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この街には殺し屋が多すぎる  作者: 43番
第二部
34/51

あの人

『ゼン』と呼ばれた黄金色のローブの人物は二人に立つようにジェスチャーで促した。それを受けてレツとザイは立ち上がる。一方で尚児と案茂は呆然とその様子を見ていた。もはや何処から突っ込んだらいいのか分からない。逸早く我に返った尚児が三人に突っ掛かった。



「何だ、ちみは!!?」


「お静かに。我ら旗目岩九人衆の筆頭である『ゼン』がわざわざこの薄汚れた所へお見えになったのです。感謝いただきたい」


「なんだとぉう!!貴様ら、此処は私の邸宅だぞ!勝手に入れていいと思っておるのか!」


「お黙りください旦那様」



 ザイが冷ややかな声で尚児を制するとゼンが尚児の前に立った。ド派手かつ異様な姿に尚児は思わずたじろぐ。するとゼンが尚児の頭をいきなりつかみ上げた。突然のことに尚児は暴れながら喚く。



「な、な、何をする!?」



 尚児の抵抗を物ともせず、ゼンは尚児をつかみ上げたまま何やら呪文のような言葉を唱え始めた。すると今度は尚児が苦しそうな呻き声を上げる。



「う、うぎゃあああ…や、やめろ…。苦しい…頭が割れる…」



 尚児が一通り叫び終えるとゼンは突然、尚児の頭を離して降ろした。尚児は頭を抱えて息を切らしている。ゼンは満足そうに頷くとレツとザイに何やら耳打ちをした。



「ふむ…やはり大金庫はこの屋敷の中のようですな。早速向かいましょう」



 未だ動くことのできない尚児を放ってレツとザイが案茂を連れて座敷牢を出ようとしたとき、案茂がレツの出した蔦を外して先んじて脱出を図ろうとした。不意を突かれたレツに対してザイが冷静に案茂を呼び止める。



「どこへ行こうというのだね?」


「これ以上あんたらに巻き込まれるのはゴメンだ。逃げる!」



 案茂がザイに顔を向けたとき、ザイの両目が怪しい蒼い光を放った。光を見た瞬間、案茂の足が完全に止まってしまう。足だけではない、体全体が金縛りに遭ったような感覚だ。



「?!?」


「旗目岩九人衆の一人、白銀の操り師の「ザイ」。このまま逃がす訳にはいかん」


「う、動けない…」



 口と目以外、動かすことのできない状態の案茂を見たザイが無防備な案茂の腹に拳を入れる。案茂は悲痛な声を上げてこの場にしゃがみ込んだ。



「大人しくしたまえ。君の出番はこれからなのだ」



 ザイがうずくまる案茂に対して上から声を掛ける。案茂がザイを睨み付けたとき、突然ゼンがザイの横に現れてザイの頬を思い切りビンタした。ビンタを受けてザイが後方へ吹き飛ぶ。一部始終見ていたレツが慌ててザイに駆け寄り、共にゼンの前に跪いた。ザイも急いで頭を下げる。



「大変失礼しました『ゼン』。やむを得ないとはいえ、少々度が過ぎておりました」


「…分かればよい。お前たちは少し下がれ。彼には私から話す」


「御意…」



 ゼンの声は艷やかな壮年の女性のようであった。てっきり男かと思っていた案茂は意表を突かれて口をあんぐりと開けている。すると案茂の方を見たゼンがゆっくりと近づく。更なる攻撃を警戒する案茂を尻目にゼンは案茂を立たせると服に付いた埃を払った。



「…さてようやく貴方とゆっくりお話できるわね、案茂無人あんもないと


「…貴方は…何者なんだ?」


「私は旗目岩九人衆の筆頭であり、黄金色の全能の「ゼン」」


「…筆頭…もしやだが、この二人がいっていた()()()というのは貴方のことか?」


「その通り。全てはこの為に動いていた。我ら旗目岩九人衆の宿願がようやく叶うときが来た」



 ゼンの声はレツとザイに向けた高圧的なものではなく、何処か柔らかい子供と接するような口調である。一体どういうことだ?と案茂が首を傾げているとゼンが案茂の頬を擦った。一瞬案茂の背筋が凍る。何処かで触れ合ったような、懐かしいような…しかしあり得ない感覚だった。



「全ては貴方のお陰よ、無人。あの男と私の間に貴方が生まれてくれたお陰…」


「………!???」



 そういうとゼンが自身の顔に付けたマスクを外す。ゼンの顔を見た瞬間、案茂は自身の直感が正しいことに気づいた。そして案茂の体は硬直し、思考は完全に停止した。そしてようやく絞り出せたのは、か細く信じがたいものを見た声だった。



「か、か、か、母さん…………???」



 案茂は膝からゆっくりと崩れ落ちる。ゼンは屈むと呆然とする案茂を優しく抱き締めた。そしてポロポロと涙を溢す。その様子を見たレツとザイも目頭を押さえている。



「久しぶりね、無人。私の息子」



 ゼンは静かに案茂の背中を擦った。

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