事の始まり
天涯孤独の青年、案茂無人は23歳のフリーター。夢も希望も当てもなくピザ屋の配達で糊口をしのぐ日々を送っている。人付き合いも苦手で上司や同僚の誘いも断って、休日は引きこもるかゲーセンのような所に入り浸っている。
案茂はいわゆる陰キャといわれる人種らしく回りの人間から避けられ、後ろ指を差されることが多かった。が、人付き合いを煩わしく思っている案茂にとってはむしろ好都合だった。
が、しかし…そんな案茂のうだつの上がらなくも事足りている日常は突然終わりを迎えることになった。
全てのきっかけはピザの配達に向かう途中で熱中症で意識を失った年配の男性を見かけて、助けたことだった。とはいっても案茂は男性を涼しいところへ移動させて、救急車が来るまで付き添っていただけだった。案茂は男性を救急車に乗せて別れる際に連絡先を渡したのだが、それが案茂の人生を左右する事態を招くことになった。
男性を助けた数日後、案茂はピザ屋のバイトの帰りに突然謎の黒服たちに呼び止められたのだ。
「案茂無人さんですね?」
「はっ…はあ」
「…なるほど旦那様の仰る通りだ」
「…?あのぅ、あなた方は?」
「貴方をお迎えに上がりました」
「…?はあ??」
「詳しい話は此処では出来かねます。一緒に来ていただけますか?」
「い、いや…その…知らない人には付いていくなと、家の者から教わってまして…それに今日も家の者から頼まれた用がありまして…」
「天涯孤独の身の貴方が、ですか?」
「な、何故それを…?」
如何にも怪しい黒服たちを前に案茂は逃げようとしたが、あっという間に取り囲まれて退路を絶たれてしまった。どうやら圧倒的に此方の方が不利だ。とはいえ、大人しく従うつもりもない。
「ま、待ってください。無理やり拉致しようするのなら大声だして人を呼びますよ?!」
「ご心配なく。我々は仁沢賀瀬尚児の手の者です」
「ひ、仁沢賀瀬…?」
「旦那様が貴方のことを呼んでおります」
仁沢賀瀬…その名前が熱中症で倒れていた男性のことであることを思い出した案茂は一先ず黒服たちの話を聞くことにした。
「は、はあ…あの時のおじさんですか…退院できたのですか?」
「その節はお世話になりました。旦那様は昨日無事に退院され、元気になっております。旦那様は是非とも貴方にお礼をしたいそうです」
「それはどうも…でも大したことしてないですし、大袈裟ですよ」
「いいえ、旦那様は本気です。どうしても貴方以外には考えられないと…」
「へっ?」
「…失礼、此方の話です。とにかく急ぎましょう、我々には時間がない」
黒服たちに急かされるように案茂は用意された車に乗せられて仁沢賀瀬家に向かうことになった。




