1-2 実は魔女の才能があり過ぎたようです。
本日2話目!
「と、いうわけで、僕は君の使い魔としてこれから立派な魔女にするから覚悟してね。ルーシェ」
「あの、帰ってくれます? 私、忙しいので」
バタンとルーシェはなんの躊躇いもなく扉を閉めた。
一瞬の無音が続いた直後である。
コンコンとノックの連打をされる。
扉の向こうで猫パンチをかましているのだろうか。
鳴り止む気配がなくこれ以上、扉を傷つけられるのも困るのでルーシェは隙間だけ扉を開けて顔を覗かせる。
「なんですか?」
「何でドアを閉めるのさ。それにそんな迷惑そうに見ないでくれる? 僕が可哀想だから。とりあえず中に入れてくれない?」
「……手足拭いてね」
ルーシェは渋々、黒猫の使い魔・テトを家にあげた。
「飲み物はミルクでいいよ」
「それ、私のセリフなんだけど。図々しい猫だな」
文句を言いながらもルーシェは牛乳を受け皿に入れて、テトの前に差し出す。
「どうもありがとう。喉乾いていたんだ」
「そうですか。それは良かった」
「そういえば、さっきから甘い匂いがするね。何か作っていたの?」
「えぇ。ケーキを焼いていたの。私、今日が七歳の誕生日だから」
「へー。それはおめでとう。それにしては部屋の中は殺風景だね。誰か呼んでいないの?」
「いいえ。私、一人で寂しくお祝いするの。別にお祝いはしなくていいけど、ケーキくらいは食べたいと思ってね」
「じゃ、僕がお祝いをしてあげよう。プレゼントは今から用意するよ」
「用意するってどうやって?」
「その辺のネズミを捕まえてくるよ」
「やめてよ、気持ち悪い‼︎‼︎‼︎‼︎ そんなものを持って来たら追い出すわよ‼︎‼︎‼︎」
ルーシェの口調は本気だった。
「冗談だよ。人間はネズミ食べないんだったね」
「当たり前でしょ。それより君、使い魔だっけ? 私に何の用なの?」
「何って僕は君の使い魔として立派な魔女に仕上げる使命でここまで来たんだよ」
「悪いけど、私は魔女になる気ないよ」
「にゃぬ」
「にゃぬ?」
「君は魔女になるのが夢だったんじゃないのか?」
「それは昔の話。今は諦めたの」
「昔って君、まだ七歳でしょ。夢諦めるのは早くない?」
「私、魔法の才能ないみたい。だから魔女はもういいの。今はこうしてゆったりとスローライフを送れたらそれで充分。他に何も望まないよ」
「それじゃ、困るよ。僕は君を立派な魔女にするように頼まれたんだから」
「頼まれたって誰に?」
「君の叔母だよ」
「叔母? もしかしてマーシェおばさん?」
マーシェ・スカーレット。
ルーシェの母、サーシェ・スカーレットの実の姉だ。
両親の葬式に顔を合わせたのが最後だった。ルーシェが生まれた当初はよくマーシェの家に行くことがあったが、今となってはぱったりである。
「そうさ。僕はマーシェさんに頼まれた」
「なんで私に?」
「君には魔女の血筋がある。だから間違いなく魔法の才能はあるはずだよ。それを考慮して僕が君を立派な魔女にする。宝の持ち腐れにしたくないってサーシェは言っていたよ。それに今のご時世、魔女は年々数が減ってきている。だから君は魔女にならなくてはならない。いや、なるべきだ。その才能を一緒に作り上げようよ」
「ないよ。そんな才能。だって初歩の初歩である魔法すらまともに発動できないのにあるはずない」
ルーシェは不貞腐れるように言う。
今のルーシェには魔女とは程遠い存在なのかもしれない。
そう錯覚したテトは言う。
「じゃ、才能があれば魔女になりたい?」
ピクリとルーシェの眉が動いた。
魔女になることは諦めたと言うが、心のどこかで魔女の思いが残っている事実があった。
「まぁ、仮に才能があれば」とポツリと呟く。
「なら僕が今の君の実力を見てあげるよ」
「テトが? 猫のくせに出来るの?」
「猫のくせにって。これでも僕は使い魔として長年の経験があるからね。なんて言ったって君のひいお婆さんから使い魔として活躍して来たから人を見る目はあるよ」
本当か? と言う疑問の前にもう一つの疑問がルーシェの中で浮かんだ。
「テト。あんた何歳よ」
「数えたことなかったな。多分、百歳は余裕で超えていると思うよ」
「かなりの老猫じゃない」
使い魔は不死身なのだろうか。そもそも年齢という概念がないのか。
その辺は重要ではないのでさておき。
ケーキを食べた後にルーシェとテトは外に出て魔法の実力を見ることなる。
二年前の再現とばかりに岩を見つけてそれを宙に飛ばすという見方だ。
またこれか、と思いつつルーシェは岩の目の前に立つ。
「この方法は実力を見るには基礎中の基礎のやり方だよ。まずは見せてもらう。よし。じゃ、やって見て。詠唱は覚えているよね?」
「えぇ。てか、猫のくせに偉そうね」
「まぁ、僕は君より年上だからね。それに使い魔に関しての経験は豊富さ。無駄口を叩かずにさぁ、早くやって」
猫に指示される感じが気に食わないが、仕方なくやることに。
「我が名はルーシェ・スカーレット。大気よ、風を起こし給え! 施風」
ルーシェは詠唱を唱えるが、岩は微動にせず。
失敗だ。
「はーやっぱダメだ。ほらね。言ったでしょ。私には才能がないの。これで分かったでしょ」
やめやめと言わんばかりにルーシェは自身の無力に呆れ返る。
「いや、ルーシェには才能があると思うよ」
「テト。お世辞をされると虚しくなるだけだから無理に言わないでいいよ」
「いや、本当だよ」
「もー。はい。おしまい。もう暗くなるから家、帰ろう」
ルーシェはその場を立ち去ろうとする。
その時である。
周囲に風が吹き荒れる。
木の葉が揺れ、雑草がなびいた。
これは自然現象か。それとも。
「ルーシェ。待って」
「どうしたの。テト。早く帰ろうよ」
「僕、分かったかも。ルーシェ自身が気付いていないだけで内なる魔力が秘められているんだよ」
「まだそんなこと言っているの? 見ての通り、魔法は発動しなかったでしょ。私は無力。何もないんだから」
「いや、ルーシェは才能がありすぎて簡単なことが出来ないんだよ」
「はぁ? テト、さっきから何を言っているの?」
「風塵猛刃を唱えてみて」
「風塵猛刃って風系統では難易度高めの魔法でしょ? 無理だよ。私にそんな凄い魔法使えっこない」
「確かにこの魔法はAランクで初級の旋風と比べれば難しい魔法だ。でも、ルーシェなら出来ると思う」
自信のあるテトの発言はルーシェに引きつける何かを感じた。
「そこまで言うならやってみないこともないけど」
ルーシェは標的の岩に手を掲げて詠唱を唱えた。
「我が名はルーシェ・スカーレット。虚風より風を起こせ、砂塵の嵐で埋め尽くせ、見えなき無数の刃、彼の者を刻め。風塵猛刃‼︎」
すると、ルーシェの手のひらに風の魔力が集まる。
ゴゴゴゴゴゴ‼︎‼︎
ズバーン‼︎‼︎
対象にした岩はロケットで打ち上げられたように遥か彼方へ飛んでいった。
「やった。成功だ。思った通り、ルーシェは魔法の才能があったんだ」
「嘘。これ、私がやったの?」
自分で起こした魔法に信じられず、ルーシェは呆然とする。
「ルーシェ。君は簡単すぎる魔法が出来ず、逆に難易度が高い上級魔法を扱える天才なんだよ」
「そんなことある? 簡単な魔法が使えずに難しい魔法が使えるって矛盾していると思うけど」
「まぁ、君の場合は特別だね。僕が見た魔女ではかなりの異質だよ」
「ってことは私、魔女になれるの?」
「勿論さ。魔女とは名誉ある役職さ。本来であれば魔道士→魔法使い→見習い魔女→魔女と段階を踏んで魔女になるのが一般的だが、ルーシェの場合、いきなり魔女になれる実力は充分にあると思うよ」
「ふーん。お母さんも一つ一つ段階を踏んで魔女になったのかな?」
「サーシェか。懐かしいな。そうだね。君のお母さんも段階通りに魔女になったよ。君のように才能はなかったけど、かなりの努力家でね。ずっと勉強と訓練を重ねていたよ」
「そっか。お母さん、頑張っていたんだ」
「悲報を聞いた時は驚いたよ。きっと、サーシェは君に立派な魔女になってほしいと思っていたと思うよ」
「そっか。私はその夢を諦めていた。才能を知らずにいたら一生魔女になりたいって思わなかったかもしれない。それに気づかせてくれたのはテトのおかげだよ。ありがとう」
「どういたしまして。使い魔の僕が来たからにはルーシェには正しい魔女を教えていくからね」
ルーシェの才能を気付かせたテトのおかげもあり、魔女への道を再び歩もうとした。
引きこもり生活から一変、テトがやって来たことでルーシェに笑顔を取り戻した。
魔女として正式になる為には魔法協会から資格を取得することでなれる。
資格の取得方法には二通りある。
一つは魔法協会が運営する魔法学校を卒業すること。
但し、魔法学校を卒業してもいきなり魔女になれるわけではなく見習い魔女として資格が認定される。そして、その後は魔女になって実務経験が十年以上の者から修行をして魔法協会の試験に合格すれば見事、魔女として正式に認められる。
この方法が一般の方法であり、多くの志願者はこの方法で魔女になっている。
そして、もう一つの方法は直接魔法協会からの勧誘だ。
実力があると認められた者がなれる。
ただ、この方法は異質で魔法協会のさじ加減で見習い魔女だったり、魔女だったり変動がある。マチマチな方法のため、魔女志願者としてはあまり期待できない方法だ。
「ルーシェの場合、勧誘もあり得るけど、まずは学校に入った方がいい。右も左も分からずに魔女になっても苦労するだけだからね」
「学校に入らなくてもテトが教えてくれればいいじゃない」
「僕は使い魔だよ。使い魔の役目はパートナーを立派な魔女にさせること。つまり、魔女になってしまえば僕は君の元から離れることになる。魔女として歩んだら自分の力で進まなければならないんだ」
「え、そうなんだ。テトは私とずっと一緒にいてくれないの?」
「一緒にいたい気持ちはあるけど、僕にも立場があるんだ。分かってくれよ」
「うん。分かった」
「まぁ、しばらくルーシェの元にいることになるから安心してよ。学校に入るにはまだ時間があるし、それまでは僕が基礎を教えるよ」
「学校はいつから入れるの?」
「入学には十三歳以上って決まっているんだ」
「ってことは後、六年もあるじゃん」
「そうだね。でも、六年間、何もせずに過ごすのは勿体無い。その間は僕が魔法の基礎を教える。ルーシェにはミッチリ教え込むから覚悟してね」
「辛くて厳しいのは勘弁してください」
ルーシェは切実に願った。
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