随筆
僕には大切な女性がいる
言ってしまえば、彼女の側に居る為に僕は世の中の正しさに従って生きている
彼女は義務教育と言う名の洗脳を受けており、その為その理から外れた行為を嫌悪するからだ
誤解しないで欲しいのは、僕は義務教育を批判している訳ではない
義務教育のおかげで、膨大な数にまで膨れ上がった人間達が各々の倫理、思考で衝突する危険をある程度回避できるからだ
それは、種の存続に他ならない
しかし、こんな事を言うと世の私刑裁判官達が自身の心情が為に僕に有罪を言い渡し、この首にロープを掛けようと口から涎を垂らしながら手招きをしている描写が浮かぶのだが、僕は人類が生き延びていく事が必ずしも正しい事であると思っていない
人口が減っていく事が悲劇だとも思っていない
人が寝ている間に苦痛を伴わない死が与えられ、次の日からは周囲が気づかないほど精密にコピーした人工生命体を派遣し、そうやって誰もが死の恐怖に怯えない内に着実に人類を断絶できたら、それは幸せなのではないか?
この世の不条理にもう誰も晒されなくなるのではないか?と、昔SF小説にハマっていた時にはよく夢想していた
無論、そんな事ができるともその実践のために、秘密組織を作ろうと等とは思っていない
何処かでそれは露呈し、人に恐怖を与えてしまう危険性があるし、それは余計なお世話だと思っている人だっているだろう
僕だって、あと少しで書き終わる小説の前に殺されてしまっては恨んでも恨みきれない
こうして、僕の計画は頓挫する
ぁあ、こんな話をしたかった訳ではない
つまりは、僕は極度の捻くれ者なのだと理解してくれればいい
話を戻そう
ーー僕の最愛にして唯一の女性である彼女は、自分の信念たる物をしかと持っており、簡単に言えばとても頑固だ
間違っていると思う事にはズバズバ言うし、人にも自分にも厳しい
一方で僕にはない感受性もある
ところで、ある日彼女は言われたらしい
「社会で上手くやっていく、上に立つ為にはもう少し男を立てた方がいい」
彼女がショックだったのは、それが彼女を嫌うからではなく、彼女を気遣って出た言葉だからだ
言っておくが、彼女は女性至上主義者ではない
ただ、男も女も同様に接していただけだ
彼女はその時、半ば呆然として「そうかもしれないですね」と口から溢したらしい
家に帰ってきて、彼女はずっと項垂れていて数分塞ぎ込んでいた
それから僕に
「でも、それじゃあこの先の女の子達もずっとそうやって生きていかないといけない」
と言った
そして、「これからの社会が変わる為の一歩として私は自分が上手くいかなくてもこのスタイルは変えませんって言えばよかったなぁ〜」と顔を歪めながら僕に笑いかけた
ここ最近、彼女に会えていないのだが元気だろうか
あぁ、それで最近のニュースで流れていたのだが、ある著名人の女性が枕営業の告発をしたらしい
ところで、枕営業と言う言葉は僕は無くした方がいいと思う
枕営業ってまとめちゃうと、その卑劣さが伝わりづらいんじゃないだろうか
つまりは、「俺、私とヤったら仕事あげる」or「ヤらないなら圧力掛けて仕事無くす」だろう?
このやって書けば、みんな不愉快さでそれを無くそうと躍起になるのではないか
人は見たくないものから目を逸らす生き物だから仕方がないとも言えるがーーお子様やそれで心を深く痛めてしまう人に具体的に伝わらないようにという配慮も勿論あると思うーー
その後の顛末はきっと知っているだろう
驚く事に、暫くしてその女性はある一定の数の人間に非難され、更に今日のニュースで知ったのだが、仕事を降板させられたらしい
これは事実なのだろうか?
間違った情報が横行しているのか?
ーー残念なことにそれは事実だった
もしかしたら、違う要因もあるかもしれないが、
それでも僕は唖然とした
だって、これじゃあ泣き寝入りを薦めるようなものじゃないか
被害に遭っても、黙っていなさい、耐えなさいって社会全体が言っているようにさえ感じてしまった
被害にあった事を告白する事が絶対じゃない
告白する事で辛い記憶が蘇り、彼女彼らが苦しむ事はあってはならない
しかし、それでもなお心を痛めながら声を上げた人間に対してあんまりじゃないのか?
ニュースだから、僕は実際に関わっていないから被害が事実なのか事実でないのかは分からない
でも、世の中にいる同じ境遇の人々にこの出来事は恐ろしい物を突きつけたと思う
その人々にそんな想いをさせないが為に、その女性を非難した人、降板させたスポンサーの人間には利益云々を別にして、もっと深く考えて欲しかった
少し想像してみて欲しい
自分の大切な人が傷つけられる様を
貴方達に、息子、娘はいるだろうか?
恋人は?家族は?居ないのなら、二次元の嫁でもいい
僕はした
彼女に何かあったら、僕はそいつを殺すだろう
彼女には人殺しはダメ、絶対と言われているが、きっと僕の本能が台所から包丁を引き抜き飛び出してしまう
嫌な想像だ
殺したところで、彼女の受けた傷は癒えないのだから
それでさ、もしも彼女が勇気を持って声を上げた時、人々から批判されたら、僕はもう間抜け面の棒立ちになってしまう
ぽかんと開けた口からは何一つ言葉が出ないだろう
手にしていた血濡れた包丁もからんと地面に落ちるだろう
これが、世間一般の常識なのか、当然なのか、暗黙の了解という奴なのか
びっくりだ
先程述べていた人類殲滅作戦に真摯に取り向きそうな気配だ
本当は、その女性が批判されたというニュースを見た時に既に腹の底から何かが生まれた
でも、言葉にして文章にしたら、折角僕の書いているものを読んでくれた人達が「なんだこいつ」って言ってもう僕の書いたものを読んでくれなくなるんじゃないか
その女性と同じ目に遭ってしまうんじゃないかと僕はこの感情を押し込めた
今日のニュースを見て僕は今、この文章を書いている
耐えられなかった
世の中が狂っている事に
前から思っていた
ネットで人を批判する人間はどんな顔で画面を覗いているんだろう
自分の加虐的嗜好を満たされた恍惚とした表情か?
それとも、自身の信じる正義を遂行したという誇りに満ちた顔だろうか?
教えてほしい
僕は捻くれ者の除け者だから分からないんだ
仕方がないってなんだ?それが世間ってなんだ?数が多い方は少ない方を排除していいってこの常識なんなんだ?
だって、それらは生きていく上で当たり前で世の中の正しさで、僕はそれを一緒くたに混ぜ込んで鼻を摘みながら飲み込んで、そうしなきゃ僕は普通の人間として彼女の側にいられなくなるだろう?
ぁあ、でも教えてほしい
これが、君の信じている世界なのかと
君が共に笑みを交わす人々はそんな残忍な面を浮かべているのかと
そして、出来るなら、
出来るならば、跪いて縋り付いて教えを請う僕の頬をはたいてほしい
そんなわけがないだろうと非難の意味を込めて
悔しさから涙を溢してほしい
そうすれば、僕もあぁ泣いていいんだと、火照った頬を温い感情で冷ます事ができるから
これは間違っていると嘆けるから
不愉快にさせてしまったらすいません
不愉快にさせたかったんです