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この街には殺し屋が多すぎる  作者: 43番
第三部
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事の終わり、そして始まり

「はっ!」



 案茂が目を覚まして飛び起きた。まだ眠気があるのか異様に頭が重い。何とか気を取り直してゆっくりと辺りを見渡す。そこは先程まで居たピザ・トラブルの前ではなく、見慣れたベッドの上…ではなく、()()()使っていたベッドの上といった方が正しかった。



「…戻った、のか?」



 案茂は挙動不審なまでにあちこちを触って本当に此処が自分の部屋なのかを確かめてみる。間違いなくあの時のままの自分の部屋だ。トウのいった通り、任意の時間に巻き戻ったのだ。

 トウから渡されたスイッチを押した時、案茂が戻る時間を願ったのは高校時代の母親が亡くなる前のタイミングだった。母親が亡くなる前とはいったが、実際には母親は死んでおらず旗目岩九人衆のゼンとして秘密裏に生き延びていた。当時の案茂はそんなこと知る由もなかったがタイムリープしてきた今、案茂はこの後に起こることを全て知っていた。

 だからこそこれから起こることを回避して、なるべく仁沢賀瀬家と関わらないようにする。案茂はそう胸に誓いつつ、まずはゼンとしての裏の顔を持つ母親に悟られないようどう接すれば良いかを考える。



「朝ご飯よ、無人ないと



 あれこれ考えている内に噂の本人から呼び出しが入る。案茂は慌てて平静を装った。不審がられないように慎重に返事をする。



「あっ…はい。降りるよ」


「そうそう、お父さんが今日からしばらく出張で留守にするから挨拶しなさい」


「はーい。………って、ん??んんん??」



 案茂の頭上に特大のクエスチョンマークが飛び出す。お父さんって、お父さん?誰だ?案茂が少し考えていると脳裏にT・レックスの顔が浮かんだ。背筋が凍りそうになるが、何とか気を取り直して案茂は父親と思しき人物がいるという食卓へと向かった。

 恐る恐る食卓のある扉を開くと案茂はダイニングテーブルに座るスーツ姿の男を凝視した。男は新聞紙を広げて読んでいたが、案茂の視線に気づいたのか新聞紙を下ろすとその顔を見せた。その顔には嫌な思い出しかない。男は間違いなくT・レックスこと仁沢賀瀬直哉ひとさわがせなおやその人だった。



「T・レッ…い、いやお父さん。お、おはよう…」


「?おはよう。何か私の顔についてるか?」


「えっ?」


「いや、マジマジと見つめられたからな。私が此処にいるのがそんなに珍しいか?」


「あっ…いや寝ぼけてたんだ。何か変な夢を見ちゃって」


「?それならいいが、もう少しで受験なんだから気を抜くなよ」



 父親らしいことを話すT・レックスに案茂は腰を抜かしそうになる。そんな案茂の前に母親であるゼンが朝ご飯を持ってやって来た。案茂がかつて見ていた思い出の姿そのものだ。

 しかしながら今まで父親母親ともに揃ったところを見たことがない案茂にとっては何とも違和感しかなかった。特にタイムリープする前まで殺し合いをしていた仲なのだから余計にこの団らん姿が怖い。案茂がしどろもどろしているとゼンが優しく微笑んで朝ご飯を食べるよう促した。



「い、いただきます」



 案茂は朝ご飯をゆっくりと噛みしめる。しかしこの団らん姿の方に圧倒され、まるでご飯の味がしない。呆然としている案茂を尻目にT・レックスは席を立つと鞄を持って外へと出ていく。T・レックスを玄関まで見送ったゼンがT・レックスの頬に行ってらっしゃいの口付けをした。あり得ない光景に案茂はえずきそうになる。



「いってらっしゃーい。那夜朗さんと尚葉さんによろしくね」


「ああ。那夜朗の所も子どもが生まれるからこれから何かと忙しくなるし、カワイイ甥っ子の為にも頑張ってサポートしたいと思う。尚葉姉さんの子もそろそろ結婚の話が出てるし、めでたいこと続きだな」


「あとはうちの無人だけね」


「焦るなって。まだ高校生だろ?これから自分の道を見つけていけばいいさ」


「そうね、貴方の言う通りだわ」


「それじゃ行ってくるよ、ハニー」



 そういうとT・レックスはゼンの額に口付け返して出掛けていった。案茂は何が起きたのか分からず、未だに動けない。どうやら想像するにトウが『秘宝』を仁沢賀瀬家に渡さなかった時系列ができたことで一種のパラレルワールドが出来たみたいだ。案茂は何とか我に返るとT・レックスが見ていた新聞紙を取った。すると一枚の広告が落ちてくる。



『宅配ピザ専門店ピザ・トラブル、今月末に大々的オープン!!オープニングスタッフ募集中!未経験者大歓迎!連絡先は店長のジンまで』



 案茂は広告をしばらく見つめていたが、やがてクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げた。案茂は深く溜め息を付く。



「出かけてくる」


「あら?今日は学校は自習の日じゃないの?」


「うん、図書館に行って勉強するよ」


「気をつけて行ってくるのよ」



 ゼンは優しく頬を撫でた。案茂は違和感を覚えながらも微笑返して家を出る。



「…これで良かった、んだ。きっと」



 案茂は自分に言い聞かせるように呟く。どうやらタイムリープ以前の記憶を有しているのは自分だけらしい。ということは…やはりシーラも…。

 案茂がぼんやり歩いていると、突然浮浪者らしき老人に行く手を塞がれた。老人はボロボロの身なりでヒゲボーボーの姿だった。一目でかかわってはいけないのが伝わるほど、ヤバい目つきをしている。



「あの…何ですか?邪魔なんですけど…」


「おおー…君こそ我が仁沢賀瀬家の次期当主に相応しい。私の見込んだ通りの姿をしている…」


「へ?」



 案茂は目を凝らして老人の顔を改めて見る。そしてその老人の正体が尚児であることに気づいた。



「な、尚…いえ、何なんですか?俺は忙しいんで通して下さい」


「頼む、私の話を聞いてくれ。信じられないかもしれないが、本当は仁沢賀瀬家の当主なんだ。尚葉と直哉、それに那夜朗の奴等に追い出されてこのザマだ。だが、何としても私は当主の座に返り咲く。それには君の力が必要なのだよ」


「迷惑です。俺は貴方と何の関係もありません」


「いいや!この私の目に狂いはない!君こそ我が救世主!」



 詰め寄る尚児に辟易していると、いきなり横から黒塗りの車が二人の前に止まった。すると車からサングラスを掛けたストレートの金髪碧眼でスタイル抜群の美女が降りてくる。そして驚く尚児を見ると、いきなり顔面にグーパンチを繰り出した。尚児を吹っ飛んだのを確認すると美女は唖然とする案茂を無理やり車に乗せる。



「な、何をするだー!!許さん!」



 ひっくり返って喚き散らす尚児を振り切って美女は車を発進させた。美女はサングラスを取るとニヤリと笑う。美女の顔を見た案茂は思わず声を失った。



「久しぶりかな?アンモナイト。此方に来てやったぜ」


「し、シーラ…?もしかして君も記憶を??」


「ああ。会いたかったぜ」



 再会できた嬉しさからしどろもどろになる案茂の質問に対してシーラは優しく口付けをして答えた。


 〜〜〜〜完〜〜〜〜

拙作ながらご一読いただき、ありがとうございました。

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