城南事件帳
「海外、どこ?」
「 わからない。 どこに住んでいるんですか って質問したら、『いま外国で、俺は動けないからバイトを頼むんだ』 」って言われた。とにかくリモートで指示を受けて 大久保病院の前で女の子を拾えってね。 黄色い ニット帽かぶった『十八歳の学生』が夜七時に立ってるからって」
「ふん」刑事二人は思わず鼻を鳴らした。
「あっ、それから、刑事さんたちに聞きたいんだけど。オレのやったことって、犯罪にならないよね。 未成年誘拐にならないでしょ? 未成年じゃないんだから」
「知るかっ」
翌日、 ホトケの勤務先だった財務省で、直属の元上司に話を聞く梅宮・羽生両刑事。
「カタブツで通ってたんだけどなあ・・人間は一皮むくとわかんねぇもんだなぁ」
役所には珍しいべらんめえ調が返ってきた。「いい奴だったんだけどなあ、頭も切れるし、性格も温厚だし、家柄も金持ちだったから、ガツガツしてなくって、それで、結構、ユーモアもあるし、冗談も好きで、落語の話もしたりしてね。私も東京の人間ですからね、ウマがあったっていうか・・まったく、残念だ」
話を聞いてると、まんざら表面上の儀礼的なものばかりではなさそうだ。
「よく、仕事帰り、食事に行ったんですよ、銀座や日本橋や新橋や、ここ霞が関から近いですから。私は浅草で、あいつも南馬込でしょ。帰りもだいたい、地下鉄一本で帰れるし。飯もそうだけど、寄席も行きましたよ、上野や浅草にね。それで、お互い志ん生が好きでね。
結構話好きらしく、このまま話し続けても、 手がかりになりそうな情報が得られそうもないと見て取った 梅宮は、
「何かトラブルは?」
「えっ? なんだよ、もう少し、志ん生のくだり、しゃべりたかったのに・・まあいいか。トラブル? とくに、な・・。いや、そういやぁ、1週間前、 ブロックチェーンの講習会をいくつかの 中央官庁と共同で主催したんだよね。 うちの担当は 草柳でね。 その会場で財務大臣の 秘書と口論してたのはちょっと目立ってたなあ」




