城南事件帳
「いい方法とおっしゃいますと?」
「カミさんを少しおとなしくさせる方法だよ。それによって君も係長のオレに朝っぱらからガミガミ説教を喰らわなくて済む方法だよ」
「 ええ、ぜひ、教えてください。そんな一挙両得なやり方があるなら明日にでも実践したいですから」
「ホント? 聞きたい?」
「ええ、ぜひ! そんな妙案をお持ちなんでしたら」
たしかにそうだ。そんなグッドアイデアがあるなら、お世辞じゃなくて、心底梅宮は教えてもらいたかった。毎晩のように子供たちが寝静まった後、寝室に入ると必ず、「あなたぁ~」ツヤ子の猫なで声に悩まされるのだから。 そりゃあ、新婚の頃なら確かに『可愛いっ!』といとしさで胸がキュッと締め付けられそうになった遠い記憶もあったようななかったような・・・ しかし、もうあれから、ゆうに十年以上の月日は流れている。いくらなんでも、毎晩毎晩はないだろう。オレが選んだツヤ子って女ははたして、 伴侶として正解だったのか、それとも人生の一生の不覚だったのか、最近、 寝室のドアノブに手を掛け,扉を開ける度に、ああ、もしベッド二つとタンス一つだけのこの六畳間が、シースルー姿のタレントモデルクラブ直営なのか本当に素人なのかは確かめようがないけれど、吉原でナンバーワンと謳われるかの最高級ソープランド『将軍』の部屋とどこでもドアで繋がっていたら・・・ そう夢精する、ちがうちがう、夢想することのみが、最近の文太の逃避行動と化していた。