2-6 ただじっとしているより動いていた方が性に合っているようです。
翌朝、ルーシェはいつもより一時間早起きして外にいた。
ルーシェの動きにテトも目が覚めて様子を見にいく。
「ルーシェ。どうしたの? こんな朝早くに」
「あ、テト。起こしちゃった?」
ルーシェは朝早くから魔法の練習をしていた。
それを見たテトは助言する。
「なんだ。ようやく気付いたようだね」
「気付いた? 何のこと?」
「魔法の練習をしているんじゃないの?」
「練習? 私、なんでも使いこなせるし練習するほどでもないよ。私はただ、実戦でどの魔法が効果的か試行錯誤していただけ」
どうやらルーシェは自分の魔法のレパートリーを確認していただけのようだ。
それも大事なことだが、何か違うと思うテトだった。
見兼ねたテトは言う。
「ルーシェ。君に今、必要なことは低威力の魔法を使いこなせることなんだよ」
「どういうこと?」
「高難易度の魔法を使えることは魔女にとって素晴らしい功績だ。誰もが出来るものじゃない。その点においてルーシェは一際目立つ存在だ」
テトが私を褒めている? と、ルーシェは疑問を持つ。
そもそもテトは人を褒めるキャラではない。むしろその逆。常に人を見下すようなキャラが黒猫のテトには合っている。
肝心なのはこの先だ。
「だが、それだけじゃダメだ」
「ホラ、やっぱり」
「え? なに?」
「いやいや。それで何がダメなの?」
「高難易度の魔法を使えばそれだけ多くの魔力を消費する。つまりすぐにスタミナ切れになって敵に意表を突かれるってこと」
「そういえば高難易度の魔法を使うと全力で走ったように疲れるけど、全く使えなくなることはないよ?」
「それはルーシェが元々の魔力が膨大だからだよ。でも、使い過ぎると必ず魔力がなくなる。つまり弱い魔法を使いこなすことで魔力を温存できる。ルーシェにはそれが必要だ」
「でも、私って高難易度の魔法が使えることが長所でしょ? 弱い魔法を使う才能がないんだよ?」
「だったら短所を克服するべきじゃないの?」
「短所を克服?」
「そう、時間は掛かるかもしれないけど、克服できて困ることじゃないと思うよ」
テトはそのまま背を後ろにして歩いていく。
テトの言いたいことはルーシェに十分伝わった。
ルーシェに今、出来ること。それは学校の授業に取り組むことだ。
大技を会得するには難しいが、基礎を会得するには学校というのは最高の環境だ。
その日からルーシェは自分の実力に過信することなく他の生徒と同様に鍛錬を重ねた。
基本的な魔法を実践する。
その方法は樽の中に入った水を魔力で浮かしてそれを球体に保つ。
大体一分続けられることが条件だ。
これが出来ることで魔法に触れる入り口とも言える。
基礎中の基礎とも言える魔法をルーシェは何度もチャレンジする。
「集中、集中‼︎」
心の中で何秒経過したか数えているその時だ。
「おや。自主練ですか。ルーシェ」
ポンと肩に手を置かれたことでルーシェの集中は切れた。
水の球体は落ちてしまった。
「うわ。マギー先生。いきなり声を掛けないで下さいよ」
「それはすみませんでした。しかし、七賢人になっても日々訓練するのは流石プロというべきですね」
「それは違います」
「違う?」
「私、基礎ができないんです。大技は扱いこなせるんですが、基礎の魔法になるとどうもうまくいかないんです。変な話ですよね」
「そうとも限りません。人には得意不得意はあります。何も恥じることはありませんよ」
「私、七賢人の名に恥じない魔女になりたいです。そのためにはこの学園で基礎を学ぶ必要があるんです」
「その心意気は素晴らしいです。頑張ってください。きっと結果は出ますから」
「はい。そうだ。マギー先生。よければ私に基礎を教えてくれませんか?」
「私が?」
「はい。だって先生ですよね?」
「七賢人にモノを教えるとは変な話ですね。ですが、私から何かあなたに教えることはありません」
その発言にルーシェは考えさせられた。
本来、生徒が教師に分からないことを問えば教えてもらえるもの。
だが、教えてくれないとはどういう意図があるのか。
「私、マギー先生から見放されていますか?」
「そうではありません。あなたはここの生徒であってそうではないということです。つまり、これ以上教えようがないってことですよ」
「でも私、実際に出来ていないですし」
「そんなことはありません。ルーシェは出来るのに出来ていないと感じているだけです」
「あの、言っている意味がよく分からないのですが」
「まぁ、そういうことですので頑張って下さい」
そのままマギーは行ってしまう。
「行っちゃった」
結局、何も教えてくれないマギーにルーシェは取り残された気分になる。
教えようがない。
確かに七賢人は偉人のようなもので一般の人から見れば距離を置く存在だ。
つまり、ルーシェはもう誰かから学ぶ立場ではないと言うわけだ。
七賢人とは何年、何十年と時間を掛けてやっとなれる者。むしろ、なれない者の方が圧倒的に多い。
そんな中でルーシェは十三歳という幼さで七賢人になってしまうということは年齢と役職が釣り合っていないことを表す。
つまり実際は子供でも周りから見れば既に大人と変わらないのと同等のものである。
結局、ルーシェは誰にも教わることなくたった一人で魔法の鍛錬を続けること二週間。
徐々にコツを掴んだようで基礎の形が出来上がっていく。
結局はやるかやらないか。それが魔力を常に保つコツだ。
鍛錬を辞めた時点でいくら七賢人でも魔法学園の生徒より劣ることもある。
自分の中でゴールを決めたらその時点でもう上達はしない。
「まだだ。もう少し」
額から汗を噴き出しながら鍛錬を続けている時だった。
「ルーシェ。今日も自主練?」
サシャはルーシェの背中に声を掛けた。
「あ、うん」
「そう。あまり無理しないでね」
「大丈夫。サシャは今から帰り?」
「うん。ルーシェはまだ帰らないの?」
「私はもう少し練習したら帰る」
「そっか。ほどほどにしてね。じゃ、私は邪魔したら悪いから帰るね」
気を使ったのか、サシャはその場を離れた。
自主練をしていくうちにルーシェは魔法を使うのが楽しくなっていた。
以前のルーシェはやらされていたところがあったが、自分からやることに関しては心地いいものである。時間も忘れて気が付けば校内は人の数が減り、ほとんどの生徒は帰宅していた。
魔法学園は昼夜問わず薄暗い。
魔女のイメージカラーが黒であることから周囲は薄暗くされている。
ライトが点灯しているので視界に問題はないが、時計を確認しないと今が何時なのか分かりにくい。
「放課後ってこんなに静かなんだ。知らなかった」
ルーシェは自販機で買ったジュースを飲みながら一息ついていた。
「ルーシェ。僕もそろそろおいとまするよ」
「あ、そっか。ごめんね。つき合わせちゃって」
「ご飯は適当に食べるからルーシェもあまり遅くならないでね」
「うん。気をつけて」
テトも帰ってしまい、いよいよ練習場にはルーシェしかいなくなっていた。
「よし。もう一息、頑張りますか」
ルーシェは大きく伸びをしながら立ち上がり練習を再開する。




