案茂、謎の女に遭遇する
ガスマスクの男を撃った美女もまた案茂の部屋へ土足で上がってきた。本当は注意したいところだが、あまりにも衝撃的な出来事の連続に案茂は身動きがとれず、声も出せない。気づいたら股の辺りから生暖かい感触がある。
(も、漏らしてしまった…)
恐怖のあまり失禁したものの、この目まぐるしい状況を理解するのに必死で恥ずかしさ等は考えられなかった。とにかく何故自分は襲撃されたのか。襲撃者の正体は何なのか。仁沢賀瀬家の人間の話をしていた以上はあのオジサンと関わりがあるのか。そして目の前の女は何者なのか。
考えているだけで頭がパンクしそうだ。
「おい、お前いいか」
突然美女が話し掛けてきた。容姿とは裏腹のぶっきらぼうな片言の日本語である。見た目通り外国人のようだ。案茂は黙ってコクコクと頷いた。
「お前はヒトサワガセの者か?」
「…い、いえ…違います。仁沢賀瀬家の者なんて滅相もありません」
案茂は銃口を此方に向ける美女に対して至極丁寧な口調で答えた。美女は顎に手をおいて少し考え込んでいる。
「そうか…ヒトサワガセではないか。邪魔したな」
「ええ…ええ…」
「では死んでくれ」
「えっ………は、はああああ!!!??」
美女の言葉に案茂は思わず絶叫する。美女はゆっくりと案茂の頭に銃口を向けるが、案茂は慌てて首を振り、美女を宥めようとした。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!何でそういう結論になるんですか!?」
「お前は私の姿を見た。私は極秘任務を帯びている。任務を遂行するにあたり、邪魔する者は抹殺するよう訓練されている」
「そういうことじゃなくて!!完全にトバっちりでしょうがよ!訳も分からないのに殺されるなんてまっぴらですよ!貴女のことはもう忘れるので帰ってくださいよ!!」
「ダメだ、見逃すことはできない。これは任務だ」
「そんな…勘弁してくれぇ…」
美女との押し問答に案茂はガックリと項垂れる。しかし此処で退いては間違いなく殺される。どうしたものかと案茂が考えていると、不意に美女の背後から影が現れ美女の首を締め出した。突然のことに反応できなかったのか、美女は驚きを隠せない。
「この…女…不意打ちとはやってくれるじゃ、ねぇ、か」
「う、お、お前…まだくたばってなかったのか…」
影の正体は先程のガスマスクの男だった。撃たれたものの急所が外れたのか、虫の息ながら反撃を仕掛けてきたようだ。男は美女の首をチョークスリーパーの如く締め上げる。美女は苦悶の表情を見せると、手から拳銃がこぼれ落ちた。気絶寸前のようだ。
「どこの、ものだ?…仁沢賀瀬家の…手の者か?」
「ぐっ…これ、は極秘、任務…」
「外部の者か…尚更聞き出すことがある」
案茂は二人がもみ合っている隙にドアの方へと駆け出した。
が、玄関先で突如立ち止まると脇に置いてあった金属バットを取り出し、再び部屋の中へと舞い戻る。中ではまだガスマスクの男が美女の首を締め上げて情報を吐かせようとしていた。
「やめろ!」
案茂は意を決するとガスマスクの男の頭に向けて思い切りフルスイングした。衝撃で男のガスマスクは粉砕され、男の体は壁に叩きつけられる。その拍子に美女は咳き込みながらも解放された。
「こ、この野郎…!痛てぇじゃねぇか…」
頭から血が流れているものの動ける辺り、まだ立ち向かってくるようだ。男は太もものポケットからナイフを取り出すと案茂に襲いかかる。案茂が身構えたとき、一発の銃声が再び響いた。




