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1-10 私好みのイケメンが家に訪ねて来ました。


 ある昼過ぎのこと。

 ルーシェは紅茶を飲んで寛いでいる頃、一人の訪問者がルーシェの家に尋ねて来た。

 コンコンと扉がノックされる。

 その音にルーシェは椅子から立ち上がる。


「誰だろう。人が来るのは珍しいな」


 ルーシェが扉を開けるとそこには紫色のタキシードを着た青年が立っていた。

 シルクハット被っており、左手にはステッキを持っている。

 青髪に細身の男性で二十代後半くらいの見た目だ。


「こんにちは。あなたがルーシェ・スカーレットさんですか?」


「うわぁ。イケメンが来た」


 ルーシェは年頃なのか、目の前の男性に見惚れていた。

 頬を少し赤めており、その仕草は完全に乙女だ。


「私、マギー・テルと申します。魔法協会の者です」


「魔法協会? 魔法協会が何の御用ですか?」


「大事な話ですので中に入れてくれませんか?」


「どうぞ。好きなだけ」


 ルーシェは初対面の人間をすんなり家の中に入れた。

 しかも大人の男性。あまりにも無防備な受け入れ方だ。

 普通だったらこんなことしないが、イケメンということで心を許してしまったようだ。

 もてなしたいという気持ちになってしまったルーシェは紅茶と手作りのクッキーを差し出し、テーブルに向かい合わせで座った。


「どうぞ」


「ありがとうございます。頂きます」


 その飲む姿にルーシェはガン見だ。


「マギーさん。ご趣味は?」


 まるでお見合いの場のような空気が流れる。

 ルーシェのペースになっていた。


「趣味ですか。私は手品が得意です。よく公共の場で披露するんですよ」


 見た目通りというべきか。

 ルーシェの質問は続く。


「素敵ですね。是非、私も見たいです。よければ見せてくれませんか?」


「では少しだけ。ガラスのコップを貸して頂けませんか?」


「はい。どうぞ」


「ここにガラスのコップとコインが一枚あります」


 コインは金貨だ。コップはルーシェが用意したのでタネも仕掛けもない。


「手を貸してくれませんか?」


「手を?」


 ルーシェは手を差し出すとマギーに握られる。

 はうっ! と、変な声が漏れるが、手品は続けられる。

 ルーシェの手のひらにコインを乗せてその上にコップ置く。

 ルーシェの手はマギーの手に添えられたままだ。


「では行きますよ。スリー、ツー、ワン。はい!」


 すると手のひらに乗っていたはずのコインがガラスのコップの中に入ってしまった。


「え、凄っ! 何これ」


「すり抜けです。これだけじゃありませんよ。ワン、ツー、スリー」


 すると今度はルーシェの手のひらにコインが戻って来た。

 ずっとコップの底を握っていたので自然に入り込む隙はないはずだ。

 ルーシェは手品に翻弄される。


「どうやってやったんですか?」


「手品師の種明かしは企業秘密です。さて、楽しんで頂けましたか。ルーシェ」


「はい。もっと私と遊んでください」


「それはまたの機会に。さて、そろそろ本題に入らせてもらってよろしいですか?」


「そうでしたね。それで話というのは?」


 マギーは紅茶を一口飲み、本題に入った。


「二年ほど前、魔王軍のドラゴンを撃退したと言うのはあなたの仕業ですか?」


「はい。私です」


 ルーシェはマギーの顔をガン見しながら答える。

 まるでルーシェが口説かれているように甘い雰囲気が漂ってくる。

 すっかりマギーのペースに乗せられている。


「村人の話は本当でしたか。あのドラゴンをこうもあっさり倒したと言うことはかなりの魔力をお持ちのようだ。そのことは私ら魔法協会も充分評価に値するものです」


 褒められている? と、ルーシェは錯覚する。


「ありがとうございます。知っていたんですね。私が魔法を使えること」


「えぇ、把握していますよ。私は実物を見ていませんが、A級以上の魔法を使えるとか?」


「はい。でも逆に低級の魔法が使えないのが難点です。変な話ですよね。ハハハ」


 ルーシェは緊張しているのか、愛想笑いのようにぎこちない。

 と、言うよりもイケメン相手に動揺しているのかもしれない。


「その黒猫はあなたの使い魔ですか?」


 マギーは床で寛いでいるテトを指摘する。


「はい。テトって言います。生意気ですけど、可愛いところもあるんですよ」


「よく言うよ」とテトはぶっきら棒に言う。


 最早、猫が喋ることは当たり前になっている。

 ただ、それは魔女関係者だけであって一般の人は驚くことだ。


「なるほど。魔女の条件は既に揃っている訳ですか。ルーシェ。私にあなたの魔法を見せて貰えませんか? この目でしっかりと拝見したい」


「勿論です。危ないので外へ行きましょう」


 マギーを外へ誘導してルーシェは自分の魔法を披露することになる。


「私の力を見てもらえるんだ。どんな魔法にしようかな」


「A級以上で得意な魔法で構いませんよ」


「えーいっぱいあるからルーシェ迷っちゃう」


「ぶりっ子しちゃって」と、横からテトが言ったことでルーシェは素になる。


「決めた。虚空より風を起こせ、砂塵の嵐で埋め尽くせ、見えなき無数の刃、彼の者を刻め。風塵猛刃(エアスラッシュ)


 効果は砂嵐を起こし、視界を無くし目標に風の刃をぶつける。

 ルーシェが目標にした木を次々となぎ倒した。

 それを見たマギーは敬意を表すように拍手をする。


「素晴らしい。まさか本当にA級魔法が使えるとは。正直、この目で見ない限り信じられなかったですが、これで納得できました」


「いやーありがとうございます。他にも凄い魔法が使えるんですよ。例えば……」


「それより魔法協会の人がわざわざ尋ねて来るって言うことはルーシェを魔女に推薦したいってことじゃないの? マギーさんとやら」


 浮かれるルーシェに対してテトは問う。

 場は一変、シリアスになりテトとマギーは向き合った。


「使い魔君は察しがいい。その通りです。でも半分正解で半分間違いです」


「あの、どう言うことでしょう?」とルーシェは困惑する。


「ドラゴンを倒して今のようなA級魔法以上がその歳で扱えるのであれば魔女として資格を与えるに値する実力だ。そこは魔法協会としても認められています。だが、魔法協会はあなたにあることを推薦しているんです」


「あること?」


「ルーシェ・スカーレット。君には七賢人を推奨します」


 マギーの発言にテトはピクリと耳を動かすが、ルーシェはイマイチ、ピンとこない様子だった。


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