秘宝とは
シーラの大胆な行為に目が点になっていた尚児だったが、気を取り直すと咳払いした。尚児の様子を見てボーッとしていた案茂も慌てて尚児の方へ向き直る。
「よろしい。改めて仁沢賀瀬家について語っていくとしよう。そもそも我が仁沢賀瀬家の始まりは江戸時代よりも更に遡ること戦国時代、それこそ信長や秀吉の時代だろう。この地を治める領主として私の先祖が…」
「あー、そんなのいいですから端的に何で僕が狙われたのか、仁沢賀瀬家に何があるのかだけ教えてください」
「君!それを話すのには我が家系の歴史を知ってもらう必要があるのだよ!」
「さっさとしろナオジ。我々はお前と違って暇じゃないんだ」
二人から話を遮られて尚児はぐぬぬと悔しそうな表情を浮かべる。周りの黒服たちが何とか尚児を宥め、再び話を進めることになった。
「う…えーと、とにかくだ!仁沢賀瀬家が此処まで発展できたのも、そしてこれまで身内の間で権力争いが起きているのも、当主にのみ継承される『秘宝』の存在があるからだ」
「ひ、秘宝?」
案茂は尚児の話に間抜けな声を上げる。対照的にシーラは『秘宝』の話が出た途端、前のめりになって尚児を見据えた。どうやらシーラは尚児の言っている『秘宝』について何か思うところがあるらしい。
「左様。『秘宝』は我が仁沢賀瀬家の門外不出の宝。そんじゃそこらの骨董品とは訳が違う」
「じゃあその『秘宝』を狙って身内同士で対立が起きていたりした訳ですか」
「うむ。パッと見は非常に美しい黄金色に輝く宝玉なのだが…」
「いわゆるキンタマって奴か」
「シーラ!!女の子がそんな下品なこと言っちゃいけません!」
シーラの空気を読まない発言に案茂は子どもを叱る親の如く突っ込む。シーラの言葉に対し尚児は顔を不快そうに歪めながら、話を続けた。時折「…案茂君の婚約者でなかったら迷わずぶちのめしてくれる…」とわざと聞こえるような声でブツブツ言っている。
「とにかくこの『秘宝』は仁沢賀瀬家の家宝にして当主の絶対的な権力を示すもの。これさえあれば、この街を…いやこの世を支配することすら容易いこと」
「へ、へー…」
調子が上がってきた尚児に対して案茂は冷めた表情と声で返す。一体この親父は何をいっているんだ。
「でも家宝とはいえ只の宝玉なんでしょ?当主の絶対的な権力の象徴というなら分かりますが、その宝玉でこの世を支配するなんて大袈裟な…」
「クックックックッ…」
案茂の発言に尚児が不気味な笑いで返した。尚児の笑みに案茂は思わず身震いする。シーラは尚児の様子に動じることなく、『秘宝』の更なる情報に耳を傾けている。
「君は何も分かってないな、案茂君。ま、いいさ。君はいずれ当主になる男。知っておいて損はないだろう」
「だから当主の話は白紙にしてくれって…」
「ご託はいいから早く話せナオジ」
「黙れ、埋めるぞ!今から話す!…コホン、『秘宝』の本当の価値は見た目が黄金色の宝玉だからではない。宝玉の秘められた力にある」
「秘められた…力?」
ポカンとする案茂を尻目にシーラは眼光鋭く尚児を睨み付ける。尚児はニヤリと笑い、言葉を続けた。
「何故仁沢賀瀬家が幾多の戦乱や戦火に巻き込まれることなく此処まで発展できたのか。それは宝玉に『他人を洗脳する』力が宿っていたからだ」
「なっ、…他人を洗脳する…?!」
尚児の予想外の話に案茂は思わず言葉を失った。




