自称転生ヒロインと幼馴染
「ついに私の時代がやって来たわっ!目指せっ!玉の輿!!」
私はローラ。
真新しい聖フォレスト学園の制服に身を包み、仁王立ちをしているふわふわの金の髪の彼女……ローザの友達。
「ったく、恥ずかしい奴。」
オーホホホと高笑いを始めたローザを顔を顰めながら眺めている赤い髪の彼はサム。
「だってローザだもん。」
呆れた顔でローザを見るサムだけど、サムはいつもローザと一緒にいる。
まぁ、ローザが「攻略対象であるあんたがヒロインである私と一緒にいるのは当然の事ね!!」って言って離れないからって理由なんだけど。
「でも私達が本当に聖フォレスト学園に入学出来るなんてね。」
ここ聖フォレスト学園は魔法使い養成学校で、生徒は主に貴族。
だから私達の様な孤児……おっと失礼しました。
まずは自己紹介と私達の事情を説明しますね。
改めまして、私はローラ。
年齢は13歳。髪の色はローザよりも少し暗めの金の髪。
聖フォレスト学園のある王都から離れた山村にある教会で神父さまとシスターとローザと一緒に暮らしていたの。
私とローザは5歳の時に教会に引き取られた孤児。私もローザも当時の事は覚えてないんだけど、私とローザは同じ日に同じ森の近い場所でボロボロの服で気絶してたんだって。
神父様はその森の近くで馬車の事故やら盗賊による誘拐とかが複数あったみたいで、私達はその事故や事件のどれかから難を逃れた子なんじゃって言ってた。
私とローザが目を覚ました日、サムとサムのお父さんのボブさんがその森で箱に入った雫型のクリスタルのついたネックレスと、字が読めないほど汚れてクシャクシャのメッセージカードを見つけて教会に持ってきてくれたの。
もしかしたら私達のどちらかの身元の手掛かりになるかもしれないってネックレスを見せてくれたら………。
「ヒロインの最重要アイテムじゃん!ってコレがここにあるって事は、私がヒロイン?!キタキタキター!キタよコレ!!今流行りの転・生・系!!」
そのネックレスを見たローザがいきなりそう叫んだんだ。あまりのローザの迫力に、サムが泣きそうになってたのを覚えてる。その時の事を言うとサムは泣いてないって言うし、ローザは覚醒したのって言うの。
領主様には届け出たけど私とローザの家族だと言う人は現れなくて、私達はそのまま教会に引き取られる事になったんだ。
私もローザも自分の名前を言う事が出来なくて、神父様がクシャクシャのメッセージカードの中に唯一読み取れた『ロー』と言う字からローラ・ローザと名付けてくれた。
私達の外見はよく似ていたから、もしかしたら姉妹かもしれないって似たような名前にしたみたい。
狭い山村で私とローザとサムが仲良くなるのは必然で。
ローザは色々おかしな事を言うけど、平和に仲良く暮らしていた。
ある日ローザが、サムは貴族の子で将来ローザと一緒に聖フォレスト学園に入学するって言い出したの。
この世界はげえむ?の世界なんだって。
ローザは赤ちゃんの時に誘拐されたお姫様で、金色の髪は王族の血を引いてる証。
ローザを誘拐した誘拐犯達の馬車が追手との交戦中に山の高い所から落ちちゃって、ローザはネックレスについたクリスタルの力であの森の中にワープして助かったらしい。
その時の私は信じなかったの。
って言うか信じられないわよね。
サムが貴族の子でローザがお姫様だよ?
だってこんな山奥にある鍛冶屋の子が貴族だなんて信じられないじゃない?
ローザはちっともお姫様らしくないし。
サムにローザがサムは貴族の子だって言ってたって話したら、まさかの本当だよって!
ボブさんはサムの本当のお父さんで、実はお父さんも貴族なんだって。
鍛冶屋さんも出来るなんて、貴族って凄い!!
「サムと結婚しても玉の輿なのよねぇ。」
ローザのサムを見る目が狩人。
「でもサムじゃなぁ。王都にはもっともーっと素敵な攻略対象がいるの!!待ってて!私の小悪魔ショタ!」
………どうやらサムはローザの好みとは違うみたい。
サムが貴族の子だって本当だったけど、サムとローザが聖フォレスト学園に入学するってのも信じられなかったのよね。
でもそれも本当になっちゃった。
何故か私も入学する事になっちゃったけど。
2つ年上のサムに入学通知書を持って来てくれた貴族の人が、私とローザの髪の色を見てびっくりしてた。金色の髪ってとても珍しいんだって。
貴族の人は金の髪の持ち主がいるって知らなかったのに、私とローザの2人分の入学通知書を用意してくれてたの。
入学は本来15歳からなのに。
私も入学する事にローザもびっくりしてた。
「オレはローラと一緒に聖フォレスト学園に通えて嬉しいよ。」
そう言って私の頭をぽふぽふと撫でるサムは山村にいた時よりもどことなく大人びて見える。
「ふふ、私もよ。」
サムとローザが聖フォレスト学園に入学して、私だけ置いてきぼりは寂しいもん。
「ねぇ、ここにサムといれば本当に王子様と会えるのかな?」
ローザの話だと入学式の後、噴水のある中庭で王子様と出会うらしい。王子様はお姫様のお兄さんだから攻略対象じゃないんだって。
「サミュエル!!」
ぼーっと王子様の出現を待っていたら、サラサラとした金髪の男子生徒が息を切らせて走ってきた。
さみゅえる?
「オレの本当の名前。」
サミュエルと言うのはサムの本当の名前だと言う。
「王子殿下キターーーッ!!!」
サムを呼んだサラサラ金髪男子生徒を見つけたローザがすごい勢いで走ってきた!!
「王子殿下にご挨拶申し上げます。サミュエル=ディッシュ、王子殿下との約束を果たすために馳せ参じました。」
王子様に跪いて頭を下げるサムは、まるで絵本に出てくる騎士様みたいにカッコいい。
「ありがと……。」
「私!ローザです!!」
王子様は王子様の言葉を遮ったローザの勢いに一瞬ギョッとした表情をしたけど、美術品みたいに綺麗な微笑みで私達を見る。
「サミュエルから聞いてるよ。ロー、ラとロー…ザ、だね。」
うわぁ!カッコいい!!
私もローザも王子様の笑顔に見惚れちゃった。
「では、私は失礼する。またね、サミュエル、ローラ、ローザ。」
ぼーっとする私達の横を通り過ぎて去っていく王子様を見送ったサム。
「よし!次は残りの攻略対象全員と出会って悪役令嬢とエンカウントよ!!」
次はここで!次はあそこ!!と攻略対象の男子生徒達と出会っていったんだけど……ローザの言う悪役令嬢?とエンカウント??はしなかった。
「悪役令嬢と出会わなかったのは気になるけど…、攻略対象達には全員出会えたし!うーん学園生活が楽しみ!!」
ローザは悪役令嬢の名前は忘れてちゃったみたいなんだけど、悪役令嬢の髪の色は私達と同じ金色。公爵様になった王弟様のご令嬢様なんだって。
でも、私達以外に金色の髪は王子様以外見かけなかったと思うんだけどな。
「悪役令嬢は上から目線でヒロインをいじめるのよ!高笑いなんてしちゃってさ。」
「ローザがいじめられるなんて想像出来ないなぁ。でも意地悪してくる人がいないなら良かったんじゃないの?」
悪役令嬢も高笑いするなんて……高笑いする人ってローザ以外にもいるのね。
「駄目よ!悪役令嬢がいないと攻略対象との恋愛イベントが発生しないの!私、悪役令嬢を探していじめられてくる!!」
バビュンと走っていくローザの行動力はすごいわ。
「悪役令嬢には会えないよ。」
ぼそりと呟いたサムの声は私の耳には届かない。
走り去るローザの後ろ姿を見るサムの視線がとても冷たくて、びっくりした。
「サム?何か言った?」
サムの冷たい瞳……ちょっと怖い。
「いや、ローザは元気だなって思ってさ。」
「だってローザだもん。」
私を見てニコって微笑んでくれるサムは、もう冷たい瞳はしていない。
でもとても真剣な目をしている。
「ローラ。何があってもオレがローラを守るから。何かあったらすぐにオレを呼ぶんだ。」
私の手を取って、私の手の甲にチュッと口付けるサムはやっぱり騎士様みたいで……ドキッとした。
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「あの2人の様子はどうだい?」
サムにそう尋ねたのは王子だ。
「仲良く過ごしてますよ。前とは違って。」
ここは王城にある王子の私室。
部屋の中には王子とサムの姿しかない。
「ロザリア…、いや、今はローザだったね。あの極悪非道な悪女があの様な女性になるとは意外だったよ。どの生でもローラ……ローズマリアを陥れ、国を滅ぼしていた悪女だったのに。」
憎々しげに語る王子は、2歳から学園卒業までの16年間を何度も繰り返していた。
繰り返しの終わりはいつも同じ。ローザの言う悪役令嬢である公爵令嬢ロザリアがヒロインであるローラを殺害し、ロザリアの美しさの為に王国に暮らす民の命を吸い上げると言う禁呪を使って滅ぼされる王国を見ながら王子が王家に伝わる時戻しの秘術を使う。
王子の繰り返しにサムが加わったのは、王子が8回目の時戻しの秘術によって作り出された魔法陣の中に入った時。王子にとって繰り返し9回目がサムにとっての初めてのループだった。
「今世のローザはロザリアとは別人です。本人は異世界の人間の転生者だと言っていましたが、恐らく事実だと思います。オレが王子の繰り返しに親父を引き入れた事で起こった予想外の事象でしょう。」
「あぁ、あれにはびっくりしたよ。」
王子の繰り返しにサムが加わってもロザリアに王国を滅ぼされる結末は変わらなかった。
何度やり直しても滅ぼされ、ロザリアを幼い内に殺害しようとしてもより悪い結末となりってしまう。サムはやけくそになってしまったのだ。
騎士団長であったボブは、王国を守れなかったのは自分の不甲斐なさによるものだと泣きながら地面に頭を打ちつけていた。
「親父が情けない顔で過去に戻ってやり直したいだなんて言うからです。」
何を言ってももう一度やり直せたらと泣きじゃくる父にイラッとした25回目の繰り返し中のサムは、ならお前もやり直せ、と時戻しの秘術に蹴り入れて巻き込んだのである。
王子はその時に秘術の歪みを感じたのだった。
その歪みが異世界からローザに入った異世界人の魂を呼び入れたのかもしれない。
「でも繰り返し直後に大人がいたのは助かった。まさか私の妹が誘拐されるのと同時にロザリアを誘拐するとは思わなかったよ。」
そう、ローザの言うヒロインであるお姫様はローザではなくローラ。
ちなみにローラの誘拐を阻止した事も度々あったが、ローラ…王女ローズマリアと公爵令嬢ロザリアの対立は一層酷いものとなる。
育てられた環境が影響するのか、実の両親に甘やかされて育てられたローズマリアは傲慢でわがままだった。
対立の原因は些細なもので、最初の対立のきっかけはローズマリアとロザリアの名前が似ているからだと言う。
騎士団長と言う地位を捨ててロザリアを殺害目的で誘拐したボブだったが、無垢な赤ん坊であるロザリアを殺害する事は出来なかった。
ならばと人の良い神父とシスターにロザリアを預けたところ、神の思し召しか異世界人の魂が入ったと言うわけだ。
ローザがロザリアとして生きていた時は、あまりの厚化粧にローズマリアと似ていると思った事はなかったが。
ローズマリアとロザリアは従姉妹なだけ会って容姿が似ている。だからこそローザが自分がヒロインだと信じて疑わなかったのだけど。
「これで終われると良いな……。」
それは王子の切なる願い。
後3年。
繰り返しを何度もしている2人には短いようで、とても長く濃い3年だ。
「聖フォレスト学園を卒業したら、オレはローラに求婚しようと思います。許可をいただけますか?」
王子の願いにサムは同意も否定もしなかった。
しかし、サムの口から出た願いは3年後の先を見据えた願いだ。
「サミュエル。」
サムが繰り返しの終わった先の事を口にするのは初めての事で、王子は少し目を見開いてサムを見た。
「その時が来たら許可をしよう。」
サムが王子と共に繰り返しをするのは、国を守りたいからと言う理由もあるが、1番愛する人を守りたいから。
サムの願いが叶ったのは3年とちょっと先の未来の事だ。
そしてヒロイン街道を爆進した元悪役令嬢は、学園在学中に自分が悪役令嬢だった事に気付いたものの、小悪魔ショタと結ばれて幸せになったのだった。
ちなみに、ネックレスと一緒にあったメッセージカードが汚れてクシャクシャになったのは、ボブが踏んづけたからです。
今回の繰り返し以前でのローラは、ローズマリアと本名で呼ばれていました。
☆誤字脱字報告ありがとうございます。
間違いの多さが恥ずかしい>.<
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