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事実は小説より奇なり

人生が既定路線であることが分かった時、生きる意味を失った。

どうせ何をやっても決められた人生を歩むだけ


そう思った時、ルシアンの世界は色を失った。


事の始まりはルシアンが8才の時だった。

その日は天気が良くて、家族全員でピクニックに来ていた。

草原を吹き抜ける風に晴天の空。

気分が開放的になり、ルシアンは父が連れて来ていた白馬に乗りたいと強請った。


「乗るって一人でかい?」

「うん!」

「でもねぇ……ルシアンがこれに乗るには早いんじゃないかな?」

「僕だって今年8歳になったんだよ! ルイスももう一人で馬に乗ってるし、僕だってできる!」


ルシアンと同い年で友人であるこの国の王太子ルイス・ヴァンドールが、「一人で乗馬をした」と言って自慢してくるのだ。

負けていられない。

そんな思いから一人で乗馬をしたいと主張するルシアンと、それを渋る両親が何度か問答をしたのち、とうとう両親が折れた。


「じゃあ、僕が横に着くから並足でゆっくり進むんだよ」

「分かった!」


父親がそう提案してくれたので、ルシアンは意気揚々と馬に跨った。

“あの”ルイスでさえできるのだ。

自分だってできるはず。

ルシアンは根拠のない自信をもって、白馬の腹を蹴った。


ゆっくりと白馬が進む。

上下に動く馬の背に合わせてルシアンの体も動いた。

隣では父のレイモンが歩調を合わせて付いてきている。

だが、単調な並足で進むことにルシアンは物足りなくなっていた。


(もう少しスピード出しても大丈夫だよね?)


そう思ったルシアンは鐙で馬の腹を小さく蹴って、少しだけスピードを速めようとしたのだ。

だがその力加減を間違えた。

ルシアンが蹴った鐙の力は強く、突然の衝撃に馬が驚いてしまった。

嘶きと共に馬が暴れ、そして勢いよく走り出す。

背後では父親が慌てた声で何かを叫んでいるが、スピードを出して走る馬に振り落とされないように手綱を必死で掴むのが精いっぱいで、何を言っているかは分からなかった。


(どうしたら? どうしたらいいの!?)


草原から山道へと馬が入っていく。

そして道が悪くなって振動が大きくなった途端、ルシアンは手綱から手を放してしまった。

そして体に浮遊感を覚えた。

見上げた空に体が近づいた気がした。

そして次には背中をしたたかに打ったのが分かった。

その時には既に視界は真っ暗で、全身がずきずきと痛んでいる。

遠くで父親がルシアンを呼ぶ声が聞こえたが、ルシアンは動けないまま意識を手放した。



ルシアンは暗闇の中にいた。


(ここどこだろう?)


自分は落馬して死んだのだろうか?

ならばここは天の国なのだろうか?

何処までも続く暗闇にどこに行ったらいいのか不安を覚えていると、目の前にぼうっと映像が浮かび上がった。

目を凝らしていると粗末な白いベッドに一人の10代半ばの男性が寝ている。

上半身だけ体を起こして窓の外を見ている。


(ここって、病院だ)


この国の病院とは違う。

だがルシアンはこれが病院であることが何故か分かった。

寒々しい白い壁と生成りのカーテン、体にはチューブがつけられていて、ピッピッと言う電子音が鳴っている。


(電子音……この国に電子音なんてないはずなのに……なんで僕は分かっているんだろう?)


そのまま映像を見ていると、いつの間にいたのか一人の少女がベッドの脇にいた。

年のころは少年よりも年下で、制服を着ていた。


「安里お兄ちゃん、聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」

「嘘、絶対聞いてない!」


(あぁ、こいつよく病室に来てはハマってるゲームについて熱弁して帰ってたなって、なんだろう? 僕? 俺? なんだろう? これ知ってる。というか……俺は……)


ルシアンの中で何かもう一人のルシアンがいるような感覚だった。

だがそれは別の人格というよりも、自分が成長したという感覚に近い。


「またその乙女ゲーの話だろ? もう耳だこだよ」

「だって面白いんだもの。安里お兄ちゃんにも退院したら絶対プレイして欲しいの!」

「『セレントキス』だっけ? だいたい乙女ゲーなのに男がプレイしても面白くないだろ?」

「そんなことないよ! サブキャラだって可愛い子いるし、サイドストーリーなんて結構泣けるんだから」


(そう言われてもなぁ。やっぱり男を攻略しても面白いとは思えないんだけどな)


妹がこの乙女ゲーにハマりまくり、推しキャラの祭壇を作っていたのを一時退院した時に見たが、正直引いてしまった。

オタクの熱量……半端ない。


「まぁ、気が向いたらするよ」

「絶対だよ!」

「あぁ」

「だから、早く退院してね」

「……ああ」


妹はそう言ってくれているが、それは叶わないのは分かっていた。

自分はもう余命宣告されていて、そう長くは持たない。

叶わない約束ではあるが、かすかな希望と願望と願掛けのような約束をして、そして妹は帰った。


(そしてこの後、俺は死ぬんだったな)


その夜にルシアン……いや小鳥遊安里(たかなしあんり)は18歳という短い生涯を閉じたのだ。



薄っすらと目を開けると、茶色の天蓋が見えた。

そして目の前には心配そうにルシアンを覗き込む両親の顔があった。


「ルシアン! よかった、目を覚ましたのね!」

「大丈夫か? 傷は痛まないか?」

「……ここは」


両親の顔を見て、自分のいる場所を確認した。

ゆっくりと体を起こすと、打撲のためか全身がずきりと痛んだ。


「無理して起きなくていいぞ」

「本当に心配したわ……」


心配そうに眉を下げた表情の両親を見た後に、ルシアンは自分の手を見た。

それは安里とは異なり8歳の子供らしい小さな手だった。


(あの映像は前世のものか? ……ということは)


安里はルシアン・バークレーとして転生をしたのだと、ルシアンは唐突に理解した。

だが「ルシアン・バークレー」という名前には心当たりがあった。

自分の名前なのだから当然と言えば当然なのだが、そうではない。前世で聞いた名前だったからだ。

それは妹が力説して布教しようとしていた「セレントキス」に出てくるキャラクターの名前と完全に被っている。


(ちょっと待てよ。それにルイスって……)


確か、攻略対象の一人がルイスというキラキラ王子様キャラの名前がそうだったのではないか。

その攻略キャラの名前は「ルイス・ヴァンドール」。

この国はヴァンドール王国で、その王子がルイス。

ルシアンの友人にして王子である彼の名前と一致する。


(まさか……この世界は『セレントキス』の世界なのか?)


そしてもしそうならばセレントキスではルシアン・バークレーは攻略対象の一人なのだ。


「う、嘘だろう!?」


ルシアンはあまりの衝撃に思わず頭を抱えた。

それを見た両親は再び慌てた声を上げた。


「ルシアン!? 大丈夫!? 頭が痛いの?」

「早く。お医者様を呼ぶんだ!」


バタバタと室内が慌ただしくなり、両親が声を掛けるが、ショックを受けているルシアンの耳には届かない。

ただただ、どこかの小説にあるような展開に陥っていることに衝撃を受けるのだった。



本日より連載開始しました!

が…いきなり1話目の公開を間違えて3話目を公開してしまっていました。

現在修正しまして、こちらの話が1話目になります。

ブクマしてくださった方、本当に申し訳ありませんでした…


改めて、読んでいただけると幸いです

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