2-10 決着!?
「無効よ。無効。あなたが私より優っているなんてあり得るはずがない。これは何かも間違いに決まっている」
負けを認めたくないエリカは自分に言い聞かせるように言う。
それを聞いたルーシェは哀れみの目でエリカを見下ろしていた。
「何よ。その目。貶しているの?」
「違う。負けを認めることも必要なことだよ。だから……」
「うるさい。あんたがなんて言おうと私は負ける訳にはいかないんだ! いくよ! 大地に満ちる空気よ、凍て尽くせ、永久に光なき氷に閉ざされん。極零氷殺」
効果。対象を氷の結晶に閉じ込める魔法。難易度はA。
大地から上空へ一瞬で氷結状態にする。
氷から逃げようとルーシェは空へ逃げようとするが、全くの無抵抗状態だったこともあり、反応が遅れてしまう。
それによりルーシェの全身は氷付けになり、身動きが取れなくなってしまった。首元まで氷が迫り、ギリギリ顔は免れたが、寒気がルーシェを襲う。
「グッ。エリカ。あなた、まだこんな魔法を隠していたのね」
ルーシェは苦しい表情を浮かべる。それを見たエリカは勝ちを確信した。
「あははは。どう? これで文字通り手も足も出せない。七賢人だとしてもこの程度か。なんだ。弱いじゃ無い。これじゃ、話になら……」
その時だった。
ブォッと、大地から氷の結晶が弾ける音が響く。
次の瞬間、ルーシェの周りに炎の竜巻が燃え上がり、氷が徐々に溶けた。
拘束が解かれたルーシェは空中から華麗に着地する。
何事もなかったように氷の結晶から脱出した。
「何かした?」
ルーシェは余裕の発言をして見せた。
「詠唱も杖もなく魔法を使えるなんてどうなっているのよ」
「普通はいるんだったわね。詠唱は必殺技みたいでカッコイイから言っているけど、別に言わなくても魔法は発動できるんだよね。杖は私にとってオシャレアイテム? 持っていると魔女っぽいし。まぁ、戦闘で待ってくれない相手だったら詠唱を言うと時間かかるから言わない」
「七賢人ってことはありそうね。私も別に詠唱は言わなくても魔法を使えるし。風と炎。あと雷系統が使えるなんて。あなたの得意系統は何かな?」
「得意系統? 考えたことなかったよ。基本、なんでも使えるし。もしかしてあなた水系統の魔法しか使えないの?」
ルーシェの挑発に対してエリカは苛立ちを見せた。
魔女には得意系統があり、才能によって使える系統が偏ってしまう。
複数の系統をマスターする魔女はなかなかいない。
出来たとしても二系統が一般的だ。
「私は水系統と光系統の魔法を得意としている。でも他の系統が使えなくとも使いようによっては複数系統に匹敵する魔法だって出せるのよ」
エリカは再び水龍を生み出す。それも三体。
「ここから更に面白いものを見せてあげる」
そして氷魔法の合わせ技で水龍は氷龍へ変化する。
その温度はマイナス五千度。少しでも触れれば体は壊死してしまうレベルだ。
氷龍からドライアイスのように白い靄が立ち込めている。
水系統は同時に氷系統と同じ分類に属する魔法だ。
水系統が扱えると言うことは当然、氷魔法も自由に扱えると言える。
エリカはその合わせ技で自身の魔法を最大限強化したのだ。
「さぁ、私の中で最強の中の最強魔法よ。逃げるか守るかしないとどうなるか分からないよ。最悪死ぬかもね。行け! 氷龍!」
グオォォォォォォォ‼︎
三体の氷龍はルーシェに飛び込んだ。
三つの首からは逃げられない。
氷龍はルーシェの姿を完全に捉えていた。
「逃げる? 守る? 必要ないよ」
ルーシェは手のひらから魔力を発する。
終極爆炎。
効果。手のひらの一点に集中して放ち、爆発させる。
爆発系最強魔法。難易度はA。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎
バコーン。バコーン。バコーン。
シューーーー……。
その効果により氷龍は内部から吹き飛び、浄化させた。
「嘘でしょ。私の最強魔法がこうもあっさりと」
「なかなか筋のある魔法で感心するわ。そういう使い方もあるのね。でも私の実力には及ばない。どうする? まだやる?」
「嘘よ。私が負けるわけない。そうだわ。これは何かの夢」
ブツブツとエリカは自問自答する。
勝ち人生だったエリカは負けを知らずに育った。その結果、ルーシェという強敵の存在が受け入れられなかった。
「嬢王!」
遠くで見物していたオリバーはエリカの元へ駆け寄った。
「しっかりしてください」
「触らないでよ!」
パチンと言う音が周囲に響く。
エリカはオリバーに平手打ちをした。
頬が真っ赤になり、痛いはずなのにオリバーは顔色を変えず「申し訳ありません」と謝罪した。
空気は完全に悪くなり、エリカは膝をつく。完全に正常な状態を保てなくなっていた。
ルーシェは自分のせいでこのような状況になっていることに多少の責任を感じた。
勝負所ではなくなった。
ルーシェは完全に魔力を抑えた。
自分の中で勝負がついたと判断したからだ。
これ以上続けるのはあまりにも酷。
エリカは頭を抱え込み、まるで子供のように涙を流し、ブツブツと何かを呟いていた。
「クッ。ルーシェ・スカーレット。今日のところはこれくらいにしておきます。だが、勝った気でいるなら大間違いです。七賢人最強なのは嬢王です。この借りは後日、必ず返します。その時が来るまでせいぜい、首を長くして待っていることです」
オリバーはそう言い残し、おかしくなったエリカを引きずって帰っていく。
その後ろ姿は悲惨なように見えていた。
エリカとオリバーが去って一人取り残されたルーシェは服が汚れることを気にせずに大の字になってその場に仰向けになった。
「疲れた。久しぶりに魔法使って疲れた気がする。魔法も無限じゃないよ。全く」
コトが終わり、未だに何が起こったのかまるで分からないルーシェはしばらくその場で呆然としていた。
実際は硬いコンクリートブロックだが、ふかふかのソファーのようにその寝心地が心地よく感じていた。
「エリカ・ソフィーナか。なんか。面倒な奴に目を付けられたな。絶対また勝負を挑まれるんだろうな。七賢人って知られちゃったし、それで脅されたらどうしよう。あーヤダヤダ。絶対関わりたくないよ。はぁ、最悪」
溜息を吐きながら愚痴をこぼす。
ルーシェの悩みが一つ増えた瞬間である。




