番外編⑵
これはテトがルーシェと出会う前の話。
テトはマーシェ・スカーレットの家で生活をしていた。
「マーシェ。お腹すいたよ。ご飯ある?」
リビングへ足を運んだテトはマーシェにおねだりするように言う。
一人ソファで寛ぐマーシェは本を読んでいた。
「あら、テト。もうそんな時間? 今、用意するから待ってね」
重い腰を上げて立ち上がるマーシェはどこか覚束ない。
マーシェはとある事故で右足を失い、義足で生活を強いられている。
それに体調はそれほどよくない為、殆ど家から出られない生活を送っている。
「いいよ。ご飯の場所さえ教えてくれたら自分でやるし」
「テトはそう言って余分に食べちゃうからダメ。また太るわよ」
「ちぇ。マーシェは厳しいな」
「あなたの体調の為よ」
マーシェは器にキャットフードと少量の肉で混ぜた和え物を乗せてテトに差し出す。
「頂きます」
テトは美味しそうに食事をした。
「そういえば、テト。あなたが以前、就いていた子、魔女になったんだって?」
「あーそうみたいだね。僕が使い魔として傍にいた時から出来る子だったからいずれ魔女になるとは思ったけど、なったみたいだね」
「相変わらずテトは使い魔として優秀ね。魔女にしたのはこれで何人目?」
「さぁ、数えたことないけど五十人以上はいると思うよ」
「そう。それで次は決まっている?」
「いや、僕もそろそろ使い魔も引退の時だよ。使い魔より普通の猫として過ごしたいよ」
「使い魔辞めちゃうの?」
「それもいいかなって思っている」
「勿体ないわね。テトみたいな優秀な使い魔はそういないのに」
「いいんだ。僕は充分役目を果たした。残りの人生は自由に生きるよ」
「ねぇ、テト。引退の前にもう一人、魔女候補の使い魔になって欲しいんだけど」
「別に構わないけど、誰?」
「私の妹、サーシェの娘なんだけど、ルーシェって言うの」
「サーシェか。懐かしいな。僕が使い魔として行動していた時から才能があったよね。確か、今って……」
「亡くなった。何者かに殺されて」
「そっか。もういないのか。それは残念だ」
「それでルーシェなんだけど、あの子も魔女の才能があると思うの。でも、本人はそれに気付いていない。テト、ルーシェの才能を開花させて立派な魔女に仕上げてくれないかしら?」
「気付いていない?」
「ルーシェは自分には魔女の才能がないと思い込んでしまっている。でも、私から見ればとんでもない才能を秘めている。だってあの子の娘だもの」
「確かにサーシェの娘なら魔女の才能は秘めていると思う。それで僕に行けってこと?」
「えぇ、これを機に引退を考えても遅くないんじゃない?」
「分かった。マーシェがそこまで言うなら行くよ。それでルーシェはどこにいるの?」
「ここなんだけど」と、マーシェはルーシェの家の地図を渡す。
「遠いな。僕の足で一ヶ月掛かるじゃないか」
「まぁ、プチ旅行だと思って楽しんでよ」
「全然プチになっていないよ。それにルーシェはまだ六歳でしょ? 魔女に仕上げるのに何年掛かるか分からないじゃないか」
「でも、それほど魔女にさせる価値は充分にあると私は思うわよ」
「んー。そこまで言うなら仕上げてみせるよ。でも、僕の目から見て見込みがないと判断したら真っ先に戻ってくるからね」
「大丈夫。しばらく帰らないと思うわ。さて、テトの配属先が決まったところで送別会でもしましょうか。今日はご馳走を用意するわ」
「本当!?」
テトの尻尾と背筋がピンと伸びた。
その翌日、テトはいよいよルーシェの使い魔になるべく旅立とうとしていた。
「じゃ、マーシェ。行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。知らない人について行っちゃダメよ。それから風邪を引かないように夜は暖かくしてね」
「分かっているよ。じゃ、次はいつ会えるか分からないけど、マーシェも元気で」
「うん」
こうしてマーシェはテトを見送った。テトはルーシェの家を目指して出発した。




