腹割って話そう
「な、何をするだー!許さん!!」
尚児が頬を押さえながら案茂に向かって叫ぶ。殴られた衝撃で鼻と口から血が流れており、前歯が一本欠けているのが見えた。案茂に殴り掛かろうとしたが、黒服たちが必死に押さえ込む。
案茂も即座に黒服たちに取り押さえられた。しかし、当の案茂はしてやったりの笑みを見せる。
「貴様!!この俺を!仁沢賀瀬尚児様と知っての狼藉か!この命知らずがあああ!!」
尚児の余りの剣幕を見てシーラが呆れ返る。取り押さえられている案茂を見て、シーラは溜め息を付いた。
「おいアンモナイト。本当に彼奴がヒトサワガセの当主なのか?」
「そうだ。悲しいかな紛れもない事実だ」
「お前たち!当主に失礼だぞ!!」
「そうだ!こんなバカでも立派なんだ!」
「こんな屑野郎でも我々の立派な雇用主なんだ!」
「そうだ!こんなクソヤロウでも大事な主人なんだ!」
「「「そうだ!そうだ!バカで屑でどうしようもない野郎だけど、仁沢賀瀬家を率いるお方なんだ!」」」
いつの間にか周りの黒服たちまでもが話に加わっていた。しかも主人のフォローどころか案茂たちに同調している。というか寧ろ言い回しは案茂たちよりも酷い。どうやら彼等も尚児に対して思うところがかなりあるらしい。
黒服たちの本音を聞いた尚児は顔を真っ赤にして大の字に寝込んで駄々をこね始めた。目から涙を流して喚き散らしている。
「チクショウ!!どいつもこいつもバカにしやがって!!俺は仁沢賀瀬の当主だぞ!この街の誰よりも偉いんだぞ!お前らなんか屁でもないんだぞ!俺にひれ伏せ!下賎の輩が!!」
尚児の醜態ぶりにシーラは頭を抱えた。標的としていた男が此処までの小物とは想像していなかったのだろう。
「おいアンモナイト。コイツはもう放っとこう」
「いいのか…?」
「何か殺す価値すらない気がする。どうも萎えた」
シーラの呆れ声を聞いて案茂は自分を取り押さえていた黒服たちをあっさりと振り払い、未だ駄々をこねている尚児の元へと歩み寄った。
「尚児さん、聞いてください」
「ああん!?何だ?このクソガキ!誰に向かって口聞いてるんだ?ああん!?」
「尚児さん、落ち着いてください」
「俺に手を出したことを嫌と言うほど後悔させてやる!この街の警察だって裁判所だって俺の味方なんだ!俺が法律だ!お前なんか死刑だ!死刑!死刑!死刑!」
「尚児さん、いいですか」
「お前なんか全然怖くないよーだ。ベロベロバー!バーカバーカ!やーいやーい、お前の母ちゃん出べそ!」
案茂は深呼吸すると尚児の胸倉を掴んで無理矢理立たせた。そして右の拳で思い切りボディブローを尚児に決めた。尚児は腹を押さえてその場に沈み、涙と鼻水を垂らして嘔吐している。
「さ、腹割って話しましょうか。尚児さん」
咳き込みながら悶絶する尚児に対して案茂はニッコリと笑みを浮かべて見下ろす。柔和な表情だが、目は全く笑っていない。案茂の有無を言わさぬ様子を見て、黒服たちは勿論のことシーラも思わず戦慄した。




