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2-5 平和過ぎるので避難訓練をしようと思います。


 何事もなく学園生活を送ることになり、早一ヶ月。

 特に目につくような事件は起こることなく平和が続いていた。

 いざ、構えていると事件は起こりそうで起こらない。

 起こらないに越したことはないが、刺激が足りない。

 今のルーシェは一般生徒と同等の立場でしかない。

 つい、ルーシェはテトにぼやく。


「なんか七賢人になってから七賢人らしいことしていない気がする」


「君の任務はこの学園を守ること。何も問題が起こらないことはいいことじゃないか」


「とは言っても退屈よ。私、このままで良いのかなって不安になっていきた」


「なら実際に事件が起きたことを想定して訓練でもすれば?」


「訓練?」


「避難訓練とかしたでしょ。あんな感じで万が一の場合に備えて訓練するのも七賢人として必要なことだと思うけどな」


「テトにしてはまともなことを言うじゃない」


「僕もそれなりのことは言うさ」


「でも、訓練と言ってもどうやればいいかな。訓練だと分かっていると本気になれないんだよな」


「ルーシェ。人は想定外のことが起きた時こそまともな判断はできないものだよ。そんな時に備えて日頃から対応できるようにすることが大切なんじゃないかな」


「そうだよね。訓練と言って手を抜いているようじゃ本番ではうまくいかないよね。それで何をすればいいかな?」


 ズゴッとテトは呆れ返る。

 考えているようで考えていない。それはテトの目から伝わってきている。


「そこは自分で考えてよ」


「うーん」とルーシェは考え込む。


 そして辿り着いた答えをテトに話した。


「それっ誰かの協力が必要でしょ」


「そうなのよ。だからテト。協力してくれる?」


「えーどうして僕がそんなことに付き合わなきゃいけないんだよ」


「お願い。高級猫缶を三つあげるから」


「パッケージが金のやつ?」


「うん。どう?」


「五つなら手を打つよ」


「なっ!」


 高級猫缶は一つでキャットフード五百グラムは買える価値がある。それを五つ。

 少々出費が痛いが、ルーシェは渋々承諾した。


「……分かったわよ。五つで手を打とう」


「約束だよ」


 翌日からルーシェは密かに訓練を始めることになる。

 その方法は魔法で予め仕掛けた罠を不特定な位置にセットしてテトのタイミングで発動させる。その仕掛けた場所に関してルーシェは知らない。

 知っているのはテトだけだ。

 いつどこで来るか分からない罠に即座に反応して未然に防ぐ。

 ある意味緊張感のある訓練になる。

 一日に十の罠を仕掛けているのでいくつ防げるか。

 ルーシェは日常の中で危険にさらされていると言う緊張感が常につきまとう形になる。

 朝、下駄箱で靴を履き替えている最中のこと。

 前屈みになった途端、ルーシェの腕につるが絡みついた。

 次に瞬間、巨大な岩の振り子がルーシェを襲う。

 自由なもう片方の手を振り子に向けて手をかざして破壊魔法を発動させる。

 バコーンと岩の破片が周囲に飛び散った。


「まぁ、これくらいなら余裕かな」


 その後、朝の時点で三つの罠がルーシェに襲いかかるが、難なく防ぐ。

 トイレで用を足している時のこと。

 ルーシェに安息の時はない。突風魔法が襲いかかる。


「ちょっと。このタイミングはまずいって」


 戸惑いながらもルーシェは下半身丸出しながらも防御魔法で防ぐ。


「テト! 反則よ」


「いついかなる場合でも対応できるようにしないといけないでしょ」


「だとしてもトイレは無理!」


「分かったよ。そこは考慮してあげるよ。でも後六つの罠が待っているよ」


「余裕、余裕」


 ルーシェがサシャと移動しながら雑談をしている時のことだ。

 突如、砲丸が放たれる。

 だが、その軌道はルーシェではなくサシャに向けられた。


「危ない!」


 ルーシェはサシャを覆いかぶさるように砲丸を防いだ。


「サシャ。怪我はない?」


「うん。私は大丈夫。でもルーシェが」


 ルーシェはサシャを庇ったことにより、肩を掠めて血が吹き出した。


「あ、私は大丈夫」


 幸い擦り傷で済み、大きな怪我なく済んだ。


「ルーシェ。大丈夫?」


 テトはルーシェの元に駆けつけた。


「気にしないで。テト。あなたは私に協力してくれただけ。私に力がなかっただけよ」


「でも」


 テトは責任を感じていた。

 自分のせいでルーシェを傷付けたことに心を痛めていた。


「大丈夫。大丈夫だから」


 痛いのは身体の傷ではない。

 自分の未熟さ。つまり、心だ。

 訓練で友達を危険な目に合わせてしまった。

 それに難なくやり過ごせない自分の力の甘さだ。

 一時、保健室で手当てをしてテトは心配そうにルーシェのそばから離れなかった。


「そんな顔をしないで。テト。私も悪かったから」


「訓練は中止だね」


「とりあえずね。でもこれで分かったことが一つある。もし、敵に襲われたら皆を守れない。それじゃ、私の存在価値がまるでなかったってことが」


 ルーシェは静かに言った。

 自分はまだまだ甘い。そう自覚した瞬間だった。

 家に帰り、リビングで寛ぐルーシェはポツリと呟く。


「私、本当に皆を守れるのかな」


「珍しく弱気だね」


「テトはどう思う?」


「僕から言わせればルーシェは使い方を分かっていないだけで使い方を知ってしまえば無敵になり得る脅威だと思う」

「使い方? どう言うこと?」


 ルーシェの問いにテトは答えないまま自分の寝床へ行ってしまう。

 冷たいと感じてしまうが、要は自分で答えに辿り着かなければ意味がないと言うテトなりに伝えたかったことなのだろう。

 ルーシェはそのことに気が付いているか。それとも何も気付かずに終わってしまうか。


「使い方か」


 ルーシェは自分の手のひらを見ながら呟いた。


「私の強さってなんだろう。魔力? 体力? それともそれ以外の別のもの?」


 何もしないまま、天井を見上げて数十分。

 考え事が続いた中、ルーシェはようやくベッドから上体を起こす。


「考えてもダメだ。私らしくない。とにかく考えるよりも行動に移すこと。それが私らしさだ。今日は早く寝て明日に備えよう」


 ルーシェは通常の起床時間より一時間早くに目覚ましをセットして部屋の電気を消した。早寝早起き。まずはそこから始めるようだ。

 ただ、妄想の中で何かを閃いたのは間違いない。


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