ひとさわがせなおじ様
案茂が連れてこられた仁沢賀瀬家は立派な門構えをした大邸宅であった。門だけ見ても案茂の住んでいるアパートと同じくらいの大きさがあり、門の脇には大きな木の板にこれまた大きな文字で「仁沢賀瀬」と書かれている。此処が道場なら道場破りが持っていきそうな看板といえる。
更に門をくぐってから玄関までの距離に広がる庭はまるで小学校のグランドくらいあった。歩けど歩けど中々玄関までたどり着かない。
あの時助けたおじさんは一体何者なのか。案内される案茂の脳裏にクエスチョンマークが浮かぶ。そうこうしている内にようやく案茂は仁沢賀瀬家の玄関に着いた。
「すみません。旦那様にお会いする前に此方のタブレットに手を置いてください。証明の為、貴方の情報を登録させていただきます」
黒服の一人が案茂の前にタブレットを差し出した。案茂が回りの黒服たちに視線を向けると回りの黒服たちも同様に頷いた。此処は大人しく従うしかないか。案茂は腹を括ってタブレットに右手を乗せた。
バチッ
右手に痺れるような痛みが走る。タブレットから何か電気が発したらしい。一瞬のことだが、案茂は動揺して右手を引っ込めた。
「???これは?」
「…どうやら認証が完了したようですね。お待たせしました案茂様。旦那様の元にご案内します」
黒服はタブレットをしまうと玄関の向こうにいるであろう仁沢賀瀬家の主の元に案茂を促した。ゴクリと生唾を飲み込んだ案茂は靴を脱ぐとゆっくりと邸宅の中へと足を踏み入れる。
「一体全体大袈裟な…僕に何の用があるってんだ」
案茂は独り言を呟くと邸宅の真ん中辺りにある応接間に通された。応接間は黒塗りのフカフカなソファに大理石のテーブル、そして桧の壁に囲われたシンプルかつ威圧的な空間である。案茂はソファに座ると主の登場を待った。
「…正直どんな人だったかも良く覚えてないんだよな…夢中だったし、そんな余裕なんか無かったし」
案茂がぶつぶつ言っていると不意に重そうな木のドアが開かれた。開かれたドアの先から白髪混じりの優しい目をしたメガネの紳士が入ってきた。黒服たちは皆紳士に向けて頭を下げている。どうやら彼が案茂を呼んだ仁沢賀瀬家の主その人らしい。
「案茂様。此方が我等が主である仁沢賀瀬尚児様であられます」
黒服の一人が案茂に紳士の紹介をする。案茂も思わず立ち上がり紳士に向けて頭を下げた。
「挨拶は結構だ、案茂君。良く来てくれたね」
紳士こと尚児はニッコリと満足そうな笑みを見せて案茂に握手を求めた。




