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追放された勇者の裏側で、裁定者は苦心する~優しくしたらヤンデレになりましたが!?~

作者: 四季 紫

「非常に残念なことに、今日を以ってお前はクビだ、シャルル」


 青天の霹靂(へきれき)


 まるで鈍器で殴られたかのような衝撃が、金髪の少女を襲う。


「……え? ど、どうして?」


 首を傾げて少女は問う。


 答えは決まっていた。


「そんなもん、お前が役に立たないからに決まってるだろ? むしろ、どうして俺のパーティーに残れると思ったんだ?」


「わ、わたしは、ずっと……ずっと、みんなのために全力で戦ってきた、よ」


「アホか。いくら全力を出していようと、結果が伴わなければ徒労。無意味なんだよ、無意味。お前より優秀な奴を新しく仲間に引き入れる方がずっと有意義だとは思わないか? なあ、シャルルよ」


「…………」


 少女は項垂(うなだ)れる。


 全てに絶望したのだろう。


 確かに魔物を狩る冒険者に弱者は不要。


 弱いことが悪い。


 だが、口汚く罵る理由にはならない。


 もっと連中が優しい言葉を告げていたら。


 もっと連中が彼女に優しい性格であれば。



 ──ああ、きっと世界は混乱に(おちい)らずにすんだだろう。



「二度と俺たちの前に顔を見せるな。無能は無能らしく、底辺の仕事でもしてろ。それか、冒険者なんて辞めちまえよ。娼館で働いた方が、お前のためにもなるぜきっと」


 吐き捨て、笑い、連中は何処かへ去っていく。


 冒険者は厳しい職業だ。


 途中で仲間に見捨てられるのは決して珍しくない。


 だが、見捨てられた側の相手が悪かった。


 シャルル・アークライト。


 何の変哲も無い平凡な冒険者。


 剣を握り、勇敢に、純粋に戦う彼女は正直言って弱い。


 連中の言うとおり、冒険者には向いていない。


 しかし、潜在的な才能は他のどの生物をも超越する。


 人は、そんな生き物のことを……勇者と呼ぶ。


 困難にめげず。


 弱音を吐いても尚、暴風に身を捧げる精神の持ち主。


 始まりは誰よりも弱いかもしれない。


 けれど、女神の幸運に選ばれた彼女は、最終的に誰よりも強くなる。


 それこそ、世界中を敵に回しても戦える程に。


「これから、一人で依頼をこなすの? わたしのような冒険者が、一人で魔物に……? 怖い。苦しい。寂しい、よ」


 芽は出た。


 後は開花を待つだけで最強の剣士が生まれる。


 結果的に、彼女は世界を救う希望となるだろう。


 だが、一歩間違えれば強大な力とは諸刃の剣となる。


 純粋な人ほど、心が傾いた時の反動が大きい。


 故に僕は、歩く爆弾の如き彼女を見張る。


 彼女が、女神に選ばれた幸運なる使徒であるなら、差し詰め僕は女神に選ばれた裁定者。


 個人ではなく、勇者でもなく、世界の行く末でもなく、人類全体を守るために用意された存在。


 様々な特権を手に。


 様々な宿命を背負い。


 世界一、危険な役割を担う。


「ねぇ、ちょっといいかな」


「……あ、あなた、は?」


「僕はアーク。アーク・レイン。独り寂しく涙を流す女性を放っておけなくてね。どうだろう。話くらいなら聞くよ? 意外と、誰かに吐露するだけで気分は晴れるものさ」


「いえ、でも……凄く、くだらない内容ですから」


 勇者の資格を持つ彼女は、真っ白なひな鳥だ。


 優しくされれば簡単に他人を信用し。


 厳しくされれば恐ろしいと錯覚する。


 ならば、どうしてあげればいいか。


 答えは簡単だった。


「ごめん。ほんとは、一部始終を見てたんだ。悪いとは思ったけど」


「ッ! だったら、無視してください! こんなわたしを、見ないで……」


「それは無理だ!」


 彼女の慟哭に、すかさず僕は距離を詰める。


 白く華奢な手を握り締め、真剣な表情で言った。


「今、君を独りにする方が間違ってる! 君は無能じゃない。役立たずなんかじゃない! 人の才能を決めるのに、遅いってことはないんだ。見捨てず、諦めなければ必ず強くなれる! だから、ほんの少しで構わない。僕を、信じてほしい。利用してくれていい。折れず、君には立っていてほしい!」


「なん、で……? 見ず知らずの他人のために、そこまで……」


「君は忘れているかもしれないが、僕は君に出会ったことがある。元気が無かった僕に、君は言ってくれた。諦めないで、と。だから、その時の恩を返したい。あの言葉はなければ今の僕は存在しなかった。言葉では言い表せられない程の感謝があるんだ!」


 もちろん嘘である。


 彼女とは初対面。


 こうして話すどころか街中ですれ違ったことすらないだろう。


 これは一種の賭けだ。


 ここまで迫られ、堂々と告げた言葉は現実を書き換える。


 人の記憶力は完璧じゃないからこそ出来る荒業だ。


「わたし、が。誰かの、力になれた?」


「ああ。君は無力じゃない。僕の力になってくれた。代わりに、今度は僕が君の力になる。一緒にパーティーを組もう。一緒に、冒険をしよう。二人で、困難を超えるんだ」


「アーク、さん」


 作戦は成功。


 やはり純粋すぎる彼女を騙すのは楽勝だった。


 感極まって泣き出すシャルルに胸を貸し、哀しみが消えるまでそばに居続ける。


「たくさん泣くといい。幸せになりたい分だけ、辛い記憶は追い出そう。僕が、必ず……」


 君を平和な世界に導いてあげるから。


 人類のために。


 自分のために。


 彼女のために。


 例え、どんな手を使ってでも。



















 ……などと調子に乗って半年。


 僕とシャルルの冒険は順調だった。


 勇者の資格を得た彼女はメキメキと実力を高め。


 勇者の裁定を任された僕は、彼女が暴走しないように常に神経を尖らせながら関係を保つ。


 うん、最悪だ。


 気分が悪い。


 下手に地雷を踏み抜こうものなら、既に並みの冒険者を殺戮できるほど強くなった彼女が暴れ出そうとするし。


 半年前に撒いた種のせいで、本来の難易度を更に押し上げていた。


 と言うのも。


「アークさんアークさん! 見てください。依頼にあった魔物をたくさん殺してきましたよ! アークさんのために、素材がたくさん取れましたよ!」


「そ、そっか、ありがとう。お金はあるに越したことはないからね。う、嬉しいよ? でも、流石に討伐し過ぎじゃないかな。受付の子も、血塗れの君と大量の血肉を見たら卒倒するんじゃ……」



「……もしかして、迷惑、でしたか? わたし、アークさんに迷惑をかけちゃいましたか? それとも、受付の子に好意を? 違いますよね? 好きとかじゃないですよね? 興味ありませんよね? アークさんはわたしに手を差し伸べてくれたし、わたしを助けたいと言ってくれましたもんね。そんなアークさんがわたしを見捨てるなんてことないですよね! ごめんなさい。わたしずっと不安なんです。アークさんは素敵でカッコよくて、強くて、頭が良くて、モテて……毎日毎日、見知らぬ女性に声をかけられて……あれ、鬱陶しいですよね? 邪魔ですよね? どうして、隣にわたしがいるのに声をかけるのでしょう? わたしの姿が見えていない? もしくは、わたしじゃあアークさんに相応しくないと馬鹿にしてる? あはは、おかしい。おかしいおかしいおかしい。アークさんはわたしを助けてくれたのに。何も知らない馬鹿で幼稚な女が、アークさんの何を理解できると? お互いに相思相愛なわたし達の間に、割り込めるとでも? いけない。いけないけない。そんな悪い人は……ちゃんと潰さなきゃ。切り裂いて、燃やさなきゃ。大丈夫ですアークさん。今のわたしなら、簡単に出来ますから!」



「お、落ち着いてシャルル。別に僕は君以外の異性に興味なんて無いから。さっきのは一般的な話だよ。誰だって、血塗れの子と肉片を見たら怖いだろう? もちろん、僕はシャルルならぜんぜん怖くないけどね」


 嘘だ。


 普通に怖い。


 半年前から自分の考えに自信が付き、半年間かけて調子に乗った結果……どうしてだろうか。


 僕が他人、特に異性と近づこうとすると烈火の如く怒る危ない少女に育ってしまった。


 悪いのは僕だろう。


 彼女に勘違いさせるようなことをたくさん言ったからね。


 けど、純粋にも程がある!


 立派な嫉妬深い彼女面の出来上がりだよ!


「よかったぁ……もちろんアークさんのことは信じてましたけど、不安がどうしても拭えず……本当にごめんなさい」


「謝らないでくれ。そう想ってもらえるだけで僕は嬉しいよ」


 逃げ道を失い、危ういバランスを取りながら今日も僕は彼女に甘言を告げる。


 いつか、悪しき魔族の王を倒すその日まで。


 いや、もしかすると世界を救った後も彼女とのやり取りは続くかもしれない。


 だとしたら先に降参するのはどちらか。


 実に、笑えない話だった……。

読んでいただきまことにありがとうございます


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― 新着の感想 ―
[良い点] You潔く添い遂げちゃいなYO! [気になる点] そのうち誰か秘密裏に始末してそう。 裁定者にバレないのか、バレても世界を優先して握りつぶすのか
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