声劇用台本*存在意義は君
「キャラ設定」
デレック・マレット(浮浪者)・・・生意気/少年
デュア・ヴォン・コンテ(令嬢)・・・意志が強い・へこたれない性格/お姉さん
「配役表」
デレック:
デュア:
「鍵かっこ」
「」→セリフ
『』→モノローグ
【】→大事なセリフやキーワードとなる物や場所
()→補足
デレック
「くっ」
『自分の体が床にぶつかり声が漏れた。この屋敷の警備をしていると思われる使用人は、俺を部屋の中へ放り投げ出て行った、もちろん鍵を閉めて。あぁ、金持ちの床はこんなにも柔らかいのかと、自分の頬から、この先なんの役にも立ちそうもない情報を得つつ、俺はこれからどうなるのだろうと考えながら、虫けらのようにうずくまる』
デュア
「ねー。誰かいるの?」
デレック
『どれくらいうずくまっていたか分からないが、俺は女の声がした方に顔を向ける。誰もいない。恐る恐る声が聞こえた壁の方へ這う。壁にはポスターが貼ってあり、見慣れない服装をした男女二人の絵と、見慣れない文字がデザインされていた』
デュア
「もしもーし、隣のものですが」
デレック
「……誰?」
デュア
「お!いたいた。その感じだとこの家の人じゃなさそうね。私はデュオ。アナタ、名前は?」
デレック
「……デレックだ」
デュア
「そう、よろしくデレック。アナタも捕まってる感じ?」
デレック
「アナタもって、アンタもか」
デュア
「そうなの!私何も悪い事してないのに!アナタも誘拐かなにか?」
デレック
「いや…俺は…」
デュア
「?」
デレック
「……俺は、この屋敷に盗みに入った」
デュア
「盗みに!?なんでまたそんなこと?」
デレック
「……」
デュア
「あー、嫌だったら無理に言わなくてもいいわよ。私は…三日前かな、急に誘拐されて閉じ込められたんだけど、暇で暇でしょうがなかったから、話し相手になってほしいなぁって、話題の一つとして聞いただけだから」
デレック
「いや……別に言いたくないわけではないんだ。むしろ顔も分からない他人だからこそ話せることもあるのかもしれないしな」
デュア
「そう……問題ないなら聞かせてくれる?」
デレック
「端的に言えば、金に困って盗みに入ったんだが…なんてことない、親の借金だよ。親父が酒とギャンブルで借金作って、母さんが一生懸命働いてくれてたんだけど……流行り病で」
デュア
「……そう。それは、辛いね」
デレック
「……親父は借金してた連中に連れていかれてさ。今頃どうなったかな、奴隷のように働かされてるのか、もしくはもう殺されてるのか」
デュア
「今は一人暮らし?」
デレック
「あぁ、ホームレスだけどな。一応雇ってくれるとこがあったんだけど……そこの店主のバカ息子にハメられてさ。店の商品ダメにしたのが俺のせいって事になってて…弁償として纏まった金が必要で」
デュア
「それで盗みに入ったんだ」
デレック
「盗みに失敗するなら、あのバカ息子ぶっ殺してやればよかった」
デュア
「そう?盗みも殺人も両方犯罪だけど、殺人はさ、もう取り返しがつかないんじゃないかな」
デレック
「……」
デュア
「ま、アナタも私も、もうまともな人生は送れないかもしれないけど」
デレック
「どういうことだ?」
デュア
「この町が奴隷売買が盛んなことは知ってる?」
デレック
「いや、他の町なんて行ったことなかったから……そうか、盛んなんだ」
デュア
「……ここの家主って奴隷売買のオーナーで有名らしいの。そんな屋敷に拉致された美少女と、盗人にもかかわらず警察に突き出されず監禁された少年」
デレック
「美少女って、あんたいくつ?」
デュア
「16よ。そっちは?」
デレック
「…14だ」
デュア
「そう。ま、人生も監禁歴も長い先輩としては、結構快適よ、ここ。食事は三食出るし、その時にトイレの有無は聞いてくれるし、それ以外でトイレに行きたいときも、大声出して頼めば行けるし」
デレック
「大声ねぇ。ま、盗人の俺が同じ待遇をしてもらえるかは怪しいけど」
デュア
「それは…そうね。……ねえ、そっちの部屋って何があるの?」
デレック
「あ?……二人座れる大きさのイスと、椅子に対して小さめなテーブルと、なんも差してない花瓶と、鏡と、ベットと、そんぐらい。そっちは?」
デュア
「こっちも同じ感じ。あ、こっちには本棚もあるわ。でも私、本を読むのってあんまり好きじゃないのよねぇ」
デレック
「ふーん」
デュア
「あ、なんか面白そうなの見つけた。ねぇデレック。【カルネアデスの板】って知ってる?」
デレック
「知らないけど、有名なのか?」
デュア
「さあ?私も知らない」
デレック
「そ」
デュア
「なになに……船が難破して海に落ちた人が、一人しかつかまれない板を使い、他に落ちた者を死なせてでも生き延びたとしたら、果たして罪に問われるのか、だって」
デレック
「……それ、泥棒の俺に聞く?」
デュア
「ふふふ、いいじゃない。特にすることもないんだし、ちょっと考えてみましょうよ」
デレック
「(溜息)
どうだろうな……先に掴まってた人を引きはがしたら、罪だと思うけど……それでも、自分が助かるためには仕方がないんじゃないかとも思うし」
デュア
「それじゃあ、デレックは先に捕まってた人を引きかがしちゃう?」
デレック
「そう、かもな」
デュア
「それがお母さんでも?」
デレック
「……お前、性格悪いな」
デュア
「怒った?」
デレック
「別に。俺を怒らせたかったのか?」
デュア
「そういうわけではないんだけど…デレックの回答に興味があったのよ」
デレック
「……母さんなら、俺が奪い取らなくても、自分から俺に譲るんじゃないかな」
デュア
「うふふ、いいお母さんだったのね」
デレック
「さあ?少なくとも酒やギャンブルに溺れる人ではなかったし、泥棒するような人でもなかったよ」
デュア
「……自分のしたことに、後悔しているの?」
デレック
「後悔……してるのかな。わかんねーや」
デュア
「そう」
デレック
「……そういうアンタは?板どうすんの?」
デュア
「私は難破するような船には乗らないわ」
デレック
「そんなのアリかよ!?」
デュア
「アリでしょ。船に乗らなきゃいけないような所へなんて行かなきゃいいだけなんだし、どうしても乗らなきゃいけない場合は、一流の船大工に造船させて、一流の船乗りを乗船させるわ」
デレック
「なんでもアリじゃん」
デュア
「そもそも、こういう究極の二択みたいなのって、日々の生き方とか心の持ちようで回避できるんじゃないかって思うのよね」
デレック
「そういうもんか?」
デュア
「栄養バランスを考えた食事に適度な運動、毎日必ず日光を浴びで、感謝と慈愛の気持ちをもって過ごせば、選択の一つ一つが、その時の最善へと導き、こういう困難から遠ざけてくれると思うのよね」
デレック
「……その割には理不尽に誘拐されてる、どうしようもない状況に現在進行形で陥ってないか?」
デュア
「あー…。痛いとこ突くわね。……物事って、1%~99%の間で決まると思うのよね」
デレック
「どういうこと?」
デュア
「0%起こらないなんてありえないし、100%起きることもあり得ない」
デレック
「あー。アンタがどれだけ最善の選択をとれたとしても、それはあくまで99%までしか選択できないと」
デュア
「そういうこと」
コンコンコン。ガチャ
デュア
「ぁ、今行きますよー」
デレック
『そのあとドアが閉まる音がした。彼女はどこかへ連れていかれた?トイレか……いや、トイレは食事の時と言っていたし、それに大声で人を読んだ素振りもなかった』
デレック
「ぐがっ」
『彼女のことを考えてるうちに、どうやら寝落ちてしまったようだ。口の中がパサつく。どれくらい時間がたっただろう。窓の外は明るいので日中なのはわかる』
「今何時だ?」
デュア
「あ、ちょうど起きた」
デレック
「ん?あー。えっと……」
デュア
「ん?どうしたの?」
デレック
「いや……名前なんだったっけ?」
デュア
「ちょっと。失礼しちゃうわね、デュアよデュア」
デレック
「あー、デュアさん」
デュア
「別に呼び捨てでいいわよ」
デレック
「ふーん」
デュア
「そうだ、ご飯食べた?」
デレック
「へ?」
デュア
「私の部屋には運ばれてきたんだけど、デレックの部屋にも運ばれてるんじゃない?」
デレック
「……ホントだ。扉の近くにパンとスープがある」
デュア
「よかったじゃない、食べれば?」
デレック
「あ、ああ」
『スープは生温かい、というかぬるかった。運ばれてきたときは熱々だったのだろうか?そんなことを考えながらもう一口、が気付けば即飲み干してしまった。口の中が潤った後はパンにかじりつく。ジャムやマーガリンはないけれど、盗人に食事があることがおかしいくらいだ、これだけでもありがたい…が、口の中の水分がパンに持っていかれた。俺はスープを一気に飲み干してしまったことを後悔しながら咀嚼した』
デュア
「ねぇねぇ、【トロッコ問題】って知ってる?」
デレック
「(咀嚼しながら)ん、知らないけど…また本の話か?」
デュア
「そうそう。暇だから付き合いなさいよ」
デレック
「(飲み込む)あぁ、かまわねぇよ。で、どんな問題なんだ?」
デュア
「えっとね、暴走するトロッコの軌道上に5人の作業員がいて、そのまま放っておけば5人は轢死する。轢死ってわかる?」
デレック
「轢かれて死ぬってことだろ」
デュア
「そうそう。それで、分岐器を作動させれば、トロッコは別の軌道に入るが、その先にも1人の作業員がいる。この場合、特定の人を助ける代わりに、別の人を犠牲にしてもよいかという倫理学上のジレンマを扱っている。だってさ」
デレック
「俺は暴走するトロッコが走るような作業場には行かない」
デュア
「あ。それずるい!禁止よ禁止!!」
デレック
「禁止って、そんなこと言われてもなぁ……その登場人物六人が、俺と全く無関係な他人だったら、軌道を変えるかも」
デュア
「なるほど、自分の意志で人一人殺すと」
デレック
「いやな言い方するなよ」
デュア
「でもそういうことでしょ?何もしなければ、自分自身は目撃者だけれど、軌道を変えるっていうのは、自分の意志で五人を助けるっていうのは、自分の意志で一人を殺すということ」
デレック
「そこまで……考えていなかったよ。単純に死ぬ人数が少ない方がいいよなって、助かる数が多い方がいいよなって思ったんだ。そういう風に頭で計算をした」
デュア
「頭ではそう計算できても、体は動いてくれるかしらね」
デレック
「実際にそういう場面になってみなきゃわからないけど……人は追い詰められたら大抵のことはできちゃうんじゃないか?」
デュア
「どっかの誰かさんも、泥棒しちゃうし?」
デレック
「そうそう。で、そんな作業場には行かないを禁止されたデュアさんはどんな選択をするんですか?」
デュア
「そうね……デレックは、他人って前提で話してたけど、そんな場所にいて、なおかつ分岐器でトロッコの軌道を変えられるのを知ってるってことは、私そこで働いているんだと思うのよ」
デレック
「おう」
デュア
「だからその五人と一人が同僚だとしたら、その中で優秀な人とか、働きやすさとかで優劣をつけて、生かす方を選ぶかしら」
デレック
「なんか、人としての心を排除したデータ人間みたいなこと言うな」
デュア
「感情をなるべく消して、合理的に選んだ方がいいかなって思ったのよ。生かしておいて自分に徳がある方を助けるかも」
デレック
「さらっとそんなこと言うの、こえぇよ……でも」
デュア
「でも?」
デレック
「そういうやつの方が、もしかしたら信用できるのかもな」
デュア
「信用?」
デレック
「甘い言葉を投げかけてニコニコしてくる奴の方が、何か企んでたり裏があったりするのかもなぁって、ふと思った」
デュア
「14歳とは思えないセリフね」
デレック
「色々ありましたから……そういえばデュア、部屋から出て行ってなかったか?俺と話してるときに」
デュア
「ん?あぁ、昨日のこと」
デレック
「昨日?」『俺はそんなに長く寝てたのか』
デュア
「呼び出されてたのよ、家主に」
デレック
「家主に!?何の用で?」
デュア
「んー。14歳に話すのもねぇ」
デレック
「はぁ!?なんだよそれ」
デュア
「まぁざっくりいうと……今私が置かれている状況と今後のこと、そして、まぁ、仕事をしてきたって感じ」
デレック
「やけに曖昧な言い方だな、なんだよ仕事って」
デュア
「そうねぇ……ま、轢死の意味を知ってるくらいだし、子ども扱いする必要ってないのかしら」
デレック
「大した教育は受けてないけど、俺みたいなやつが生きてくためには、クソみたいな大人に媚びへつらわなきゃいけなくて、そいつらが俺を子ども扱いしなかったっていうのが、難しい言葉なんかを覚えた経緯なんだけどな」
デュア
「ふーん。じゃ言うけど、この件に関しての質問は一切受け付けないのでそのつもりで」
デレック
「お、おう」
デュア
「この屋敷で娼婦として働くことになったから、その仕事をしてきたってだけ」
デレック
「……」
デュア
「意味分かった?」
デレック
「あぁ」
デュア
「そ」
デレック
「許せねぇ」
デュア
「は?」
デレック
「アンタ言ってただろ、拉致されたって。女の子をそんな風にして働かせるなんて、相当性根の腐ったクソ野郎だぜ」
デュア
「あのねぇ、泥棒がなに偉そうに言ってるのよ」
デレック
「ぐっ」
デュア
「そもそもアナタ、泥棒に入った後のこと、どれくらい考えてた?もし盗みが成功してたら、屋敷の警備をしていた使用人は、きっと責任を取らされて解雇でしょうね。他には、そうね……泥棒に入られたことが外に漏れて、他の金持ちたちに馬鹿にされたりなんかするかもしれないわ。あー馬鹿にされるだけならまだマシね。仕事の取引先から縁を切られて使用人も含め全員路頭に迷ったりなんかも考えられるし」
デレック
「いや、ちょっと待ってくれ。話が飛躍しすぎなんじゃ
デュア
「もしそうだったとしても、アナタはそんなこと微塵も考えていなかった。だってアナタは、先に板に捕まってる人を引きはがしてでも生きたかったんでしょ。私の置かれた境遇に憤りを感じてる暇があったら、自分が助かる方法でも考えたら?」
デレック
「……」
デュア
「……って、年下相手になに向きになっているのかしら、ごめんなさいね」
デレック
「こっ……」
デュア
「……何?」
デレック
『子ども扱いすんなよ。という言葉が出かかったが、その言葉は子供が言うセリフだと思って、飲み込んだ』
「……トイレ行ってくる」
デュア
「そう、行ってらっしゃい」
デレック
『デュアの言う通り、大声を出すと屋敷の使用人と思われる男たちがやってきて、トイレに案内してくれた。部屋を出るとき「下手な真似をしたら殺すからな」と釘を刺された。それでも俺は、部屋の外の情報を少しでも得ようと周りを見渡した。
用を足しながら、そういえば今来た使用人、俺を部屋に閉じ込めたやつらとは別人だったなと気が付いた。でかい屋敷なので、それだけたくさんの人数の使用人がいるってことなのかな、と考えていた』
デュア
「ねえ」
デレック
「なんだよ」
デュア
「ここから出られたらどうしたい?」
デレック
「ここから出られるときは、奴隷として買われたときだろ」
デュア
「まあ、そうなんだけどさ……ねぇデレック、アナタもしかして、ここから私を連れて逃げ出す方法でも考えてない?」
デレック
「なっ!?なんで」
デュア
「あはははは。トイレから戻ってきた後、なんだか考え事してる様子だったから、もしかしてと思ったけど、まさか図星とは」
デレック
「う、うるさいなぁ!」
デュア
「あ、でも一か八かの賭けみたいな作戦は絶対やめてね。成功率100%の作戦じゃないと、私逃げないから」
デレック
「この世に100%なんてないんじゃなかったのか?」
デュア
「おっと、そうでした」
デレック
「……」
『まだ出会って数日しか経っておらず、そもそも出会ってすらいない、顔も知らない女の子のことを、俺は考えていた。
俺の命を懸ければ、彼女を逃がすことはできないだろうか?
そんなことを考えている自分に驚いた。
自分の命を懸ける?
何故俺はデュアに対して、そんな風に思う?』
デュア
「ねぇ、【スワンプマン】って知ってる?」
デレック
「ん、え?…沼男?」
デュア
「んしょ、読むわね」
デレック
「え?あぁ、本の話か」
デュア
「男が沼の傍で落雷に遭い死んでしまいます。
その時、雷が化学反応を起こし、沼の泥から死んだ男と全く同じ見た目で、同じ記憶をもつ存在、スワンプマンが生まれました。
スワンプマンは身体や性格も死んだ男と何一つ変わりません。
スワンプマンは家に帰り、死んだ男と同じような人生を送ります。
スワンプマンは【落雷に遭ったが奇跡的に生きていた】と認識しており、スワンプマンも周囲の人も、誰も男が死んだことに気が付きません。
さて、スワンプマンは死んだ男と同一人物と言えるのでしょうか。ですって。理解できた?」
デレック
「まぁおおむね」
デュア
「すご。私読むのに必死で全然頭に入ってこなかったわ」
デレック
「おいおい……つまり、身体や性格、記憶や知識、感性も全く同じ……だけど元が泥。それは同一人物か否か」
デュア
「ふむふむ……で、デレックはどう思う?」
デレック
「たまにはデュアから言ってみてくれよ」
デュア
「私?私は……」
デレック
「チチチチチチチチ」
デュア
「ちょっと、急かさないでよっ!そうね…ちょっと違うかもだけど、親子で血の繋がりがなくて、【本当の親じゃなかった】みたいな話あるじゃない?でもその手の話って結局、過ごしてきた時間や受けた愛情を思い出して、育ての親との絆を再確認する、みたいなオチになりがちよね」
デレック
「そうだな」
デュア
「そんな感じで、実は偽物だったって気づいても、愛があれば受け入れられるもんなんじゃない?」
デレック
「なるほど、愛ね」
デュア
「……偽物でも、泥まみれで汚くても、過去にどんな過ちを犯してたとしても……自分にとって有益かどうか、見極めたうえで判断したいかな」
デレック
『もともとの問いに対する答えと、ズレているように感じたが、でも、なんだか自分に対して言われているような気がして、こんな虫けらのような俺でも、値踏みしてもらえる対象だと言ってもらえてるような気がして、指摘する気になれなかった』
デュア
「はい、先に答えました。次はデレックどうぞ。あ、避雷針がある場所しか行きませんって答えは無しだから」
デレック
「はいはい。そうだな……でもそうか、愛か」
デュア
「?」
デレック
「もし自分が泥から生まれた偽物だって気づいても、それでも誰かが愛を持って俺を認めてくれたら、生きていけるのかなって」
デュア
「……いい大人に出会えていたら、盗みなんて働かずにすんだのかもね」
デレック
「俺は……俺はいいさ、デュアに出会えたから」
デュア
「私!?ごめんなさい、デレックとは付き合えません」
デレック
「ちげーよ!そういうんじゃなくて……」
デュア
「ごめんごめん。なに?」
デレック
「……急にこんなこと言われても困るかもしれないけどさ。俺、デュアの力になりたいんだ。俺はまだガキで、先のことも考えず、盗みを働くような、どうしようもない虫けらのような人間だけど……俺はデュアから板は奪はないし、先に板を掴めたとしても、デュアに譲りたい。デュアがトロッコに轢かれそうになっていて、軌道を変えたら別の誰かが死ぬとしても、俺が死ぬとしても、トロッコの軌道を変えたい。デュアがスワンプマンになったとしても、本物と変わらず力になりたい。ん?デュアは女だからスワンプウーマン?スワンプガール?」
デュア
「……」
デレック
「と、とにかく……俺にとってデュアは特別なんだ」
デュア
「特別って……まだ出会って、数日しかたってないのに?」
デレック
「……俺は、その問いに対して、デュアが納得する答えを持ち合わせてないよ」
デュア
「そうなんだ……デレックの言葉は、嬉しい。けれど、それをハイ分かりましたと、鵜吞みに出来るほど私は単純な女ではないわ」
デレック
「どうしても理由が必要だっていうなら、今まで悪い大人にいいようにこき使われてたかわいそうな男の子が、ちょっと楽しくおしゃべりしてくれた女の子のことを好きになっちゃって、愛の告白をされたって、そう思ってくれても構わない」
デュア
「ふふふ」
デレック
「そう思われても、どう思われても、やっぱり俺はデュアを助けたい、デュアの力になりたい。100%助ける根拠なんてないけれど、100%助けたいって、そう思っている」
デュア
「……くくく、あははははは」
「(笑いつかれて深呼吸)
ねぇ、デレック」
デック
「な、なんだよ」
デュア
「よくもまぁ、こんな愛の告白よりも恥ずかしいセリフが言えるわね。若いって恐ろしいわ」
デレック
「うるせーな!俺も自分で言ってて、なんかよく分かんなくなりながら喋ってたよ!」
デュア
「ははははは!
…デレックのこと、信じてみよっかな」
デレック
「え?」
デュア
「【あの時、デレックを信じなきゃよかった】って、未来の私に後悔させないでくれる?」
デレック
『これから俺が言う言葉に、どれだけ説得力があるのだろう。でもこれはきっと、そういうことではないんだろう。今の君も未来の君も、幸せでいてほしいという気持ちが本物なのであれば、俺は改めて、彼女に言うべきだろう』
「デュアの助けになりたい、俺に君を、助けさせてください」
『このセリフの返答は笑い声ではなかった。というか、返答自体がなかった』
デレック
『美少女が俺の部屋に入ってきた、いや、俺の部屋ではないんだけど。それに厳密にいうと屋敷の使用人も三人、一緒に入ってきた。見覚えがある、俺をこの部屋にぶち込んだ使用人だ』
デュア
「改めて名乗らせていただきます、私はこの屋敷の当主、の二番目の娘、【デュア・ヴォン・コンテ】です」
デレック
「……は?デュア?え、なんで」
デュア
「端的に言うと、私はデレックを騙していました。誘拐された振りをして、デレックと親しくなりました」
デレック
「……な、なんのために?」
デュア
「…暇つぶし」
デレック
「!」
デュア
「をするほど私は暇ではありません……デレックの人となりを知りたかったの。どうしようもないクズなら、警察に突き出してた。けどもし、そうじゃなかったら」
デレック
「そうじゃなかったら?」
デュア
「デレック、私ね、どうしてもやりたいことがあるの。今はまだ詳しく言えないけれど……けどそれはデレックがボロ雑巾のようになったとしても、私が娼婦に身を落とすことになったとしても、それでも叶えたい願いがる。そのためには……従順なコマが必要なの」
デレック
「従順なコマ」
デュア
「ねぇデレック、あなたの不法侵入および窃盗行為を不問とします。その代わり、私に忠誠を誓いなさい」
デレック
「……断れば警察へ突き出すってわけか」
デュア
「いえ、不問は決定事項よ。断るならこのまま屋敷から出ていくだけ」
デレック
「は?なんで」
デュア
「言ったでしょ、従順なコマが欲しいって、脅されていやいや働く奴隷はいらないの。だからデレックが私に【忠誠を100%誓えるなら】、ここに残りなさい」
デレック
『100%はこの世に存在しないといった彼女が、忠誠を100%誓えと言った。
……俺はデュアのことをよく知らない。デュアが何をしたいのか、そのために俺に何をしてほしいのかも……だけど、それでも俺は素直に、自分の気持ちに従った』
「忠誠を、100%誓います」
デュア
『ねぇデレック、私を助けたいという気持ちが、愛とか恋とか、そういう感情ではないのなら、それはきっと、【自分が誰かの役に立てる人間でありたい】という、他者を救うことで、自分自身が救われたいってことなんじゃないのかしら。
不満や不運や不幸にまみれた人生を、私に尽くすことでその人生と決別しようとしている。窃盗行為に及んだ罪を、私の役に立つということで、罪悪感から逃れようとしている。
もしそうだとしても、私はそれでいいいいと思っている。
愛だの恋だので忠誠を誓われるより、存在意義を私に見出してくれた方が……私はアナタを信じることができる』
【作品利用】
動画や生放送で使用する際はX(旧Twitter)までご連絡ください。
事後報告で構いません。
https://twitter.com/EdR11103
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【あとがき】
テンスト(作者)は生まれてから今まで、色んなアニメ、ドラマ、漫画、小説を視聴してきました。
なのでそれらの影響を受け、パクリ…オマージュ…リスペクトが作品に組み込まれている場合があります、御了承ください。
そして誤字、脱字、衍字があったらすみません。
ここまで台本を読んでいただいた方、演じていただいた方、有難うございましたm(__)m