何故だ
「何故だ?どうしてだ?案茂君!?ホワイ!?ホワイ!?ホワイ!?」
案茂の返事が予想外過ぎたのか尚児は目に見えて取り乱し始めた。黒服たちも動揺してお互いの顔を見合わせてどうするか思案している。対して案茂は冷静な頭で彼等の慌てっぷりを観察していた。
「ホワイ…って当たり前じゃないですか。そもそも赤の他人だし、勝手に指名されても困ります」
「しかしだ!この仁沢賀瀬家の莫大な資産とこの街を牛耳れるだけの権力を得られるのだぞ!?天涯孤独の君にとってはこの上なく素晴らしい提案だと思わんかね?」
「全く思いませんね」
「ホワアアアアイィ!!!」
案茂の返答に対して食い気味に尚児が叫ぶ。尚児は顔を真っ赤にして鉄格子を掴むと鋭い眼光を案茂へ向けた。
「貴様アアアア!!私を!この仁沢賀瀬尚児と知っての狼藉ということを知らんのかあああああ!!!」
「…だから知りませんよ。何を喚いているんですか」
「こんなに!こんなにも!この仁沢賀瀬尚児が頭を下げているのにか!!」
「だから何ですか…その上から目線。第一他の親族が納得しないでしょう。それに身内同士仲悪いとかいってたじゃないですか。しかも命まで狙われたとかいってるなら僕までトバっちりを受けるのは明白です。そんな馬鹿げたリスクを背負ってまで貴方の跡を継ぎたいとか思いません」
案茂は毅然とした態度で尚児に断りを入れた。すると尚児の目からみるみる涙が溢れ出した。尚児は顔をくしゃくしゃにするとひっくり返って大の字になった。
「なんだよぉ!!人が下手に出たのに!折角厚待遇にしてやったのに!どうしたらいいんだよぉ!チクショウ!!頼むから俺の跡を継いでくれよぉ!」
尚児は駄々っ子の如く手足をバタバタさせて喚き出した。顔からは涙や鼻水やヨダレとあらゆる汁を出しまくっている。自分たちの雇用主のあまりの醜態に黒服たちも思わず引いてしまっている。案茂はフーッと深い溜め息を付くと、ジタバタしている尚児を無視して鉄格子の近くにいた黒服に話しかけた。
「…帰っていいですか?」
「えっ…し、しかし旦那様が…」
「あの様子じゃダメでしょ。話になりませんよ。とりあえずこの話は無かったことで。鉄格子を開けてくれませんか?」
尚も駄々をこね続ける尚児に困惑していた黒服たちはやむを得ず、玄関の鉄格子を開けるスイッチを押した。鉄格子が開いたのを確認した案茂は尚児に振り返ることなく、仁沢賀瀬邸を後にした。
「…何だこれ。あの時助けなきゃ良かったのかな…」
結局歩きとなった帰りの道中で、案茂は先日の行為を後悔するように呟いた。しかしそんな案茂の後を数人の影が追っていることに案茂自身はまだ気づいていなかった。




