1-3 お肉が食べたいので狩りをします。
盛り上げていきます!
引きこもりの自給自足生活を送っていたルーシェだったが、黒猫である使い魔のテトがやって来たことでその生活スタイルは変化した。
自給自足することは変わりないが、それに加えてテトが家庭教師としてルーシェに魔法を教え込まれる。
勉学が苦手なルーシェにとっては苦痛の日々である。
朝から晩まで魔道書を読み聞かせられてルーシェの気力は限界だ。
緩いスローワークをしていた生活と比べると負担が大きくなった気がする。
ただ、勉学をするよりか、畑仕事をして体を動かす方がまだマシに思えた。
「お、良い艶。これはそろそろ収穫の時期ですな」
ルーシェはナスを見ながらニヤけていた。
ルーシェの金銭面は野菜を村に売ってそれで得たお金で日用品雑貨など必要最低限のものを買う生活がメインとなっている。
野菜を育てるのは食費の為であり、生活費の稼ぎとして重要な仕事の一環である。
ルーシェの家の前では十種類以上の野菜を常時育てている。
元々、両親が育てていた野菜を引き継ぐ形で育てていたので慣れたものだ。
それに加えて、野菜の知識は両親が残したノートに全て乗っていた。
嬉しそうに野菜を収穫している最中、テトは声を掛ける。
「野菜ばかりで飽きない? 僕、お肉が食べたいよ」
「あんたはネズミを狩っているからいいじゃない」
「ネズミも飽きてきたよ。ルーシェはお肉食べたいと思わないの?」
「それは私も思っているよ」
「じゃ、何で食べないの?」
「食べないんじゃなくて食べられないの。私、狩りとかしたことないし」
「狩りか。僕が教えようか?」
「ネズミの狩りならいいわよ。私はちゃんとしたお肉が食べたいの。牛肉とか豚肉とか。ここ何年ハンバーグを食べられていないか。私だって辛いのに我慢しているんだよ」
「お肉か。よし。今日は課外授業の一環として狩りをしようか」
「授業で狩り?」
その結びつきに疑問を残しつつ、ルーシェはテトと共に森へ向かうことに。
そこでは様々な野生動物が生息しており、ルーシェは危険と認識している為、普段立ち入らないエリアである。
「ねぇ、テト。この森、大型の肉食動物が生息しているって噂があるから危ないよ」
「お肉食べたいんでしょ?」
「食べたいけど、その前に私が食べられるよ」
「僕がいるから危険な生物が近づいたらすぐ察知できるよ」
「それはいいとして狩りをするのに手ぶらってどうなのよ。普通、トラバサミとか檻とか用意するんじゃないの?」
「必要ないよ。今からやる狩りは待ち伏せタイプのものじゃなく、正面から狩る方法だからね」
「正面って私、武器とか持っていないよ?」
「これは課外授業の一環って言ったでしょ」
「もしかして魔法を使うの?」
「当たり前じゃないか。何の為の課外授業だと思っているの」
「無理だよ。魔法が使えてもまだ充分に扱えきれていないんだから」
「その為の課外授業さ。僕がやり方を教えるよ。魔法を覚えられて肉も食べられて一石二鳥だろ?」
「そう、うまくいくかな」
すると、ガサガサと何かの気配を感じた。
「ルーシェ。ターゲットを発見したよ」
目の前にはエゾシカの姿あった。
角が長くかなりの巨体の為、おそらくオスシカだろう。
草食動物とはいえ、あのツノで突かれたらタダじゃ済まないだろう。
「テト、やっぱり怖いよ」
「大丈夫。僕が的確な指示を出すからルーシェはその通りに動けばいいよ」
「でも」
「相手は素早いよ。一発で仕留められなければ逃げられる。落ち着いて狙うんだ。氷槍を撃って」
「分かったわよ。やればいいんでしょ」
ルーシェは緊張の中、エゾシカに狙いを定める。
「我が名はルーシェ・スカーレット。凍てつく氷の槍よ、貫け。氷槍!」
その効果は対象に幾数の氷の槍を目標に放ち、貫く。
難易度はC。
放った氷槍はエゾシカの脚を狙う。
だが、僅かに標的から逸れてしまう。
攻撃に気付いたエゾシカは驚いて遠くに逃げ出してしまった。
「あぁ、逃げられた」
「残念。最初はこんなものだよ。ドンマイ」
「どうせ最初から外すって思っていたんでしょ」
「まぁ、当たればラッキーくらいに思っていたよ」
「ほら、やっぱり。私を試すようなことをして」
「でも、魔法のセンスはかなり良かったよ。コントロールさえしっかりすればかなりの戦力になる。少し教えただけでこれほどの威力を出せるんだ。やっぱりルーシェは才能の塊だよ」
「これは褒められている?」
「勿論だよ」
「悪い気はしないわね」
「さぁ、もう一回実践をしてみよう。こういうのは繰り返し行うことに意味があるんだよ」
「うん。そうだね」
この日は魔法の発動に問題はなかったが、狙いが定まらず、動物を狩ることは出来なかった。だが、何か手応えを感じたようでルーシェは翌日もその次の日もテトと共に森へ出かけることになる。
そして十五回目の挑戦にて。
「氷槍!」
氷槍は標的に向かい、一直線。安定した軌道に乗る。
ルーシェが放った氷槍はついに標的を捕えた。
エゾシカの脚は氷槍で貫かれ、身動きが取れずに踠いている。
「やった! テト。十日目にしてついに仕留めたよ!」
「ルーシェは才能があるのか、ないのかイマイチ分からなくなってきたよ」
「結果良ければ全て良しだよ」
ルーシェはピースをしながら嬉しそうに言う。
ようやく報われたようである。
「まぁ、それはいいとしてようやく肉が食べられるね。じゃ、トドメを刺して解体しようか」
「そっか。そういえば殺さないとダメなんだよね」
当たり前のことを言うルーシェは自覚がなかった。
肉にすると言うことは命を奪うと言うことだ。
何もせずに肉を食べるなんて浅はかな考えではダメである。
とは言いつつも、普通の人は命を奪って解体する作業は心を痛む行為である。
まだ七歳のルーシェにとって命という議題は重くのしかかるのも事実だ。
ナイフを持つルーシェは身動きが取れないエゾシカの前に立つ。
まだ生きている。だが、今から一人の少女がその命を奪おうとしていた。
「ルーシェ。一発で仕留めるんだ。変に急所を外すと肉の味が落ちるし、相手を苦しめることになる」
「分かっているよ。テト。確実に仕留めるから」
刃物の反射がキラリと光る。
ルーシェはごめんね。とエゾシカに言い残し、ナイフを振り下ろした。
ザクッ! グサ! グサ!
解体の方法はテトから教えてもらいながらルーシェは手早く指示に従う。
エゾシカから取れるところは全て取り、合計十キロの肉を家に持ち帰った。
肉の重みがルーシェにとって嬉しいものだった。
久しぶりの肉。それだけが頭でいっぱいである。
「さて。久しぶりのお肉だ。何にして食べようかな。焼肉? 肉丼? ステーキも捨て難いな」
ルーシェは肉の調理法に悩んでいた。
二年ぶりの肉だ。ここは豪勢にいきたいと考えていた。
テトはなんでもいいから肉を食わせてほしいと思っているに違いない。
考えた挙句、ルーシェは調理法を決めた。
「よし。ここはやっぱりハンバーグにしよう」
挽肉にするのに苦労したが、料理に手間をかけることに苦は感じられなかった。
それほどルーシェはハンバーグを食べることを心待ちにしていたのだ。
熱したフライパンにハンバーグの形にした塊を二つ投入した。
入れた瞬間、ジュワと肉汁が溢れて良い音がする。
「もう音だけで美味しそう。あー生きていて良かった」
「それは食べてから言う言葉じゃないの? ねぇ、僕は熱いのはダメだから生でいいよ」
「あーそうだったわね。私と一緒に食べたくないの?」
「別に食べられたらそれでいいよ」
「生意気な猫。そういうことを言う子はお肉あげません」
「嘘だよ。僕はルーシェとご飯を食べたいです」
「焼けるまでもうちょっとだから待っていてね」
渋々、テトはご飯を待たされる。
そして数分後、両面しっかり火が通ったハンバーグが出来上がる。
「やった。ハンバーグだ。頂きます」
ルーシェは両手を合わせてハンバーグにかぶり付く。
口の中で肉汁が一気に溢れて溶けるように消えていく。
「うっっっっっっっっっっまーーーーーーい。何これ。今まで食べたハンバーグの中で一番美味しいかも」
「それはそうだよ。自分で一から狩って捌いて挽肉にして手間暇かけたんだ。それが一番のスパイスが効いているはずさ」
「本当に美味しいよ。私、料理の天才かも。お店開けちゃうよ」
「良かったね。ルーシェ」
久しぶりに口にした肉は格別に美味しかった。
狩りを覚えたルーシェはより自給自足に磨きが掛かった。
ルーシェとテトの生活はまだまだ続く。
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