2-7 どうやら私が七賢人だと疑われているようです。
「そろそろ帰ろうかな。明日、朝練すればいいよね」
ルーシェは自分に甘い発言を残しつつ、帰宅する準備をしていたその時だ。
プカップカッ。
ボコ、ボコ、ボコ‼︎
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‼︎
「え? な、なに?」
突如、謎の現象にルーシェは樽の方に目を向ける。
樽の水が独りでに浮かび上がっているのだ。
ルーシェは何もしていない。
つまり誰かの魔法だ。
敵襲か。ルーシェは浮かび出た水に注意する。
すると、水は文字の形になって浮かび上がった。
『アナタハシチケンジンカ?』
と、水文字で書かれている。
あなたは七賢人か?
それを見たルーシェは周囲を見渡した。
「誰?」
だが、周囲に術者は見当たらない。
通常、術者と魔法の距離が遠ければ遠いほど扱いが難しくなる。
半径が五十メートル四方にいないことを考えると術者はかなりの実力者であることは間違いない。
敵か? それとも誰かの悪戯か。
どちらにしてもルーシェは不安に駆られた。
相手はルーシェを七賢人だと疑っている様子だ。確信ではなくあくまでも疑っている。厄介な相手に目をつけられたことには変わりない。
相手はルーシェが一人になったこのタイミングを狙ってきた。
「何か来る」
すると後方からその何かが飛んできた。
ルーシェは寸前で交わす。
「こ、これは氷槍。新入生が使える魔法じゃないわね。出て来なさい! 私は逃げも隠れもしない。あなたは逃げも隠れもするつもり?」
ルーシェは挑発するような発言をした。
これで出て来てくれたら楽だが、そううまくいかないことは知っている。
少なからず攻撃してきた方向が分かった。
術者はその方向にいるだろう。
ルーシェは攻撃された方向に風系魔法を放つ。
「風塵猛刃」
その方向に魔法を放つが、手応えは感じられない。
空振りだ。
魔法を放った直後に移動したのか。
「どこへ逃げた?」
この訓練場はドーム型になっており、外周には隠れそうな場所は多く存在する。
敵はその地形を利用して移動したのだろう。一方、ルーシェはドームの中心にいるため、敵から見れば格好の的だ。
次はどこから攻撃が飛んで来るのか分からない中、下手に移動は出来ない。
そんな時だ。ルーシェの背後に何者かが忍び寄る。
「凍てつく氷の槍よ、貫け。氷槍」
氷槍がルーシェに向けられて放たれた。
しかも三連続だ。
ドカーン‼︎ ドカーン‼︎ ドカーン‼︎
ルーシェは後方に下がりながら大きくジャンプで攻撃を回避する。
攻撃は完全に見切っていた。
この攻撃により、敵はルーシェの前に姿を現す。
敵さんも逃げも隠れもしない。そんな決意を感じられる。
「ようやく出て来てくれたわね」
ルーシェはニヤリと口元が笑う。
これで見えない敵に怯える心配は無くなった。
その正体は魔法魔術学園の生徒だ。指定の制服を着ているので間違いない。
青髪ロングで冷たい目をしている。それに身体が発達しており、胸が大きくどこか大人びている。ルーシェとは面識のない女の子だった。
魔法の腕から見ておそらく上級生であることは間違いない。
彼女の目的は一体……?
「どうも。ルーシェ・スカーレット。私の攻撃を避けるなんてやりますね。それで私の質問に答えてくれますか? あなたは七賢人ですか?」
「礼儀がなっていないわね。まずは自分の名前を名乗るのが筋じゃなくて?」
「それは失礼しました。私の名前はオリバー・アクアネット。一応、この学園の上級生よ。さぁ、礼儀を通したわよ。さて、私の質問に答えて貰いましょうか。あなたは七賢人ですか?」
ルーシェが七賢人というのは学園内では秘密にされている。安易にバラしていい内容ではないのだ。だが、オリバーと名乗る青髪女はルーシェが七賢人だと勘付いている様子だ。
ルーシェは考えた。正直に言うべきか。それとも知らないふりをするか。
考えた結果、試すためにルーシェは答える。
「七賢人? 何のこと? 私はここの生徒。七賢人って確か魔女より階級が上の存在でしょ? そんな凄い人がこの学園にいる訳ないじゃない」
まるで知らないように自分は七賢人とは無関係を装った。
さぁ、どう反応されるか。ルーシェはオリバーの様子を窺う。
「そう。あくまでシラを切ると言うことですか」
「大体、あなたはどうして七賢人にこだわるの? 七賢人だったら何かあるわけ?」
「あなたには知る必要はありません。ただ、あなたが七賢人か、そうではないか。今はそれだけ知れたらいい」
「だから私は七賢人じゃないって言っているでしょ」
「口ではなんとでも言えます。なら簡単な話、あなたが七賢人かそうじゃないか、試してみましょうか」
試す。それはつまり実力を見ると言う意味だ。
オリバーは杖を取り出す。
「待ちなさい。まだ校内には生徒が残っている。妙なことはしない方がいいと思うわよ」
ルーシェが止めたところでオリバーは聞く耳を持たない。
杖をルーシェに向けた。
すると杖の先端が光出し、今にも魔法が出そうになっていた。
ルーシェは嫌な予感がしてホウキを呼び寄せて空中へ避難する。
それを見たオリバーも同様にホウキで追いかけて来た。
カーチェイスならぬホウキチェイス? が始まろうとしていた。
「逃がさないわよ。ルーシェ・スカーレット」
「くっ。なんなのよ」
後方から低威力の気功砲で攻撃を仕掛けるオリバー。
それを交わしながら逃げるルーシェ。
ホウキを乗りこなしたばかりのルーシェにとって空中戦は部が悪かった。
相手のホウキ技量の方が上。このままでは撃ち落とされるのも時間の問題だ。
飛行を続ければルーシェが明らかに不利だ。
「しつこいな。こうなったらやけだ」
ルーシェは急ブレーキをする。
すると、急下降して建物の下へ逃げ込む。
それを追うようにオリバーも同じことを繰り返す。
「どこに逃げても無駄よ。ホウキでは自信があるんだから」
ルーシェを追い詰める為、ホウキを蹴ってスピードを上げた直後。
オリバーの視界から急にルーシェが姿を現す。
ルーシェは逃げることを辞めて待ち伏せをしていたのだ。
「え?」
「ちょっと手荒いけど、許してね」
次の瞬間、オリバーは風圧魔法で後方に飛ばされていた。
「きゃ!」
ホウキから振り落とされたことで地面に這いつくばる形になる。
そこでルーシェは距離を詰めるように前に立つ。
「この!」
オリバーが杖を出そうとした時、ルーシェはそれを弾いた。
カランカランと杖はオリバーから大きく離れた場所に転がった。
取りに行こうにもルーシェがいつでも魔法を発動できる状態なので動くことはできない。オリバーは完全な無抵抗状態だ。
「形勢逆転ね。どうする? まだやる?」
「……やるわね。さすが七賢人といったところかしら」
「私は七賢人ではないけど、これ以上、嗅ぎ回るなら容赦しないわよ」
「新入生でその動き、魔法。どちらにしても普通ではないわね」
「それはどうも。ついでに負けを認めてくれたら助かるんだけど」
オリバー・アクアネットは完全にルーシェに負けていた。
この状況では負けを認めざるを得ない。
オリバーは力が抜け、下を向いて目を閉じた。
「いいわよ。私の負けを認める。でもこれで終わったと思ったら大間違いよ。ルーシェ・スカーレット」
単なる負け惜しみか、それともまだ他に策が残されているのか。オリバーの発言にルーシェは表情を変えず、ただじっとオリバーを見下ろしていた。




