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Side:SplendiD②

◇ローメリー

「……ここ、は……?」

目が覚めると、知らない土地にいた。

魔法で強制的に転移させられた感覚。視界がぼやけ、目眩がする。周りを見渡して情報を得ようとし、隣に少女――おそらくローメリーと同じ悪魔だ――が立っていることに気が付いた。

ぼやけた視界のピントを合わせようと、数回瞬きする。ぼんやりとした色の集合が徐々に少女の姿へ像を結んでいく。

隣に立っていた少女は、ローメリーの親友である黄金の悪魔――ウィンゲートだった。

知らない場所で親友に会えたことに安堵し、にこっと微笑んで口を開く。

「ねえ、ここ、どこだか知らない?」

「さあねえ、ウチもまだよく分かんなくて…」


ウィンゲートの言葉の途中で、重々しい金属製の扉が音を立てて開いた。扉の先には、揃いの帽子を被った隊列を組んで立っている。

戸惑うローメリー達に向け、隊列の先頭に立つ男――おそらくは1番の偉い人だろう――が口を開いた。

「お二人に、力を貸していただきたいのです。」

「……は?」

隣に立つウィンゲートが声を漏らす。警戒心剥き出しの声だ。それも当然だろう。

この状況から判断するに、ローメリー達をこの世界に呼び出したのは、今目の前に立つ彼なのだろう。そんな相手から唐突に「力を貸して欲しい」なんて言われても困る。

そんな考えがウィンゲートからは容易く読み取れた。良くも悪くも素直な彼女は、取り繕うということを知らない。


「呼び出しておいて勝手なことを頼んでいるのは承知の上です。ですが、このままでは世界が滅んでしまうのです。私達は、そうならないために動いている。どうか、協力して頂けませんか。」

「世界が……?」

男の話によると、この世界では百年以上も四つの帝国による戦争が続いているらしい。

そんな中、ある一国が禁忌とされている術式――即ち、悪魔を召喚する儀式――に手を出した。これにより国同士のパワーバランスが崩れ、世界は滅亡への道を辿っている。

この世界には、戦争に巻き込まれた罪のない人々が多くいる。戦争を終わらせ、その人達を救うためにもローメリー達に助けて欲しいのだという。


断る理由なんてなかった。争いのない、平和な世界を作ることは、ローメリーの昔からの夢だった。

この世界で戦争を終わらせるためにローメリーに出来ることがあるのならば、何だってしたい。

「はい!協力、したいです!させてください!」

その思いを確かめるように、はっきりと言葉を発した。ウィンゲートも隣で頷いてくれている。

2人の反応に心底ホッとしたような表情を浮かべた男は姿勢を正し、感謝の言葉とともに着いてきてほしい、と2人に告げた。



案内されたのは、小さな白い部屋だった。

――否、部屋というよりは空間、といった方が的確だろうか。ほとんど何もない真っ白い壁に囲まれた空間。

そこには、1人の不機嫌そうな少女が佇んでいた。その少女には見覚えがあった。つい先日、彼女には助けられたばかりだ。

そこに居たのは、長い綺麗な青髪の青藍の悪魔――アンドレアだった。空間に立ち入ったローメリー達に気が付いたらしいアンドレアは一瞬こちらを見た後、すぐにローメリー達を視界から外した。どう声をかけるべきなんだろう、なんて考えつつローメリーが無意味に口を開閉させていると、先にウィンゲートが声を発した。

「え、委員長じゃん!?なんでここにいるの!?もしかしてウチらと同じように呼び出された感じ!?」

あまりにも直球な彼女の問いかけに、思わず苦笑してしまう。こういうあけすけのないところは彼女の長所だろう。アンドレアは大きく溜息を吐いた後、小さく頷いた。

「ってことは……アンドレアちゃんも協力してくれるってことだよね!一緒に頑張……」

「一言も言ってないわ、そんなこと」

ローメリーの言葉を遮り吐き捨てるように棘だらけの言葉が投げかけられる。

「こんな事態になっても、まだそんな甘いことが言えるのね。私達に元から、選択肢なんて与えられていなかったじゃない」

「「え?」」

ウィンゲートと声が重なる。選択肢が与えられていなかった?どういうことだ?

ローメリーは確かに、自分の意志でこの世界を救うことを選んだはずだ。助けない、という選択だって出来たはずだ。それでもローメリーは、助けることを選んだ。

「ね、ねえそれ、どういう……」

自分の知らないところで何かが動いているような、そんな得体の知れない不安に駆られて思わず問いかける。

「…私達が元の世界に戻る方法は、今のところ無いわ。ゲートは動力が枯渇してる。それに……この世界に召喚されたのは、私達だけとは限らない。元の世界に戻りたければ、否応なく戦う必要がある。」

発されたその声には、怒りが混じっていた。召喚されたことだけに対する怒りではないだろう。彼女の魔法は、時空を飛び越えて好きな一点の見たい未来を見ることが出来るというものだ。もしかすると、その魔法を使って未来を見たのではないのか?その見た未来が、ローメリー達にとって良くないことだったのではないか?

「ゲートの動力が枯渇している」とアンドレアは言った。

ローメリーだって仮にも悪魔の端くれだ、転移ゲートの存在くらいは知っている。

異界に転移するためのゲートには、二柱分の悪魔の魂が必要だ。もしここが魔界なら、なんの問題もない。過去に死んだ悪魔の魂を使用させてもらえば良い。


――だが。この世界で悪魔の召喚が禁忌になっているということは、過去にこちらの世界に悪魔はいなかった、ということだろう。

即ち、二柱分の悪魔の魂を集めるには、元の世界に帰るには、ローメリー達が悪魔を二柱以上殺さなければならないのだ。自分自身の手で。

自然とそんな思考をしていた自分にゾッとし、吐き気が込み上げた。ウィンゲートが気遣うようにこちらを見ているが、大丈夫だよ、なんて強がれる余裕は無い。

それでももっと情報を教えてもらわなければ、と震える声で言葉を発する。

「……あの、アンドレアちゃんっ……!」

返事は返ってこない。まるで、ローメリーの声が届いていないかのように。


ローメリー達に背を向けたアンドレアは、それきりもう口を開こうとしなかった。

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