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城南事件帳

思わず,男は手を止めた。 娘も体が固まった。相反する二人はそれぞれ、吉と出るか凶と出るか、自分の置かれた立場の遠くない行く末を瞬時に頭の中で思いめぐらせた。


「開けないか? 開けないと、未成年誘拐で現行犯逮捕するぞ」


「・・」


「・・」


 いま、未成年誘拐って、言わなかったか? 男も、チ〇コの生えた娘も、互いに目を合わせることなく、別方向を向いてはいたが、頭の中は同じことを考えていた。


 未成年って、いったい・・だれ?


 娘はそもそもツイッターでホトケと関係があるだろうと当たりをつけた男をおびき寄せるために女装した 大崎署刑事課の新米刑事羽生大也。たしかにいまだ彼女が出来たためしのない、未経験のチェリーボーイ。しかし、二十歳はとっくにすぎた二十九歳。


 いっぽうの男も・・どうみたって、このタッパのいい、ガタイのいい奴は女じゃない、野郎だ、それじゃなきゃ、新宿二丁目のおかまちゃんかなにかだろう。それなのになんで未成年誘拐になっちゃうんだ?


「おい、 開けろ! 羽生君、開けてくれ」


 あっ、この声は、梅さんだ。はい、いま、開けます、とのど元まで出かかったのだが、思いとどまらざるをえない理由があった。後ろから羽交い絞めにされ、スカートを捲し上げられて、ブリーフ一枚という出で立ちだからだ。


「おい、いるんだろう、だいじょぶか? だいじょぶなら声を上げてくれ」


 すると、男は「おまえ、外の刑事と知り合いなのか? お前、ひょっとすると刑事なのか?」


 羽交い絞めにする男の力が少し緩んだその瞬間、さすが本職、なんちゅうか本中華、武術の訓練を積んできただけあって、娘は、機を見るに敏とばかりに、するするっと男の手を掻いくぐると、ドアまで一気に駆け抜け、追いすがる男の顎を右足で直撃する。男はそのまま仰向けにバタンキュー。ドアを開けると、


「おお、大丈夫か?」血相を変えて跳びこんでくる梅宮刑事。


「ええ、大丈夫です、こんな格好ですけど」


 上は白ブラウス、下はグンゼのブリーフ一丁に、すね毛が露わに。


「あんまり大丈夫そうじゃねえなあ。それにしてもまた、いいカッコしてんねえ。やることが違うね、変態ちゃんは」


「ボクは違いますよ」必死に弁明するブリーフ娘。


「わかってるよ。変態なのはこの男だよ、川島雄二。お前、未成年誘拐でいくらでもしょっぴくことはできるんだぞ」


「おれは川島じゃない」


「うそつけ!」


「うそじゃない、川島からは話が来ただけだ。いいバイトがあるからやらないかって」






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