2-3 目立たないように心掛けますが、どうも目立ってしまうようです。
教室は教壇から見て上り階段のような配置になっている。
自由席の為、ルーシェとサシャは上の席で隣同士に座った。
「外観も凄いけど、校内も豪華な作りだね。結構お金掛けているんじゃない?」
オシャレな内装にルーシェは見惚れていた。
「それはそうですよ。魔法魔術学園は名門中の名門。誰もが憧れる学園ですから競争率はトップクラス。入ることが自慢になるくらいですよ」
「へーそうなんだ」
「入学試験はかなり難しかったよね? 私、猛勉強したもの」
「どうだったかな? 確かに難しかったような」
ルーシェは入学試験を受けていない。特別枠で入っている為、一般の苦労が分かり合えない。
全ては才能でルーシェはそこにいるのだ。
内装の次に目に入ったのは生徒だ。
どの生徒も上品な見た目でキラキラ輝いて見える。
制服は黒なので目立たないが、髪の色や小物がカラフルなのが目に止まる。
「女子しかいないと思ったけど、男子も何人かいるね」
「まぁ、一応共学だけど、男子は勇者学校に流れがちだから珍しいかもね」
ウィッチエナン魔法魔術学園の男女の割合は2:8で女子が圧倒的に多い。
ほぼ女子校に近いが、ルーシェのクラスには五人ほど男子生徒がいた。
だが、ルーシェは同年代の男にときめかない。年上で色気のある大人の男性が好みのようだ。
チャイムが鳴ったと同時に引き戸がスライドして教師が入ってきた。
「はい。着席して下さい。静かにお願いしますよ」
ルーシェはサシャと雑談していたことで一瞬、反応が遅れる。
教師の顔を見た時、ルーシェの顔が歪んだ。
「今日から君たちの担任になったマギー・テルと申します。どうぞよろしくお願います」
教師として現れたのはマギー・テルだ。
ルーシェが特別枠で入学をさせたのはこの男の仕業だ。
それよりも。
「あー! 何であんたがここにいるのよ!」
ルーシェは立ち上がり、指をさしながら大声で言い放った。
当然、周囲の生徒はルーシェに注目する。
「ルーシェ・スカーレットさん。元気が良いことは何よりですが、今は授業中です。後で職員室に来るように」
「……はい。すみません」
恥ずかしくなったルーシェは身を縮めて席に座る。
目立たないようにしなければならない立場でありながら、いきなり目立つ存在となってしまう。
授業中、終始マギーがどうしてここにいるのか疑問を抱えながらルーシェは授業を受けていた。
チャイムと同時に授業が終わり、職員室に足を運んだルーシェは改めてマギーと向き合うことになる。
「マギーさんがどうしてここにいるんですか。びっくりしましたよ」
「この学園は魔法協会が運営している施設です。私がいることに何も不思議ではありません」
「それはそうかもしれませんが、まさか教師で担任って」
「私がそのように手を回したんです。あなたを常に監視する為に」
ルーシェはゾクッと背筋が伸びた。
「勿論、仕事としてのことです。あなたは七賢人ですからね。貴重な存在なので協会としては大事にされているんです。私はそんな七賢人の監視役としている訳ですよ」
「まさかその為にわざわざ教師をしているんですか?」
「元々教師の資格を持っていますからね。今回、上の指示でこのような形で学校に来ています。何か不安でも?」
「いえ。まぁ、マギーさんが私の理解者であるなら安心です。何かあったら助けてくれるんですよね?」
ポッとルーシェはモジモジする。
「勿論です。今日が初日なので何か欲しいものや必要なものがありましたらなんでも仰って下さい。大抵のことは用意できると思いますよ」
「特別扱いしてくれるのはありがたいんですけど、私も普通の人と同じ対応で構いませんよ」
「おや、それはどうしてですか?」
「崇められたり、偉人扱いされたり、私はそう言うキャラじゃないので何か調子狂うと言いますか、慣れないんですよ」
「そうですか。なら出来る限り一般の生徒と同様の扱いはします。ですが、あなたは七賢人です。その自覚は常に持って下さいね」
「はい。あ、そういえばこの学園に七賢人がいるって噂が流れているようですけど、大丈夫ですか?」
「まぁ、噂くらいならどうにでもなります。バレなければ問題ありません」
「私、すぐボロが出そうで不安なんですけど」
「その為に優秀な使い魔がいるじゃありませんか。危なくなればテト君が助けてくれますよ」
ルーシェは足元にいるテトを見た。
無愛想な顔をしているが、やるときはやる使い魔だ。
信用はできるのだが、今は何も起こらないことを祈るばかりだ。
「ルーシェ。もう一度、今回のメインテーマについておさらいさせて下さい」
「メインテーマ?」
「はい。あなたは七賢人として学園に潜入している立場です。外部からの敵だけではなく内部の敵にも注意を払う必要があります」
「内部の敵?」
「そうです。この学園は魔法を学ぶ場所です。魔法とは扱い方によっては相手に大怪我。最悪死傷させる危険な力であることはお分かりですよね。右も左も分からない初心者が扱いを間違えるととても危険です。それにその力を悪用する者も出てくるでしょう。毎年、魔法による事故や事件は後を絶ちません。よってあなたにはそれを未然に防ぐことも任務のうちに入ります」
「え? でも、正体は隠さないといけないんですよね? 私が七賢人の力を使えば正体がバレるのでは?」
「勿論、基本的には正体を隠して行動して下さい。ですが、相手を傷つけても守り通すものでもありません。最悪の場合、正体を明かすことになっても危険と判断した場合は迷わず救って下さい。それも七賢人として大事な仕事です」
「分かりました。そのことを踏まえて行動します」
「良い心掛けです。ただ、やりすぎないで下さい」
「はい。分かりました」
「それと外部の敵。つまり魔女殺しがいつ攻めてくるか分かりません。常に警戒は解かないで下さい。あなたがこの学園のキーパーソンになるのですから」
「キーパーソン。いい響きですね」
「浮かれないで下さいよ。七賢人。ルーシェ・スカーレットさん」
「はい。肝に命じます。マギーさん」
「学園ではマギー先生と呼んで下さい。良いですね?」
「はい。マギー先生。では私、教室に戻ります」
ルーシェは笑顔で職員室を出た。
その姿を見たマギーは思い出したように呟く。
「おっと。大事なことを伝え忘れました。この学園にもう一人、七賢人がいることを。まぁ、そのうち嫌でも接触することになるのでわざわざ言う必要もないでしょう」
その内容はルーシェにとって大事な内容だが、マギーはワザと伝えないような立ち回りだった。その意味を知るのはしばらくしてのことだった。
果たしてルーシェ以外の七賢人の存在とは。




