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城南事件帳

大崎警察前の歩道まで出て 文太 は「ふっ」とため息を漏らした。 ふと見ると 隣の 立正大学の女子学生2人が談笑しながら 朝一の講義へ通学してきた ではないか。


( ああ、いいなあ。よかったらおじさんも話に加えてよ、お願い) そんな 叶わぬが願望に駆られた。いかんいかん。 この世知辛いご時世、 そんな 乙女おじさんのささやかな祈りも、最悪の場合、 NHK お昼のニュースの あの 落ち着き払ったアナウンス 調子で「変態ストーカー扱い」されてしまう。 いや、そんなことはない。 憲法で内心の自由 はしっかり保障されている。 大丈夫だ。 可愛いおじさんの 純真は 汚される恐れはない。 それよかほかに・・ 五反田 有楽町へを 急ぎ足で国道を進みながら、 文太 はこう考えた。


 あの野郎、 適当なことを言いやがってよォ。 なんだ、あの恵みの物言い は。 ふざけるにもほどがあるってもんじゃないか、 まったく。いくら部下だからって、言っていいことと 口にしたが 口にしたらまずいことがあるってことを区別もつかねえのか、あのぼんくら 係長は、まったく。なにがNTRだぁ?  ネットだか 与太 雑誌 だかの くだらねえ記事の受け売りしやがって、 そんなもん実際にやってるやつなんていねえよ。 誰が自分のカミさんを別の男にヤラせて 喜ぶ 奴がいるんだってんだ!? いるわけねえだろうがっ! まがりなりにも見初めていいなって思って一緒になって10年近くになるってのに、そんな連れ合いをどこのだれともわからねえ男、若いヤリたいだけの馬みてえな奴の餌食に大切なカミさんをさせてたまるかよ、ふふざけんなっ!



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