城南事件帳
梅宮たちが「川島雄二だ」とにらんでいたはずの男は、顎を蹴られた衝撃と、「大久保公園で待ってます♡イチゴでお願いします」のエリコがその実、ネカマだった事実、いや、将来的に確実に閑職に追いやられる予備軍だからこそネット上だけで全知全能の神ならぬカマになるサラリーマンに違いないと酌んでいたのにそれどころか予想を一足飛びに飛び越えて本職の刑事だった事実と、のダブルパンチ、トリプルパンチで、立っている気力も体力もなくなりヘナヘナと床の上に女の子座りでへたり込んでしまった。
「いいバイトがあるって、川島から誘われたってことか?」
「だから、そう言ってんじゃないですか」
女の子座りをしながらも、聞かれた男はしかめっ面で減らず口を叩く。しかめっ面がせめてもの、反抗であり矜持なのだろう。
「うるさいっ!」当然のごとく、梅宮刑事に一喝される。若い女の子がSNSでパパ活の書き込みをしていたのを男なりの「定期的パトロール」で探し出してはこれ幸いとばかりに返信を送ってのこのこ新宿病院前まで足を運んだくせに、なにをいまさら。まったく、往生際の悪い奴だ。「聞かれたことに素直に答えろ。いいんだよ、何度同じことを聞いても」
男はしぶしぶ自分の置かれた現状を吐露し始めた。「コロナでホストの仕事を首になって、アパートの家賃はおろか、日々の飯代も満足に出せなくなってにっちもさっちもいかなくなってたんだ。それで、なんか手っ取り早く金になる仕事ないかってスマホでネットを渉猟してたら、行きついたんだよ」
「闇バイト?」羽生刑事が先回りした。
急にしんみりした顔で、男は頷いた。
「NHKの受信料、滞納中?」春の新生活開始時期のキャンペーンみたいなことを言い出す部下に上司は
「テレビないのか? ラジオは? 新聞購読してないのか?」おいおい、火に油注いでどうするんだよ、山にでも登るつもりかよ、とはたから見る人々は心配し呆れることであろう。
逆に、失職中のホストのほうが助け舟を出す形で、「見てるよ。オレだって。ホストだって。新聞くらい読むやつは読むよ。一回五万だとか十万だとか百万だって話を読んだら、『こりゃあ、どうせヤバイ仕事だろうな』ってうすうす感づいていたって、背に腹はかえられないってんで、飛びつく気持ちにもなるんだよ。おたくら、公務員さんと違って、その日暮らしのオレたちにとっては」
こういうことを聞かされると、ぐらっと気持ちが揺らいでもおかしくはないところなのだが、そんなことでいちいちおセンチになっていたら悪い奴を捕まえることなどできない。どうせ、なんだかんだとお涙頂戴で自己正当化を試みようとする元ホストに対して先輩刑事は、
「このバイト、いくらで引き受けたんだ?」
「五千円」
「なんだよ、たった今たった言った金額と違うじゃねえかよ」
「・・少しくらい、話を盛っても許されるかな、と」
「許されるわけないだろっ!」
またもや、梅宮の一喝が飛び出した。どおりで、髪の毛は金髪、両耳たびに鉄のわっかをぶら下げているわけだ。しまいには、鼻にも装着して紐でもつけりゃ、「モォ~~」とでも鳴き出してもおかしくない。
「じゃあ、川島はいま、どこにいる」
「海外だよ」




