傍迷惑な訪問者
『ピザ・トラブル』での激闘の裏で旗目岩九人衆のレツと青い仮面の人物に拉致された案茂はレツの運転する車に乗せられていた。逃げようにも身体中に蔦が巻き付けられ、口も塞がれているので身動きすらとれない。やむを得ず何処に向かっているのかだけでと把握しようと車の窓の景色を見た。
「そろそろ到着だ」
青い仮面の人物がレツに話し掛ける。するとレツは路上の脇に車を寄せて停止した。青い仮面の人物はフーッと溜め息をつくと、徐に仮面を外した。その素顔は真っ白な頭のシワが深い老紳士であり、目尻の下がった表情から柔和な印象を受ける。だが得体の知れないオーラが全身から滲みでており、只者ではないことが受け取れた。
「さて「レツ」、あの人と連絡はついているだろうな」
「無論だ「ザイ」。あの人は既に此方へ向かっている。そろそろ我々も行くとしよう」
「よろしい。では出発だ」
レツに「ザイ」と呼ばれた老紳士はローブを脱ぐとそのまま車を降りた。次いでレツが赤い仮面とローブを脱ぐ。レツの素顔はザイよりもやや若い眼鏡を掛けた中年男性で何処と無く神経質な印象を受けた。レツは眼鏡を少し上げると簀巻き状態で固まっている案茂を見た。
「案茂無人、君もついてくるのだ。だが、その格好では何かと不便だろう」
レツはそういうと右手を前に出した。案茂に巻き付けている蔦が一斉にレツの右腕の中に吸い込まれていき、案茂はようやく自由の身となった。
「ゲホッ…あ、あんたたち何なんだ?」
「旗目岩九人衆の「レツ」と「ザイ」だ。これより儀式を始めるにあたり例のものを入手する」
「いや…そういうことを聞いているんじゃなくて………って此処って!!?」
案茂は車の窓の景色を見ると慌てて車を降りた。昨日今日と何度も行く羽目になった案茂にとってある意味因縁の場所…。
「仁沢賀瀬邸……!」
「その通り。此処に例のものはある」
「えっ!?でも尚児さんは大金庫にあるって…」
「行くぞ「レツ」。「ジン」たちが仁沢賀瀬の奴等を引き付けている間に我らが奪うのだ」
ザイがレツに促すと、レツは蔦を再び出して案茂の首に巻き付けた。さながらハーネスのようにレツに引っ張られる。
「苦しい…!やめろ!」
「君には大事な仕事がある。我らと一緒に来るのだ」
「い、嫌だ!!尚児さんに見つかったら何をされるか…」
案茂の抵抗と虚しくレツとザイに引きずられるように仁沢賀瀬邸に足を踏み入れることになった。当然の如く侵入者を感知するブザーが鳴り響き、あっという間に三人は仁沢賀瀬家の黒服たちに取り囲まれる。黒服の何人かは案茂の姿を見て驚いているが、それ以上にレツとザイの顔を見て言葉を失っていた。
「…な、なぜ貴殿方が此方へ?どういうことですか?」
「旦那様はいらっしゃるか?」
「…その…旦那様は…尚葉様のご命令で…今は座敷牢に…」
「ほう…興味深い。是非とも案内してもらおう」
「し、しかし!尚葉様にもしバレたら!」
黒服たちの取り乱しぶりに案茂は首を傾げた。確か仁沢賀瀬家と旗目岩九人衆は宿敵といっていたが、黒服たちの様子を見る限り、知り合いか何か繋がりがあるようである。このままでは埒が明かないと思ったのか、ザイは黒服たちに凄みを利かせて詰め寄った。よく見るとザイの両目は不気味に蒼く輝いている。
「いいか、尚葉様が大事なのはよく分かった。だが、貴様らにとって今一番大事なのは誰だ?他ならぬ此処の当主であられる尚児様ではないのか?貴様らは当主を裏切って敵である尚葉様に付くというのか?」
「そ、それは…」
「今すぐ案内しろ。旦那様と話したい」
「……………承知しました」
しばしの沈黙の後、黒服たちは武装を解いてレツとザイと案茂を仁沢賀瀬邸内へと通した。一体どういう手を使ったのかまるで分からないが、ひとまずは先へ行けるようだった。
「座敷牢はこの先です。先ほど様子を見た限りでは座敷牢の隅っこでいじけておりました」
「尚児さんらしい…」
「分かった、もう貴様らに用はない。持ち場へ戻れ」
「………はっ!」
ザイの目力を受けた黒服たちが一斉に立ち去り座敷牢のある扉に案茂ら三人だけが残る。そしてレツが黒服から受け取った鍵で座敷牢の扉を開けた。




