第九章 出会ってしまった二人
アラスク山の森の中、グリア兵たちはクロイドたちを血眼になって探していた。
「まだ見つからないのか!!」
リーダー格の男が兵士達に向かって言った。
「は、はい、どこを見回っても見つかりません」
兵士の一人が言う。
「ええい!!こうなったらこの森を燃やせ!山火事を起こしてこの山もろとも消し炭にしてやる!!」
「──それはまずいだろ」
ふと、そのような言葉が聞こえた。辺りを見回す。
「どこ──「ここだ」
そう言って、一人の男が上から降って来た。……どうやら男は木の上にいたらしい。
「貴様、さっきオスティア王女といた奴だな」
「ご名答」
男、クロイドはそう言った。
「王女はどこだ!?」
「さぁな、今頃熊にでも食われてんじゃねーの?」
「……お前何言ってんだ?ふざけるな!さっさと居場所を教えろ、さもなくば貴様死ぬぞ?」
「じゃあ、俺からも言わせてもらおう。今すぐにこの山から降りな。そしたら、あんたらの命は助けてやるよ」
「ふざけるな!!」
そう言うと次々に剣を鞘から抜き、クロイドの元へと向かうグリア兵達。
「……やれやれ、聞く耳持たずってか」
そう言うと彼もまた黒刀の柄を握りしめて、向かっていった──。
「ここって本当に大丈夫なんだよね……」
一人ぶつぶつと言いながら奥へと進んでいくセフィリア。
洞窟の中は松明が一定の間隔にあって明るい。道は一本道で、分かれ道などなかった。心配していた熊は未だ現れず、むしろ現れないことが恐いとセフィリアは思っていた。
しばらく進んでいると、広い空間に辿り着いた。
「な……なによ……ここ……」
思わず声が出てしまった。
そこに心配していた熊、及び猛獣などの危険な動物の姿は一切無く、ただその代わりに、幾つもの剣が所狭しと地に──壁に──突き刺さっていた。
ある物は錆びて朽ち果てていて、またある物は新品同様、美しい白銀の刃をみせている。
セフィリアはゆっくりと奥へと進んでいく。
剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣、剣──……
前後上下左右、360度どこを向いてもそこにあるのは剣のみ。剣の墓場のような、なんともいえない不気味さ、恐怖がこの場に……あった。
セフィリアは辺りを見ながら進んでいくうちにあるものに気がついた。
「ん、なにこれ?」
それは小さな穴。地面に小さな裂け目がそこにあった。
これを見て、彼女は思った。ここには何かが刺さっていたんだと──。
「懐かしいな、ここに戻るのは何年ぶりかな」
突然、そのような声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは顔全体を仮面で隠している──そんな男がそこにいた。
「誰……?」
セフィリアは男に向かってそう問うが男はその問いに答えずに言った。
「オスティア王女セフィリア姫。すまないが、そなたを利用させてもらおう」
「ぐあああああああああ!!!」
地面に一人の男が倒れる。
「──これで、終わったな」
そう言うと彼は黒刀を勢いよく地面に向かって振り、刃に付いた血を落とす。
クロイドの辺りにはいくつものグリア兵の死体があった。生きて立っている者はクロイド以外誰もいなかった。
「さて、そろそろ迎えに行かないとな。お姫様が心配してるかもしれないしな……」
そう言うと彼は歩くが、何歩か歩いて何かに気付く。
「……覗き見とは良い趣味とはいえないな。出て来い」
そう言われた人物はクロイドの背後の木々からゆっくりとその姿を現す。その人物は鎧を身につけ腰には剣を差していた。
「随分と人の気配が分かるんだな。いつから気付いていた?」
男に声だった。クロイドはその男を見ずに言う。
「ついさっきだ。随分と大きな殺気を感じてな。お前、俺と戦いたい──いや、殺したいみたいだな……」
「その通り、悪いが俺にはやるべきことがあるからお前には生け贄になってもらうぞ」
「そうか……じゃあ」
ゆっくりと振り返りながら言うクロイド。
「あんたが死んでも文句は言えないよな?」
言い終えた後、彼は少し驚いた表情をしたがすぐに無表情に戻す。
クロイドの目の前にいるのはグリアの鎧を身につけた元オスティア将軍、グレン・ハーゲンがそこにいた。
「当然だ、その覚悟で騎士をやっているからな」
そう言うとグレンは鞘から剣を抜く。
「さぁ、そなたも構えろ」
「── んだよ……」
クロイドは何か言ったようだったがグレンには聞こえなかったようだった。
「何か、言ったか?」
「何でも……ない」
そう言い、彼も右手で黒刀の柄を握る。
「そうか。そなたはオスティアにとって英雄のような存在なのだろう。私の立場がこのようなものでなければ戦いたくはない。むしろ手助けをしているだろう。……だが、俺にそんなことはできない。そなたを殺すだけでたくさんの命が救えるなら、俺は……そうする」
剣を体の横に構えて、言うグレン。
「……そうか。悪いが、俺もそう易々と殺されるつもりはない。俺にだってやるべきことはあるからな」
そう言ってクロイドは腰を落として戦闘体勢にはいる。
ゆっくりと二人のいるアラスク山の森の中で風が吹く。散っていた落ち葉が舞う。地面には幾つもの死体。
望まぬ戦いが、始まる──。