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2-17 夢から覚めたら縛られていました。でも、対策済みなので問題ないです。


「お母……さん」


 目を覚ました時、ルーシェはその異変に気づくことになる。

 目の前には母親がいない。

 夢だと分かっていても、どこかで無意識に母親を求めていたのかもしれない。

 現実に戻った時、どこか虚しさがルーシェを襲う。


「夢か。そうだよね。お母さんがこの世にいる訳がない。私、いつの間にか寝ちゃったんだ」


 身体を動かそうとするが手足が全く動かせず、一気に眼が覚める。

 壁に貼り付けられた板にルーシェの手足は拘束器具で完全に固定されていた。

 それに暗くて狭い部屋にいるようで息が詰まる感じがした。


「な、何よ。これ! 外れないじゃないの。ちょっと! 誰かいないの?」


 しばらく大声で騒いだ後、部屋の扉が開き、誰か入ってきた。

 エリカとオリバーだ。


「あら、騒がしいから来てみれば眼が覚めたようね。おはよう。よく眠れたかしら?」


 エリカは笑みを浮かべながら言う。


「あんたの仕業ね。どういうつもりよ」


「無様ね。フルコースを堪能したらあっさり眠っちゃうなんて。初めからあなたは私に踊らされていたのよ」


「どういう意味よ」


「この家に入る前からオリバーがことを運んでくれたの。私の指示通りに」


「オリバーが全て手を引いていたってわけか。じゃ、朝のあの土下座もこの為の演技ってこと?」


「土下座? オリバー。あなた、そこまでしたの?」


「はい。全ては嬢王の為です」


「そう。私としてはうまく家に誘導してくれたらそれで良かったんだけど」


「結果的には嬢王の思い通りになりましたよ」


「そうね。オリバー。ここまでルーシェを誘導してくれてありがとう。あとは私に任せてね」


 身動きが取れないルーシェに対してエリカは正面に立つ。

 ルーシェから嫌な汗が流れ落ちる。


「私をどうするつもり?」


「同じ七賢人でも魔力はあなたが優っていることは認める。正面からかち合っても勝機はない。この間の戦いでそれは把握できた。あなたに勝つためには不意打ちをするしかないのよ」


「そんな卑怯な勝ち方をして満足?」


「卑怯でも正々堂々でも私は結果しか望まない。どんな方法で勝っても勝ちは勝ち」


 エリカはあくまでも勝利に拘っている。ルーシェに対しての敗北は許されなかった。

 そのためには例え姑息な手を使おうと構わないといったところだろう。


「悪いけど、今度は勝たせてもらうわよ。ルーシェ」


 エリカは杖を向けた。

 完全に無抵抗な相手にも容赦はしないという思いが前面に出ていた。

 杖で顎を上げられて背くことすら許されない状況にルーシェの額から冷汗が流れ出た。

 このままではやられる。


「いい気味ね。さぁ、どうしてあげようかしら。リクエストがあるなら聞いてあげようか? ホラホラ」


 エリカはルーシェに対して嘲笑うように攻め立てた。

 そんな時だった。

 オリバーはエリカの腕を両手で鷲掴みにした。


「なに? オリバー。何のつもり?」


「すみません。嬢王。やはり私にはこのような形での勝利はよくないかと」


「私に口答えするつもり?」


「はい。今回ばかりは口答えします」


 エリカとオリバーはもみ合いになる。

 魔法は関係なく完全に力と力のぶつかり合いだ。

 魔法ではエリカが圧倒的な実力だが、力ではそんな変わらないと踏んでの行動だ。

 だが、結果は。


「きゃ!」


 オリバーはエリカの魔法によって壁と身体を磁石にしてくっつけてしまった。


「あなただけは私を理解してくれると思ったのにとんだ誤算ね」


 エリカは杖をオリバーに向けた。


「エリカ。やめなさい。あなたの目的は私でしょ。それ以上、私の目の前でオリバーを傷付ける真似をすればタダじゃ済まさないよ」


「ふーん。身動きが取れないくせに随分、偉そうな口を聞くのね。だったらあなたから片付けてあげる」


 杖の先はルーシェに向けられた。

 次の瞬間、杖から氷槍(アイスランス)がルーシェに向かって解き放たれた。


「スカーレットさん」


 ズバンッ!


 氷槍(アイスランス)は寸前のところでルーシェの頭部横に擦れた。

 その攻撃は手枷を破壊して右手が自由になる。


「嘘。ちゃんと狙ったのにどうして外れたの?」


「外れたんじゃない。外させたのよ」


「は?」


 ルーシェは自分を拘束している枷を魔法で破壊して自由の身へ。

 そしてオリバーにされた磁石魔法を解除させた。


「外させたってどういう意味よ」


「気付かない? ならその魔法を解いてあげる」


 するとエリカは異変に気付いた。


「何? 視界が」


「そう。私はずっとあなたに目の掘折異常の魔法をかけていたのよ。つまり正視と乱視を入れ替えていた。正しく見えていると思っていたものが実はボヤけた視界だったって訳」


「つまり私の視界が異常だったことで攻撃を外したって訳? いつからそんな小細工を」


「私がこの城に入ってあなたと対面した時よ。気付かなかったでしょ」


 エリカは奥歯を噛み締めてやられたと悟る。

 完全にルーシェが一枚上ということを見せつけられた。


「ちっ」とエリカは舌打ちを鳴らした。


「これで私を縛るものはない。魔法でもなんでも使える。どうする? 私はいつでもいいけど、やる?」


 ルーシェはエリカを煽る。


「いいわ。小細工はなし。正面からぶつかり合いましょう。ガチンコ勝負よ」


「そうこなくっちゃ。その提案には私は賛成よ」


「なら表に出なさい。戦うなら広い場所に限るわ。今度こそあなたに負けを認めさせてやる」


「分かった」


 エリカとルーシェは部屋を出る。

 その姿にオリバーはどうしていいか分からない様子だった。


「オリバー。あんたも来て。そしてどっちが勝つか。その目でちゃんと見届けてあげて。あなたにはその義務がある」


「スカーレットさん」


「私は手加減しない。勿論、エリカもそのつもりだと思う。だから最後までその勇姿を見守ってほしい」


「はい。分かりました」


「ルーシェ。何をやっているの。早く来なさい。今更、逃げられないんだからね」


 エリカは催促した。


「分かっているわよ。今、行く」


 ルーシェとエリカの真剣勝負が始まろうとしていた。


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