2-22 私を弱者と勘違いしているようなので少し付き合うことにします。
ルーシェが連れ出されたのは訓練場で今は誰もいない。
雑にルーシェはその場に捨てられた。
「った! ちょっと。雑じゃない?」
文句を言うルーシェに対して筆頭のココアは声を掛ける。
「それで? 話っていうのは?」
「サシャにこれ以上、ちょっかいかけないでくれるかな? あの子、私の大事な友達なの」
「ちょっかいだなんて人聞き悪い。私たちはスキンシップを取っているだけよ」
「嘘ばっか」とルーシェの小声は鮮明にココアの耳に入った。
次の瞬間、ココアはルーシェの服を掴んだ。
「おい。今なんて言った? コラ」
「嘘ばっかって言ったのよ」
お互いの顔が近い。
女同士のバチバチしたものが伝わる。
「いいわよ。サシャには手を出さないであげる」
「本当?」
「えぇ、その代わり、あなたが私たちのオモチャになってくれるならね」
「お断りします」
ルーシェは即答だ。
「なら、その身体に身に示させるしかないわね」
ココアの得意な魔法は拘束。
相手の動きを封じる魔法を得意とする。
首輪、手錠、足枷をルーシェに付けて壁に押し付けた。
ルーシェの動きは完全に封じられた。
ルーシェは特に抵抗するわけではなく、素直に拘束された。
「なんか。前にもあったわね。こんなこと」
「何を言っているのかな? さて。何をしようかな。服従するまでくすぐりの刑か、永遠と恥ずかしいビデオを見せ続けるか迷いどころね」
「拘束した割には随分しょうもないことをしようとするのね。てっきり力いっぱい殴られたり、裸にされると思っちゃった」
「あー、その手があったか。ならそれでいきましょう。おい」
ココアは二人に指示をする。
二人はルーシェの制服に手を伸ばす。
脱がされると直感したルーシェは奥歯を噛んだ。
すると、二人の手はバチッと静電気が走る。
パチッ! パチッ! ビリ、ビリ。と。
「痛い。何?」
これはルーシェの魔法で自身に静電気を発していたのだ。
「今の私は誰にも触れることはできないよ」
「小細工をしているのか。なら、これでどう?」
ココアはヌメヌメした触手をルーシェの体に巻きつけた。
電気を発生したら自分に返って来るので意味を持たない。
「うわ。気持ち悪い」
ヌメヌメはルーシェ纏わり付いた。
締め付けの力も強力で簡単に振り解けるものではない。
「魔法を解いて欲しいなら私に服従するって宣言することね」
だが、追い詰められているようで尚もルーシェは余裕を感じられる。
その顔がココアとしては気に食わなかった。
触手の締め付ける威力を強めたことでルーシェは苦しい表情を見せる。
「ほら。早く認めないとどんどん威力を強めるわよ」
直後、圧迫するように触手の力が強まるが、ルーシェは負けを認めるような発言は見せない。
「この! いい加減にしなさい」
次の瞬間である。
ルーシェの身体は風船が破裂するようにパンッと吹き飛んだ。
それを見ていた二人はやりすぎでは? という目を向けていた。
当然、ココアも自分でしたことに驚きを見せた。
「死んだ? いや、まさかね」
「やばいよ。逃げる?」
「逃げるって言っても」
「なーんて残念でした。それ、私の偽物だよ」
ルーシェはココアの肩に手を触れた。
「な! どうやって」
「あなたたちは気付いていないようだけど、最初に私を拘束した時点であれは偽物だったのよ。偽物を痛ぶって楽しかった?」
「偽物ってまさかみがわり魔法を使ったってこと? あれは上級生でも難しいって言われる魔法よ。あなた何者よ」
「ルーシェ・スカーレット。ただの一般生徒よ」
まぁ、七賢人ですけどね。と、ルーシェは心の中で呟く。
「くそ。でも、あなたは本物でしょ。だったら捕まえて終いよ」
ココアの拘束具が飛び出したその時だ。
ルーシェの身体は破裂した。
「残念。それも偽物でした」
ルーシェはホウキに乗って空にいた。
初めから高みの見物をしていたようだ。
地上に着地したルーシェはココアの元に近づく。
「私は別にあなたの言いなりになるつもりはない。ただ、これ以上陰湿な虐めはやめて欲しいだけ。でも、言うことを聞いてくれないなら私、そろそろ怒るけどいい?」
ルーシェは静かに殺気を放った。
それを目の前にした三人は小さく後退りをする。
三人から見ればルーシェは得体の知れない何かである。
それでも一人、ルーシェに向かう人物がいた。
「くそ」
ココアは杖をルーシェに向けた。
しかし、その手は震えており、うまく定まっていないようだ。
「しっかり狙いなよ。今度は避けたり偽物は使わないから」
強者だからこそ言える発言はルーシェに合ったセリフだが、それを言い過ぎるのも良くない。相手を挑発するのはあまりにも危険であり、自分の逃げ道を自ら無くすものに相当する。
ココアとルーシェの睨み合いが続くその時である。
「あなたたち。何をしているの」
現れたのはオリバーだ。
「オリバーさん。どうしてここに?」
「騒がしいから様子を見に来たの。それで? 何をしていたの?」
オリバーの発言にココアたちはしどろもどろになる。
見た感じ、明らかにココアたちはオリバーの存在を恐れている様子だった。
立場的にはオリバーの方が上なのか。
「ルーシェ・スカーレットさんにちょっかいを出していたのなら嬢王に言いつけますよ?」
その発言にビクリと三人の背筋が伸びた。
「オリバーさん。誤解です。少し雑談をしていただけですよ」
「本当ですか? スカーレットさん」
「えぇ、まぁ」
「それじゃ、私たちはこの辺で」
ココアたちは逃げるようにその場から離れた。
「スカーレットさん。お怪我は……まぁ、ないでしょうけど」
「失礼な。見てよ。ここ! 手首に変な跡が付いているでしょ」
ルーシェは右手首をオリバーに見せた。
「無傷と変わりありませんね。彼女たちは一応、嬢王を慕っているファンの方です。悪い噂を流されたら今度は嬢王に目を付けられます。そうなれば、学園では完全に居場所を無くすでしょう」
「ふーん。エリカって七賢人であることは公にしているの?」
「七賢人ではなくとも嬢王は貴族の娘であり令嬢です。それだけでも尊敬される方ですよ」
「まぁ、言われて見ればそうか。色々目立っているものね」
「ところでスカーレットさんは何をされていたんですか?」
「あぁ、ちょっと彼女たちに警告をしていたの。これ以上、私の友達を虐めないでって。でも、力で教えるよりなんとか言葉で分かってもらおうとしたけど、上手くいかないもので」
「あなたなら力で分からせても良かったのでは?」
「私、そういうの嫌なの。それに七賢人であることを隠しているわけだし、下手なことはできないよ」
「でも、まぁ、今後は変なことをされないでしょう。良かったですね」
「良かったのかな?」
ルーシェの不安は取り除かれたが、どうも釈然しない様子だった。
それでも結果としては良かったことに変わりない。




