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この街には殺し屋が多すぎる  作者: 43番
第三部
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アンモナイトの選択

 案茂の提案にシーラは首を傾げた。その様子を見た案茂はニヤリと笑うと、シーラにトウから渡されたスイッチを握らせた。



「ちょっと持っててくれ」



 そういうと案茂はゆっくりと固まっている那夜朗や直哉の元に歩を進めた。時折上空を見ながら、まだトウの宇宙船が存在しているのを確認する。



「さて、と」



 そういうと案茂は両手の関節のポキポキと鳴らし始めた。何をするのかとシーラが怪訝な表情を浮かべる。

 すると案茂は那夜朗、直哉、ゼン、ザイ、そしてリンに向けて顔面に思い切り拳を見舞った。特に那夜朗と直哉には顔面に加えてボディにも数発拳を入れる。当然ながらまだ時が止まっている為、彼等は案茂に殴られたことに気づいていない。唖然としているシーラを尻目に案茂は満足そうな顔でシーラの元へと戻った。



「痛ててて…これでよし。あー、スッキリした」



 真っ赤になった両手を振りながら案茂は再び上空を見た。上空に見えていたトウの宇宙船は強烈な光を放ち、やがて凄まじい轟音と共に光の尾を引いて遥か彼方へと消えていった。さながら流星のようである。

 宇宙船が飛び去ったのを確認した案茂は視線を上空から那夜朗たちへ移した。風と光の揺らめきを感じる。どうやら時が動き出し始めたようだ。



「シーラ…」



 案茂はスイッチをシーラから受け取るとシーラの右手を握って頬に口付けした。シーラは驚きつつも少し顔を赤らめている。



「時が動き出す。少ししたらこのスイッチを押す」


「お、おう」


「この選択が吉と出るか凶と出るかは分からない。でも俺は君と会えてよかった」


「アンモナイト…」


「しばしの別れになるかもしれない。…俺のことを忘れないでくれ」


「えっ?それって…」



 シーラが案茂に真意を聞こうとすると、那夜朗たちの悲鳴や呻き声が聞こえてきた。先程案茂に拳を入れられたことで吹っ飛んだり、その場にしゃがみ込んで悶絶している。彼等は時が止まっていたことを認識していない為、何が起こっていたのか全く分かっていない表情をしている。



「ぐっ…な、何が起きた?確か奴を斬ったら『秘宝』も砕けたはず…」


「この痛みは…わ、分からん…何故鏡を持っているのに…認識できん?!」


「くっ…この私が攻撃を受けるなんて、誰がやったというの?」


「ゼ、ゼン…私にも分かりません。これは一体?!」


「な、那夜朗様…申し訳ございません。私にも知覚できませんでした」



 皆一様に驚愕しているのを見て案茂は思わず噴き出した。シーラもつられて笑い出す。二人の様子を見て全員が一斉に睨みつけた。



「貴様…生きていたのか!」


「まさかと思うが、貴様の仕業か?アンモナイト」


「無人?いや、母である私を殴るはずが…」



 二人に詰め寄ろうとする那夜朗と直哉だったが、互いに『覇羅素面刀ハラスメント』と『法保化鏡ホウホケキョウ』が無いことに気づいた。



「?!な、無い?馬鹿な!確かにこの手にあったのに!」


「!!何ということだ…」



 慌てふためく那夜朗と直哉に対して案茂はダメ押しとばかりにトウから渡されたスイッチを掲げた。当然のことながらシーラ以外の全員がキョトンとしている。



「それじゃ皆、こんな茶番はオシマイだ。…さようなら」



 案茂はシーラの右手をしっかりと握り締めるとスイッチの赤いボタンを押した。するとスイッチから白い煙が吹き出し、シーラ以外の人間の動きが止まる。再び時が止まったのか、辺り一面の景色がセピア色に変わり始めた。案茂はハッとして横にいるシーラを見るが、少しずつシーラの姿が薄れてゆくのに気づいた。



「シーラ…?」



 シーラ自身も驚いた表情で案茂に何かを伝えようとしているようだが、声が聞こえてこない。しばらくすると握り締めていたはずのシーラの右手の感触すら感じなくなってきた。案茂は慌ててシーラの右手を掴もうとするが、空を切るだけで完全に消えてしまったようだった。そうこうしている内に視界の景色はセピア色から薄暗くなり、やがて漆黒の闇へと変わっていく。



「シーラ…」



 案茂の目から一筋の涙が溢れたが、それすらも闇の中に飲まれていく。全てが無に変わるのを見届けた所で案茂の意識は途切れた。

次回、最終回です

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