、階段を降りリビングに向かう。

時計を見ると2本の針は6時を示している。

「瞬?今日はやいのねぇ」

そんな事を言わないで欲しい。せっかく息子が早起きしたのだから。という気持ちを抑えて朝の挨拶をする。

「おはよう母さん。」

「はい、おはよう。」

食卓には既に空になったお椀があり、母は既に朝食を済ませたことが分かる。

朝から話のネタはあったのだが、話せそうになく残念だ。

母は仕事の準備をしている途中らしい。

既に焼かれた状態のウインナーと目玉焼きがフライパンには乗っており、自分の分だと理解する。

皿を取って、既に焼かれた2つのおかずを移す。

その間に母は仕事に行く時間になり、扉の開く音と共に

「行ってくるからねー」

と妙に元気のいい声を出している。

ただ、そんな元気を見せつけてくるような母と裏腹に

「んー」

と、適当な返事が出る。

玄関の扉が締まり。

自分一人だけの空間になる。

既に父は他界しており、原因は不明で警察には事故死と処理されているが、ガキの頃の俺でも分かるぐらいには不可解な点が多く、幼い頃の自分はそれを母に訴えたが、母が追求しようとしないため、いつしか自身もそういうものだと思うようになっていた。

無力感もあるし、なぜこうなってしまったのかと何度も思っているが、今だと諦めてしまっている自分がここに入る。


朝食をゆっくり済ませても、まだ余裕がある。

とはいえ、やることも無いので家を出る。

始業時間は8時半。

現在時刻は6時半で、行くのにかかる時間は50分程だ。

靴を履き、玄関の扉を開けて、誰もいない家に向かって「行ってきます」と言う。

先程の夢とは打って代わり、少し寒さを感じさせる、秋に差し掛かっている。

乾燥した空気は肌に合わず、荒れてしまうので、勘弁願いたい。

駅に着き、改札を通り、電車を待つ。

今日は2本ほど早い電車に乗ることになりそうだ。

駅のホームには人影は少なく、まだ朝の静寂の空気を纏っている。

電車を待ちながら携帯を開き、ニュースを確認する。

--------

行方不明続出

--------

そんな記事が目に入る。

内容は至って簡単。

この街で数週間に渡って行方不明者が続出しているというものだ。

もちろんこの事件のことは知っているが、あまりにも非現実的な事ばかりが噂されており、話半分にしか聞いていない。

吸血鬼のせいだ、だとか、政府の陰謀だ、などと言いたい放題されており、その噂が人歩きしている状態である。

ただ、この行方不明が発生していること自体は紛れもなく事実。

人の命を使って自分の主義主張をするのはどうかと思うが、そういう人間もいることを受け入れなければやっていけない気もする。

電車がホーム滑る音で現実に引き戻される。

2本も早いと電車はスカスカであり、椅子にも難なく座れる。

電車の中には、ちょこちょこ人が乗っており、スーツを着た人。制服を着た人、大学生っぽい私服を来た人がいる。

大学生っぽい人は、海外の人だろうか……?

顔立ちがアジア系ではなく、西洋系っぽさを感じさせ、シャープで整っており、鼻筋が通っている。しかし、どちらかと言えば可愛さを彷彿とさせるような柔らかさを持っているメガネ美人さんだ。

まあ、あまりジロジロ見るのは良くない。

彼女は幸い、読書をしているようだ。

タイトルは……羅生門……?えらく渋いな。

心の中でツッコミをし、窓の外に視線を移す。

日がどんどんと上がり、街が本格的に目を覚ましていく。

目的地に着く。

ホームに人が増えており、本格的な通勤ラッシュが始まろうとしている。

バタバタとする人混みを分けて何とか改札を通ると人はぐっと減り、普通に歩けるようになる。

寝起きから忙しなく動く街の風景を流し、道を進む。

学校まで近づき、周囲の風景には同じ制服を着た学生が同じ方向、同じ目的地に歩いている。

ただ、時間も早いからか、いつもの風景より、騒がしさがなく、ゆったりと歩く人ばかりである。


教室に着くと、既に人は点在しており、集まって話している者、机に伏せて寝ている者がいる。

呆然としながら、何も書かれていない黒板を見つめる。

「はぁ〜」

勝手にため息が出る。

機嫌が悪い訳では無い。ただこの時期は何となく疲れる。

高校三年の秋は、受験戦争の始まる時期であり、教室の空気感も若干ピリつくからである。

自分も勉強しなければとは思うのだか、やりたいこともなく、目標もない。

ぶっちゃけ、普通に飯食えて、普通に休めて、普通に死ねるぐらいの人生が自分としては望ましい。

まあ、普通が意外と難しいこともあるし、そういうのを甘ったれた考えとでも言うのかもしれないが……。

そういうわけで、学校に来るのが若干億劫になっている。

気がつくと既に時計は8時20分になっており、教室はいつもの騒がしさを取り戻す。

「よっ久我!いつも通り湿気た顔してんな!」

「うるさい、余計なお世話だ。」

やかましさなら誰にも負けないこいつは大西カンタ。

中学からの腐れ縁で未だに絡んでくる。

「朝から学校来てるとか珍しいな、雨でも降るのか……?」

「失礼だな!!お前!! 俺だってたまには真面目に授業受けますよ。」

何当たり前のことをすごいことっぽく言ってんだこのバカは。

「お前…出席日数とか足りてんのか?」

「ん〜、まあ行けるだろ!」

ダメっぽそう。俺が言えたことではないが、こいつの将来が軽く心配だ。


「そーいや、ニュース見たか?ほら、行方不明の……」

「あぁ、ずっと続いてるな……俺も今朝見たよ、世の中陰鬱なニュースばかりやってる」

「そうなんだよなぁ、こういうことが起こる度に、深夜の警備が強化されっから、遊びずらくってたまったもんじゃない」

「なんだ、ならいいじゃないか。お前の素行もそれで治るなら、被害者達も浮かばれる。」

「お前なぁ……ただ、実際起ってるわけし、最近は夜遊びも控えてるって訳よ」

「なるほど、それで暇だから学校に来たと」

「yes!」

こいつの元気はどっから出てきてんだ……


キーンコーンカーンコーン


いつの間にか担任は教室に入ってきており、席に座るよう生徒たちに促す……


--------


四時限目の終わりを知らせるチャイムがなる。

さて、昼飯を食べよう。

「飯行くぞ!!!」

さっきまで教室の後ろの方でイビキをかいていたやつが話しかけてきた。

「はいはい、混む前にさっさと食堂行くか…」



食堂に向かう途中、あまり見たことの無い、可憐な雰囲気を纏わせており、特徴的な赤いリボンの髪飾りを着けた女生徒が目に入る。上履きの色的に3年生だ。

通り過ぎた後に、

「あんな子、3年生に居たっけ?」

「あ?あぁ、氷室か……」

「何か知ってるのか?」

「1年の頃にちょっと狙ってたんだが……思ったよりこっぴどくやられちまって……軽くトラウマなんだわ……」

カンタは全身を使って恐怖を表現するようにガタガタ震えている。

「とりあえず、お前が悪いな。それにしても、なんで俺はあの子を知らないんだ?」

「詳しいことは知らんが、家がよっぽどデカイらしくて、海外によく行ってるとか行ってないとかで、あんまり学校に来てないとかの噂だな。」

「へー」

「何?お前狙ってんのか…?やめとけってまじで、アイツだけは、」

「そういう訳じゃない、ただ見慣れないから気になっただけだ」

「お前の恋は応援するが……あいつだけは止めとけよ……?」

「だ!か!ら!違うって言ってるだろ。」

「わかった!わかったから肘打ち止め!」


気づいた頃には食堂に着いていた。

駄べっていた分遅くなってしまい、席の大半が生徒によって埋まっている。

人の話し声や、食器同士によって鳴る、ガシャガシャといった音。

とりあえず食券機にお金を入れて食券を買い食堂の人に渡す。

カンタも手馴れた様子で食券を買い、渡す。

思いのほか早くトレイが出てきたので、バランスを崩さないように気をつけて持つ。




「ゲ。お前またその定食頼んでんのか。よく飽きねえな、」

「お前も大概だぞ。毎回カレーかカレーうどんって……子供じゃあるまいし。」

「ム……」

反応まで子供になった……


食堂の話題は受験、進学といった話題ばかりだが、やはり行方不明事件の声が一番多く感じる。


「行方不明事件についてどう思うよ。」

「どう思うって言われても…」

どう思う……か……

そりゃあ誰かが死んでるかもしれないっていうのは悲しいし、悼むべきだとは思うが、それでもあくまでニュースなどや、人伝で聞く話でしかない以上、どうやっても他人事の域を出ない。

それでも、

「やっぱり、悲しいよな。いくら他人でも。」

「ふーん。」

聞いといてなんだその反応。

「いや……実は俺の遠縁ではあるが、親戚のおっさんが、その行方不明事件に巻き込まれちまったらしくてよ。なんというか……こう、聞きたくなっただけだ。あんま気にしないでくれ。」


参った……。こんな空気になるとは思っていなかった。こいつがどんな言葉を求めてこんな事を言ってるのか分からないが、とりあえず……

「あんまり気に病むなよ、気が利かないかも知れないが、こういうのは犬に噛まれたと思うしかない。」

「はぁー、そういうもんかねぇ……」

既にカンタは完食しており、机に両肘をついて項垂れている。


こういう時、どういう反応をすればいいのか困る……


--------


キーンコーンカーンコーン


放課後の始まりを知らせ、生徒達を解放するチャイムが鳴る。

既に外は赤く染まっており、校門を通る生徒達によって彩られる。

そうだった。今は行方不明事件のこともあって、部活は禁止になっていたんだ。

通りで、終わったばかりなのに人が多く帰っているように見えるわけだ。


……俺も帰るか……




校門を抜けて、朝来た道を戻る。

家に戻ってやる事など特にないが、足取りは少し軽い。




電車に揺られ、改札を通り、家までの道のりを歩く。


そこでようやく気づいた。


誰かに着けられてる。


足早に道を歩く。

やつとの距離は広がるどころか更に近くなる。

「はぁ、はぁ……。」

なんだか頭が痛くなってきた……。

とにかくやばい。

早く、あいつから離れないと……。

走る。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

意識が朦朧とする……。

走る。

歩いているはずのやつとの差は縮み続ける。

走る。

それでも差は小さくなっていく。

足に乳酸が溜まる。

1歩も動けない……。どれだけ願おうとも足は応じてくれない。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

根性だけでは越えられない肉体の限界を感じる……。

呼吸のリズムも苦しく、

時間感覚も崩れているのか……既に月は登りきっており、街頭だけを頼りに進み続けていた。

しかし、既に限界を超えていた足は1歩も進むことを許してくれない。

振り返り、膝が力無く抜け跪く。

そして、死ぬ前にヤツの姿を目に焼きつける。



真っ暗闇の道にいるこいつを、街頭だけが照らしている。

魂が叫ぶように、脳が本能的に危険信号を体に送り続けるが、既に限界を迎えた体はそれに反応をしてくれない。

誰に言われるまでもなく、本能的に理解をさせられる。

目の前にいる”ソレ”が行方不明事件の犯人だと。


白く血色の悪い肌、虚ろな目、明らかに日本離れをしている服装。自分の知っているどの感情にも当てはまらない表情。

そして……


街頭によって作られるはずの影が無い……。


「吸血鬼……存在するんだ……。」


最後の酸素をそんなくだらない思考の為に使ってしまった。


もう目の前に来ている

体は動きを止めて、休憩をしているはずなのに心臓の動きは整うどころか、近くなればなるほど、更に不安定になる。


「…………っ……!」


視界に白いもやがかかり始め、本格的に気を失う前兆…………かと思いきや、謎の冷気を感じる。


どうやらこの吸血鬼から出されている訳ではないらしい。


吸血鬼は立ち止まり、地面にへたり込む俺ではなく、背後にいる誰かを見ていた。


「……」


「まさか……この街に表れるとは……」


高くも芯のある、女性の声が聞こえる。

それにつられて頭だけを動かし、何とか後ろの人の正体を見ようとする。

見覚えのある学校の女子制服に、特徴的な髪色。

可憐な雰囲気を纏わせながらも、その表情からは凛々しさと、芯の強さを感じさせる。


「まあ、今はいいわ……先に片付ける……!」


氷のつららのようなものが何本も飛翔し、目の前の推定吸血鬼に突き刺ささり、それこそ胸に風穴が開くようなサイズだった。



しかし、突き刺さってもなお、多少よろける程度で表情ひとつ変えずに、その場で立っている。


「チッ……。想定より階梯が上だったか……。今の装備じゃ、コイツの不死性を突破するのは時間が食われるわね……。」

何を言っているのかは分からないが、とりあえずあまり宜しくない状況らしい。


「そこのアンタ!死にたくないなら立ちなさい!」


「はっ、ハィ!」

思わず返事をしてしまった。

一瞬の安らぎを得ていた体は何とか立ち上がることを許してくれる。


「こっちに!」


鉛のような足を何とかして動かし、彼女に近寄る。

「早く!!!」

その間も、彼女はつららのようなものを、あの化け物に飛ばし続けている。


何とか彼女の元にたどり着いた。

「いい?絶対に傍を離れるんじゃないわよ!」


彼女を中心とした周りに突風が吹き始め、謎の発光を始める。

足元には魔法陣のようなものが浮かび、周囲の冷気は彼女の元に集まるようにどんどん気温が下がる。



数秒の静寂を破り、彼女が口を開く。



氷塊庭園(ラビリンス)!!!」


その瞬間、怪物の足元に巨大な魔法陣が展開され、そこから巨大な氷塊の壁が囲むようにそびえ立ち、怪物を封じ込める。


「………………」

俺は黙って、見入るように彼女の戦いを見ていた。

光がどんどんと薄くなり地面の魔法陣のようなものも消えていく。

温度は少しづつ周りの温度と混じり合い、元の気温に近づいていく。


「はぁ……。あんた、無事?怪我してない?見たところ同じ学校よね?」


一息ついた彼女が俺に話しかける。

「あ、あぁそうだが……じゃなくて、まずは……助かった……けど……」

聞きたいことが多すぎて脳が追いつかない。

まずはとにかく……


「氷室さん……だよね……?」

「えぇ、そうよ、何?私の事知ってるの?」

「いや、ちょうど今日知っただけだよ…」


そんな事、今はどうでもいい。とにかく訳の分からないことが多すぎる。

「それより、あれは何だったんだ?君が使ってたよく分からない攻撃みたいなのは?なんで君がここにいるんだ…!」


「落ち着きなさい……。むしろ聞きたいのはこっちの方」


「……は……?」


俺に聞きたい事?こちらとしては、意味の分からない事だらけ過ぎて、それどころじゃないんだが、それでも彼女に助けられたんだ、答える義理がある。

「わかった。でも後でこっちの質問にも答えてくれ。」

「もちろん分かってるわよ。」

彼女の質問が始まる。

「質問は1つ、吸血鬼が1人の人間を必要に追い回すなんて事は、基本的に理由がないとありえないの、しかもあの階梯だと、恐らく思考もある程度可能そうだし……。」


やっぱりあれは吸血鬼だったのか……


「その様子だと、こっちの世界に足を突っ込んだ事は無さそうね……。あんた、何か心当たりは?」


「吸血鬼とか階梯とか急に言われても分からないけど、少なくともあんなヤツ知らないし、追われる理由も分からない。」


「ふぅん……」

そんな疑惑の目を向けられても……


「それより、早く説明してくれ。俺があんたらが一体何をしていたのかが全く分からなかった……。」


「それよりも、早めにここを立ち去るわよ。あくまで私の氷塊庭園は封じることに特化しているだけで、殺傷力は皆無に等しいもの。」


「アレがまた来るのか!」

「そんなに心配しないで。あと数時間は持たせれる。その間に遠くに行けば夜明けまで時間は稼げるわ。」

「そうね……本来ならこれ以上関わらせないのがいいのだけど、貴方が狙われてる以上は……。そうね……決めた。私の家に来なさい。あそこならここから十分距離も取れるし、武器の回収もする必要があったから丁度良い。分かったわね?」

「え?いやでも……」

「分かったわね?」

「わかった………。他に頼れる人もいないし、ついて行かせて貰うよ。」

--------

歩き出してから2時間以上経ち、ようやくさっきの恐怖や、混乱が体から抜けていく感覚がする。

周りには誰もおらず、自分と彼女だけが道を歩いている。

彼女の、2歩ほど後ろをついて歩く。

風に乗って彼女の香水?のバラの匂いが鼻腔をくすぐる。


「そろそろ聞いていいか?」

「そうね……時間も惜しいし、質問して。」


「まず、あれは一体なんなんだ、階梯?とも言っていたけど、それについて教えてくれ。」

「あれは吸血鬼よ」

振り向かずに進みながら彼女は喋る。

「聞いたことあるでしょ?童話でも有名なアレ。」

そりゃ聞いたことはあるが……本当に存在するとは……

「それと階梯の事ね?簡単な話よ。偉さとか強さの話。大雑把にまとめるとしたら4つの区分に分けられるの。」

「第一階梯は……吸血能力もないし、ゾンビのなり損ないみたいなやつよ、出会ったところで脅威は皆無ね。」

「第二階梯は思考能力は持たないけど、吸血能力は持ってる。吸われたら終わりだから多少は警戒しないといけない対象よ。」

「第三階梯からは厄介ね、さっきのあいつもここに該当する。ここら辺になってくると自立した思考を持ち始めるの。」

「そして第四階梯ね。簡単に言えば親玉、元凶、大元のヤツよ。放っておけば、街ひとつは簡単に廃墟になるぐらいには危険なやつ。」

「ここまでで、質問ある?」

今聞いた現実味の無さすぎる情報をどうにかして整理する。


階梯というのは数字が低いほど弱いというのだけはとりあえず理解できたが、一つだけ引っかかる箇所がある。


「それだと、一番偉い位のやつが同じ位の吸血鬼を作りまくったらやばいんじゃないのか?」

「それなら安心して、基本的あいつらは自分の階梯以下の吸血鬼しか作れないから。」

「なるほど……」

「それに、基本的に第四階梯のヤツは第三階梯のやつを作りたがらないの。」

「何でだ?」

「分からない?知能があるって言ったでしょ?」

「知性があるって事は、反逆をする可能性もあるってことよ。」

「言われると……そうだな。理解できる。」


1つ目の謎はとりあえず解けた。2つ目は……


「君が使ってた、魔法……みたいなのは何なんだ?」

「それについては教えない。」

「……なんで?」


それは困る。自分だってあれを使えるのなら自衛の手段になるのだから。

彼女のような強い魔法が使えなくても、知っていて損にはならないと思うのだが……


「吸血鬼の事だけでも一般人は知るべきではないのよ。」

「教えてあげたのは、実際に被害を受けたからに過ぎない。」

「それに……これは誰これ構わず使えるような代物じゃない。ましてや才能云々でもないの。一つだけ教えてあげる。この力に憧れる事はやめなさい。」


「わかった……。ありがとう。」

煮え切らないが、彼女が話さないというのなら、これ以上は深く聞けない。何より、彼女が自分をこれ以上そっち側の世界に足を踏み入れ無いようにするための、心遣いなのだから、これを無下にする事はさすがに出来ない。

カンタはああ言っていたが、普通にいい人じゃないか……?というか命の恩人だから良い人程度で済ませちゃダメなんだけど……


「そろそろ家に着くわよ。」


家に着くと、カンタから聞いていたようなデカイ家……ではなく、二階建てのボロいアパートだった。

想像としては執事がいるような、豪邸の洋館だったのだが、目の前に建つのは長い歴史を感じさせるような、古びたアパート。

あんまり変な表情をしたら彼女に失礼かもしれないし、普通を装う。

普通に、普通に……

「なにか文句でもあるの?」

「何一つ御座いません!!!」


階段を上り、彼女の部屋にお邪魔する。


部屋の中は普通の部屋……ではあるが質素で、物がないという印象が強かった。

彼女はタンスの中を漁って何かを探しているようだ。


「あったあった……!」

「しばらく使ってないけど、大丈夫……かな。」

タンスから何かを取り出して眺めている。

見た目は小型のナイフ……というより、昔の武士が使っていたような脇差だ。

鍔は無く木製の柄の部分に、鋭く研がれた刀身部分。

あまり質問のし過ぎも良くないとは思うが、気になるので少しだけ聞いてみる

「脇差を吸血鬼との戦いで使うのか?」

「そうよ。」


彼女は刀身を鞘に仕舞い。淡々と説明する。

「私はあまり吸血鬼との戦いは苦手……というより、経験はほとんどない。そもそも専門外だし。」

「これには、対吸血鬼……明確にはその手の魔に対しての特攻を付与されてるの。」

「私が持ってるこれはそこまで高価な物でもないけど、吸血鬼を殺すのなら確実に必要になるのよ。」


慣れて来たのか、はたまた思考が麻痺しているのか分からないが、これぐらいでは驚かなくなってきた……。

「ちなみにおいくらぐらいで……?」

「金額?うーん……大体600万ぐらいかしら?」


前言撤回、やっぱり慣れない。

安いって言ってたじゃん……


「そういえば、あんたの名前。」

「ん?」

「聞いてなかったって思ってね。」

「俺は、久我瞬って言うんだ。それと、俺も君の事、苗字の氷室しか知らなくてさ、教えて貰えると助かるよ。」

「……蕩…………。」

「とう?」

「そう、見蕩れるの蕩……。なに?」

「いい名前だと思ってさ……」

「あっそ……。こんな飾りに、意味は無いのに……。」


氷室蕩……か……うん。いい名前だな。


「あ〜……、疲れた。眠るからなんかあったら起こして……」



「え?」

反応が遅れ、時差を発生させて声が出る。

吸血鬼がまた襲ってくるかも知れないという恐怖がまた自分を襲う。

女の子にここまで自分を委ねていることに恥はあるが、それどころの状況じゃない。

「それって……、あいつが出てくる訳じゃないよな?」

我ながら情けない。震えた声で彼女に尋ねる。

「大丈夫よ、あの程度なら朝方近くまでなら封じたまんまだし、日が出たらあいつら活動できないから。」

「わかった……。ごめん、呼び止めて。」

彼女はよっぽど疲れているのか、制服のまま布団に入る。

直ぐに彼女は寝息を立てて寝始める。


きっと彼女が俺を家の中に入れたままなのは、もしも、吸血鬼が来た時に、起こしてもらうという監視の役割もあるのかもしれないが、きっとそれ以上に、俺の為なんだと思う。

これは俺の自意識過剰とかでもなく……ただ彼女は、根が優しいんだろう。

そう自己で考えを完結させる。

そして、意味は全くないのだが。

明日、なんで俺を助けてくれたのか……

「聞いてみようかな……。」


拙い文章力ですが見ていただきありがとうございます。

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