城南事件帳
「門構えからしてずいぶんと立派な自宅だなあ」
「すごいですね。 松の木も玄関に植わってて、 相当なお金持ちですよ、 ホトケの草柳 泰三さんは」
池上本門寺のふもとに広がる閑静な住宅街の一角にホトケの実家はあった。 生垣で家の周りは 囲まれており、 家は 純和風の 二階家だった。 ただ、唯一の肉親の母親はすでに認知症を患っているらしく、近所の特別養護老人ホームに入居し、ホトケ亡き後、 この家は主人が不在のまま となってしまった。
二階の自室に足を踏み入れた 梅宮と羽生の刑事二人は度肝を抜かれた。 あまりの、額に飾られた写真や カメラの多さに、である。
「 この ツーショット写真、 彼女か?」
「あっ、 浴衣 姿じゃないですか二人とも」
「いい雰囲気だな」
丸い輪っかの照明付きカメラ、 ハンディーカム、 スマホ、一眼レフなど、「 メカ オタク?」と思わず 羽生は呆れた声を漏らしつつ 、カメラの一つを手に取り、 スイッチを入れてみると、 液晶モニターに映し出されたのは 何やら怪しい人影のようで・・
「うわっ、これ、コサツですよ!」
いっぽう、 梅宮はしゃがんで床に山積みになっている 法律などの 専門書を背を向けながら 漁りつつ 生返事で、
「えっ? ああ そうか、 若いのに、まだ、三十四歳だよね、ホトケは。どうりで 風流な家にお住まいなわけだ 」
「だから、コサツですって!」
「 わびさびを愛するんだねえ。 感心だねえ。 風流じゃないか」
「 なんで風流なんですか?」
うるさいやつだなとばかりに、 ここでやっと振り返り、「 なんでって、 だって コサツだろ? 髪かきあげる奴だろ、カッコつけて。 古いお寺、巡ったりなんかして」
「 それは五木寛之ですよ、『古寺巡礼』でしょ。そうじゃなくて、 こっちのコサツは『個人撮影』のほう。略して『個撮』」