僕らの歩く道
アパートを出たものの案茂に行く当てはない。しかも真夜中、開いている店も限られる。案茂は脇目も振らずにある行き先へと向かうシーラをじっと睨んだ。
「一体何処へ行こうというんだ?」
「…」
「そもそもさっき襲ってきた奴とは何なんだ?」
「…」
「それにパトランプの大群が警察じゃないなら何なんだ?」
「…」
「僕が狙われた理由は…」
「おいアンモナイト」
案茂が矢継ぎ早に質問を投げているとシーラが急に振り返り、案茂の胸倉を掴んだ。蒼い瞳の奥から鋭い殺気を漂わせる。シーラの形相に案茂は思わず怯んだ。
「奴等に見つからないように少し黙って歩け。それから質問するなら一つずつにしろ」
「わ、分かった」
「理解したなら付いてこい」
シーラは案茂を放すと再び歩き出す。案茂は深い溜め息を付いた。どうしてこうなった…。案茂は眠るどころか、シャワーすら入れぬまま夜通し歩く羽目になった。
「で、何処へ行くんだ?」
「付いてくれば分かる」
シーラはそう言うと再び無言になった。案茂はふて腐れたが、しばらく歩いている内にあることに気づいた。この道に見覚えがある。つい最近通ったばかりのような…
「あっ!?」
案茂は視線の先にある建物に気づいて思わず歩を止めて叫んだ。シーラは驚いて案茂の顔を見る。
「おい驚かすな」
「此処って…仁沢賀瀬の…」
「よく気づいたな。そうだヒトサワガセの奴の家だ」
「ど、どうして此処に?」
案茂はシーラの意図が分からず、頭を抱えた。加えて先程当主である尚児を振り切って逃げるように帰ったので、また舞い戻るのには抵抗があった。
「…奴から聞き出すことがある。それと奴を暗殺する」
シーラの言葉に案茂はゴクリと唾を飲み込んだ。この女、本気だ。本気であのおじさんを殺すつもりだ。此処で止めるべきか?しかし、謎が多すぎてどれが正解なのか、全くもって分からない。
「ま、待ってくれ。あのおじさんを殺すなんて、そんな物騒な。一体全体どうしてなんだ?」
「…ヒトサワガセはこの世界のパワーバランスを崩しかねない存在だ。奴等が持っているものにはそれだけの価値がある」
「奴等が持っている…?」
「確か当主が継承していると上司から聞いていた。此処で間違いないはずだ」
「上司って…極秘任務のか?」
案茂がシーラに問うと再び胸倉を掴まれた。今度は拳銃を首もとに突きつけられる。
「これ以上極秘任務のことを口にしたら殺す」
「…いや、あんたがベラベラ喋ってるんだろうがよ」
「ご託はいい。行くぞ」
そういうとシーラは仁沢賀瀬家の門を潜り抜け、敷地内へ侵入した。案茂も慌ててシーラを追う。
「待ってくれ!当主となら僕が話を付ける」
「お前が?関係ないんじゃないのか?」
「とりあえず頼む!」
邸宅の玄関前でシーラを止めると案茂は大声で叫んだ。
「尚児さん!!尚児さんはいますか!?考えが変わったので戻りました!どうかお目通りを願います」
案茂の声に敷地内に居た黒服たちが一斉に現れ、あっという間に二人を囲んだ。シーラは拳銃を慌ててしまうと案茂を睨み付ける。
「アンモナイト、貴様どういうつもりだ?」
「当主に会いたいんだろ?冷静になるんだ。此処で感情に流されたら元も子もない」
「チッ…言わせておけば」
案茂がシーラを宥めていると案茂に気づいた黒服の一人が慌てて尚児を呼びに向かった。その間二人が逃げないように黒服たちは入念に取り囲んでいる。
「当主と会って何を話す?」
「ま、言いたいことは山ほどあるが、穏便に冷静に話す気だ」
案茂がシーラに小声で話していると、屋敷の奥の方から尚児が寝間着のまま姿を現した。案茂が戻ったのを見て満面の笑みを浮かべている。黒服たちが尚児の歩く道を開けて、案茂の前まで通す。
「おおー…案茂君。ずっと待ちわびていたよ…やはり君こそ仁沢賀瀬家の次期当主に相応しい男…」
尚児が案茂の肩に触れようとしたとき、案茂の右ストレートが尚児の顔面を捉えた。案茂の拳を受けた尚児が黒服たちに向かって吹っ飛ばされる。
「…冷静に話し合うじゃないのか?」
「冷静になったらぶん殴ってた」
案茂は呆れて突っ込むシーラに平然と返した。




