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1-8 友達が家に招いてくれたのでこっそり行こうと思います。


 とある夕暮れ。


「行ってきます」


 ルーシェはコソコソと家を出ようとする。

 その動きがどうも怪しい。まるで親の目を盗む子供のようである。


「ルーシェ。どこに行くのさ」


 当然、テトはその動作に怪しんだ。


「あ、うん。ちょっとね。すぐ帰るから」


「僕のご飯は?」


「キッチンに用意してあるから適当に食べて」


「僕は君の親じゃないけど、一人でどこかに行くのは感心しないな」


「すぐ帰るよ。心配してくれてありがとう。じゃ、行ってくるね」


 ルーシェはテトに行き先を告げずに家を出る。

 家から見えないところまで進んだ直後である。

 ルーシェは小声で詠唱を唱えた。


「我が名はルーシェ・スカーレット。更なる速さを、風よ、光よりも速く吹け。光速天翼翔(レィウィング)


 白い大きな翼を身に纏い、大空へ高く羽ばたく。

 次の瞬間、目にも留まらぬ速さで空中飛行をする。


「ヒャッホーイ! 気持ちいい!」


 自分がまるで風になったようにルーシェは身体を回転しながら空を舞う。

 鳥は突風に当たったように弾かれる。

 向かった先は水の都・ウォーターシティ。

 前回立ち寄った街にルーシェは再び訪れていた。

 そう、ここで知り合ったサシャのおもてなしを受ける為、ルーシェはわざわざ出向いたのだ。

 テトに言わなかったのは面倒毎になると感じてあえて伝えていない。そんな理由だ。

 魔法を使っていることがバレないように路地裏へ降りて人通りへ歩いて行く。


「ルーシェ。こっちだよ」


 噴水広場で待ち合わせたルーシェはサシャの元へ駆け寄る。


「サシャ。ごめん。待たせちゃったね」


「いいの。わざわざ来てくれてありがとう」


「いえいえ」


「じゃ、早速、私の家に行こうか」


 ルーシェはサシャの家に向かうことになった。

 サシャの家はマンションの5階の一角である。

 田舎に住むルーシェから見ればマンションのような建物が珍しく感じる。


「ここよ。さぁ、どうぞ」


「お、お邪魔します」


 同じ年代の子の家に入ることが初めてであるルーシェは少し緊張していた。

 そもそも身内以外に招かれたことは初めてのこと。

 リビングへ入るとサシャの家族が出迎えてくれた。

 母親、父親、妹二人と弟が一人とまぁまぁな大家族だ。


「初めまして。ルーシェ・スカーレットです。本日はお招きいただきありがとうございます」


「そんなかしこまらずにしなくていいのよ。今日はゆっくりしていって下さいな」


「ありがとうございます。お母様。これ、うちで取れた野菜です。よかったらどうぞ」


「まぁまぁ。そんな気を使わなくてもいいのに。どうもありがとう」


 一連の挨拶を終えた直後、サシャの妹たちにせがまれてルーシェは遊びに付き合うことに。

 トランプや人生ゲームなど、子供たちで盛大に盛り上がる。

 さらに豪華な食事も食べさせてもらい、ルーシェはご満悦になる。


「じゃ、私はそろそろ帰りますね」


「ルーシェ、まだいいじゃない。むしろ泊まっていけば?」


「え、でも悪いし」


「うちはいいのよ。ルーシェちゃんが良かった」


「ね? お母さんもそう行っているし」


「うーん」


 ルーシェはテトの顔が浮かんだが、訳を話せば許してくれるよね、と甘い考えが浮かんだ。


「じゃ、お言葉に甘えようかな」


 やった! と、サシャの妹たちが大喜びする。

 その後、お風呂に入り、サシャのパジャマを借りて寝るまで遊び尽くした。

 妹たちが力尽きてようやくルーシェは身体が休まる。

 寝静まって数時間。ルーシェも家族たちも深い眠りに付いていた。

 そんな時である。

 建物の揺れでルーシェは目を覚ます。


「地震?」


 気になったルーシェは窓から顔を覗かせる。

 外の景色を見たルーシェは驚愕する。

 この揺れは地震ではない。

 津波だ。

 海に囲まれたウォーターシティは津波の被害が頻繁に起こる。

 だが、建物を超える津波は早々ない。

 しかし、ルーシェの目の前には建物を超える津波が迫っていた。


「ルーシェ? どうしたの?」


 サシャは眠い身体を無理やり起こした。


「この街が危ない」


「え?」


「守らなきゃ」


 ルーシェは窓を開けて詠唱を唱えた。


「我が名はルーシェ・スカーレット。更なる速さを、風よ、光よりも速く吹け。光速天翼翔(レィウィング)


 ルーシェの背中に翼が生えた。その姿を見たサシャは驚きを見せる。


「ルーシェ? その姿は?」


「私が守らなきゃ」


 ルーシェは迫る津波に向かって飛んだ。

 本来、たった一人の少女が津波のような自然災害をどうにか出来る訳ではない。

 巻き込まれておしまいだ。

 だが、ルーシェはただの少女ではない。

 魔力を秘めた特別な存在だ。

 津波よりも遥か高い位置まで飛んだルーシェは立ち止まる。


「どうしよう。このままじゃ、街が飲まれる。でも、どうやって止めれば……」


 考えなしに飛び込んだルーシェは直前になってその方法を悩んだ。

 高い魔力を持っていてもそれをどう使うかによって話が変わる。

 無鉄砲に魔法をぶつけたとしても何も解決はしない。


「こういう時にテトがいてくれれば適切な対応ができるのに」


 そう、テトがいればこの場を切り抜けられる可能性は高まる。

 だが、今はルーシェ一人でどうにかしなければならない。

 焦れば焦るほど、その判断は鈍る。だが、残された時間は僅か。

 選択が迫られる。


「時間が止まればなんとかなるのに。時間が……。時間。そっか」


 ルーシェは何かを閃いた。

 そして行動に移すため、詠唱を唱えた。


「大地に満ちる空気よ、凍てつくせ、永久に光なき氷に閉ざされん。極零氷殺(ゼロフールフィル)


 効果。対象を氷に閉じ込める魔法。

 

 パキッ! パキパキパキ!


 カチーーーーン。


 対象となる相手は津波。その効果によって津波を凍らせたのだ。


 これで街を襲うことはなくなった。半永久に凍らせてしまうが、氷の撤去はどうなるか不明だが、なんとか自然災害を食い止めることに成功した。


「間に合った。これで街も安心だ」


 一仕事を終えたルーシェはサシャの元に戻る。

 だが、サシャは夢かと思って眠りについている。

 ルーシェが魔法を使えるとは夢にも思わないだろう。


「もし問われても夢だったって貫こう」


 疲れたルーシェは転げるように眠りについた。

 翌朝、頭がスッキリしたルーシェは帰宅することに。


「一晩、ありがとうございました」


「こちらこそ。また来てください」


「はい」


 おばさんに挨拶を済ませたルーシェはサシャに呼ばれる。


「ルーシェ。昨日のことなんだけど」


「昨日?」


「勘違いかもしれないけど、ルーシェが魔法のように空を飛んだ気がしたんだけど」


 やはり、サシャは勘付いている様子だ。

 友達に隠すのは心苦しいが、魔法を無断で使ったことが広まるとルーシェの立場が危ない。だから。


「空を飛んだ? 私が? サシャ、昨日は寝言を言っていたから変な夢でも見たんじゃないかな?」


「そうなのかな?」


 疑いつつもサシャは夢だったと納得した。


「じゃ、そろそろ帰るね」


「ルーシェ。また、会えるよね?」


「勿論。また遊ぼうね。サシャ」


「うん」


 ルーシェはサシャと別れた。


 また再会を約束して。


 そして帰宅後のこと。


「ただいま」


「ルーシェ。すぐ帰るって言ってどこに行っていたの」


 テトは少し怒り気味でルーシェを睨んだ。

 しまった。遅くなることを伝え忘れたと思ってももう手遅れだ。


「ごめん。色々あってさ」


「色々って何?」


「いや、それはその」


「まさか無闇に魔法は使っていないだろうね?」


「え? 何のことですか?」


「ルーシェ」


 テトの声色が低くなる。次の瞬間、肉球から鋭い爪が伸びた。


「ヒィー。ごめんなさい。もうしませんから」


「君はいつもそうだ。僕の言うことを聞かずに勝手な行動をして」


 そこからテトの説教が始まり、ルーシェは身を縮めていた。

 しばらく魔法を使って遠出することを禁じられてしまう。


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