1-12 成り行きで七賢人になろうと思います。
七賢人になるか、猶予を与えられた翌日のことだった。
寝て覚めても正直、自分がどうなりたいのかイメージがついておらず、浮かない顔をするルーシェに対してテトは気に掛けた。
「ルーシェ。まだ悩んでいるの? 昨日のこと」
「うん。誘われたのは凄いことで名誉ある称号っていうのは分かるんだけど、本当に私に務まるのかなって正直悩んでいる」
「まぁ、気持ちは分かるよ。ルーシェはわがままで自分勝手で何事にもすぐ投げ出そうとするから七賢人が務まるなんて思えないからね」
「テト。あんた私のことをそう思っていたのね。結構傷付くんだけど」
「まぁ、僕としては断る理由がないと思うよ。周りから慕われるだろうし、お金にだって困らない。これで野菜を栽培しなくても生活できるし、万々歳じゃないか」
「それは表向きの話でしょ。外観がよくても中身を見てくれないって寂しくない?」
「そんなことを考えているのか。大丈夫だよ。君の中身を見てくれる人はきっと現れるよ」
「そんなの分からないじゃない。適当なことを言わないでよ」
「少なからず、僕は外観ではなく中身をしっかり見ているよ」
「それはそうだけど」
「大丈夫。ルーシェはドジでおっちょこちょいだけど、人の心や痛みを分かってあげられる人だ。そういう人は必ず中身を見てくれる人がいるはずさ」
「テト……あんた」
貶されているのか、褒められているのか。相変わらずテトの言い方は棘があったり、なかったりした。でも、それがテトなりの励ましの仕方なのかもしれない。
テトの言葉もあり、ルーシェの思いは固まった。
「ねぇ、テト。私、決めたよ」
その決断にテトは「そっか」と頷くだけだった。
テトがどうこう言う話ではない。
これはルーシェの人生。ルーシェ本人が決めるべきものである。
一週間後、マギーは約束通り、再びルーシェの家を訪れた。
「どうも。ルーシェ。約束通り、また来ましたよ」
相変わらず紫のタキシードにシルクハットと言う手品師のような格好だ。
それは最早、どうでもいいこと。
「お待ちしておりました。マギーさん。どうぞ中へ」
ルーシェはマギーを家の中へあげる。
「飲み物は何にしますか?」
「いえ。結構ですよ。それより答えは決まりましたか?」
「えぇ、決まったわ」
「聞かせてもらえますか?」
「その前に一つ教えてほしいことがあります」
「何でしょう。答えられる範囲であれば何でも答えますよ」
「魔女狩りについて魔法協会が追っているって言っていたけど、全く正体が掴めていないって訳じゃないんでしょ?」
「おや。気付いていましたか。これは正式に七賢人になれば教えようと思っていましたが、勿論その正体の素性は掴めていますよ」
「誰?」
ルーシェの強い眼差しにマギーは押されたように答えた。
「【マレフィキウム】という組織が関与しています。その組織のボスの名前がボルゾイ・モートという人物が魔女狩りを行う黒幕と言える人物です」
「ボルゾイ・モート」
ルーシェはその名を脳に焼き付ける。
「奴は魔女を悪魔の化身として捉えており、数多くの魔女が奴の手によって葬られたのです。勿論、直接手に掛ける場合もあれば部下にさせることもありますし、その方法は様々です。強い魔女であればあるほど、狩る相手は強いほど強力な部下を派遣させます」
「全てはそのボルゾイ・モートっていう人物が鍵になっているってことですか」
「はい。名前を出すのも恐ろしいほど、奴は強力です。部下も並の実力ではなくどれも普通では太刀打ちできない実力者です」
「どうして魔女が狙われるんですか?」
「本来、魔女とは死をもたらすもので悪魔として広まっていました。しかし、それは大昔の言い伝えに過ぎません。今は勿論、人々の役に立つ存在です。おそらくボルゾイ・モートはその悪魔として崇めていた祖先では? と、魔法協会で噂されています。それも噂に過ぎず、真相は闇の中です」
「誰が組織を止めないと魔女狩りは止まらないってことですね」
「はい。それにルーシェには魔女狩りとは切っても切れない関係になっているのも事実です」
「どういうことですか?」
「被害にあった魔女のリストに君の母、サーシェ・スカーレットも入っていたことが分かりました」
「お母さんが?」
「奴を野放しにすると被害者は増える一方です。奴を殺さない限り、我々魔法協会に平和は訪れないというのが現状です」
その話を聞いたルーシェは奥歯を噛み締めた。
「マギーさん。私、七賢人になるよ」
「本当ですか?」
「魔女狩りをする人がいるって聞いて許せない気持ちが高まった。それにお母さんに手をかけたあの時の男がボルゾイ・モートだったとしたら余計に許せないよ」
「もしかして会ったことがあるんですか?」
「仮面にコートを着ていたからあまりはっきり覚えていないけど、確かに私は会ったよ」
「サーシェ・スカーレットさんの実力を考えればボルゾイ・モート本人が直接手に掛けていてもおかしくありません。その娘であるルーシェならますます七賢人になる器であると私は思いますよ」
「お母さんってそんな凄い人だったんですか?」
「えぇ。彼女は七賢人の話を蹴ったほどですから」
「え、お母さん。七賢人になるのを断ったんですか? どうして?」
「さぁ。当時、私は担当していなかったのでその詳細は分かりません」
「テト。あなた、知っていた?」
「知っているよ」と、テトは当たり前のように言う。
「なんで言ってくれないのよ」
「聞かれなかったから」
知らなかったら聞けるものも聞けないだろ、と強く言い放ちたいが、マギーの前では感情的になれずにいた。
「君のお母さんは名誉よりも自由を選んだんだよ」
「自由?」
「七賢人になれば名誉ある実力者として世界に貢献することが出来る。だけど、君のお母さんはそれよりも平凡な生活を選んだんだ。誰にもチヤホヤされず、自由に生きたい。そう、言っていたよ」
「そうなんだ。意外だね」
「きっかけは君を妊娠した時だと思うよ」
「もしかして私がお母さんの選択を邪魔しちゃったの?」
「それはないと思うよ。サーシェは自由な人だからね。七賢人っていう柄でもなかったんでしょ」
「そっか。そうなんだ」
ルーシェは自分の母を思い出しながら納得する。
確かに自由なところはあったと思い当たる節がある。
ルーシェが住んでいる今の環境もその名残があるのがその証拠だ。
「マギーさん。私、やるよ。七賢人」
「そうですか。なら正式に七賢人の加入を認めましょう。既に魔法学校の入学手続きは済ませております。制服と必要な教材は持ってきてあります」
「準備がいいのね。もしかして私が断らないと初めから分かっていたの?」
「さて。それはどうでしょうか」
マギーはその笑顔の奥で何を考えているのか、ルーシェには見透かせなかった。
ともあれ。ルーシェは無事に魔女になることができ、更に七賢人という偉大な称号を得ることが出来た。
「ルーシェ。魔女の資格証は後日発送します。そして、これを受け取って下さい」
マギーから渡されたのは魔女の帽子をモチーフの柄の掛かったブレスレットである。
「これは?」
「七賢人だけに渡される特別なブレスレットです。これを肌身離さず身につけて下さい」
「そう。分かった」
ルーシェは早速ブレスレットを左手に付けた。
「うん。凄くお似合いですよ。あと、これは学校のしおりです。入学までに目を通して下さい。必要な事項は全て書いてあります」
「ありがとう」
「七賢人様、これから頑張って下さい。今後の活躍を期待していますよ」
七賢人様という響きにルーシェはニヤリと現を抜かす。
これから七賢人としてルーシェの最初に与えられた任務は潜入捜査。
妥当、魔女狩りと戦うことと学園生活を同時にこなすこととなる。
ルーシェの新しい生活が幕を開けようとする。




