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Side:Cлава①

◇ラーニャ

ラーニャは物心ついた頃からずっと、偽りの世界で生きてきた。

家柄と厳しい規則に縛られ、優等生を演じ。取り入ろうと擦り寄ってくる取り巻きに笑顔を振り撒き。そうすることが当たり前で、このまま大人になるのだろうと思っていた。

本心を見せられる相手なんて幼馴染みのレオナくらいしか居なかったけれど…別に不都合も無かった。

魔力が強かったせいで周りの期待は年々膨らみ、ラーニャはその期待に応え続けてきた。

なんてつまらない世界なんだろう。そう思ったところで何も変わらない。変えられるだけの力をラーニャは持たない――と、思っていた。


――ある、雨の日だった。

いつものように授業の一環として行われた戦闘訓練。なんてことない日常の一部分。


そこで、ラーニャの魔法が暴発した。


すべての液体を操るラーニャの魔法は雨を操り膨らみ、制御出来ないほどに暴走。それを止められる者は居なかった。

教師が、取り巻きが、クラスメイトが――ラーニャの魔法に蹂躙され、惨たらしく死んでいった。ラーニャが、殺した。

事故だったのか故意だったのか、今ではもう分からない。ただその日、ラーニャの心は粉々に砕け散った。

ラーニャの中湧いた一番の感情は、恐怖でも怯えでも悔恨でもなく――"快感"だった。

自らの手で壊している、殺している。そのことに高揚感を覚えた。

ラーニャを恐れて逃げ惑う無様な教師。涙を流して許しを乞う取り巻きたち。惨めなそれら全てを殺して殺して殺し尽くした。一人を殺す度に、ラーニャの良心、道徳、そういった空虚で綺麗なものが消えていく。濁った狂気に塗り潰されていく。

数十人を殺し尽くし、理性がとうに破壊されたラーニャは、最後の一人――レオナをも殺そうとし、止められた。

必死だったのかよく覚えていないが、ラーニャがレオナを殺すことは叶わず、昏倒させられた。

意識を失う前、最後に見たレオナの微笑みが、何故か瞼に焼き付いている。


そして。その日から、ラーニャは狂ってしまった。

事件は親の権力で揉み消されたが、ラーニャの起こした事件は皆が知っていて。ラーニャは恐れられた。そして、それすらも快感だった。

もう偽らなくて良い。狂っている?それがきっと本来のラーニャだ。ただ、自分を縛っていた重い仮面を外しただけ。何も問題はない。ラーニャは、自由だった。


そんな中、僅かに――ごく僅かに、怯えがあった。

あの日に戻れれば同じことをするか、と聞かれれば躊躇わずイエスと答えるだろう。それでも、未知の力を持つ自分への怯え、自分を理解してくれる者は誰も――ラーニャ自身ですら自分を理解出来ない――居ないのではないかという怯えが、ほんの少しだけ、残っていた。ラーニャに残された最後の正常な感情、とでも言えばいいか。


その怯えを消してくれたのがレオナだった。大切な幼馴染み。ラーニャを恐れない唯一の存在。

レオナはラーニャのことをラーニャ以上に理解してくれた。否定しないでいてくれた。

それは、ラーニャの小さな怯えを消し去るには充分だった。

自分のことを求めてくれるレオナに依存するのに、そう時間はかからなかった。

ラーニャは精神の安定を――狂ってしまったラーニャの心に"安定"を求めるなんて滑稽だろうが――レオナに預けるようになり、レオナはそれを拒絶しなかった。

時間が経つにつれ、レオナを愛しいと思う気持ちが募る一方で、ラーニャの中にそれ以外の感情が芽生え始めているのもまた、事実だった。

「あの日をやり直したい」

その想いが何を示唆しているのかは自分でも分からない。

ラーニャは、レオナをこの手で殺したがっている?それとも、レオナに殺されたがっている?

普通ならば有り得ない感情。だけど、ラーニャは狂っている。普通ではない。

自分の想いすら、今のラーニャには理解出来ない。


感情の答えは、見つからないままだ。


◇◇◇


無数の光によって刻まれた魔法陣。自分を取り囲む人間達。目を開けたラーニャの視界に映ったのは、それだけだった。

人間達は全員が同じ格好をしており、ラーニャを逃すまいと険しい顔でこちらを見ている。――不快だ。

「ご機嫌よう、皆様♪」

内心の苛立ちを押し殺し、笑顔を作る。言葉を発した途端、人間達は一斉に武器に手をかけ身構えた。自分の身を守る為、なのかもしれないが……いずれにせよ、許されない行為だ。

「はあ……残念ね。本当に、残念だわ」

ゆっくりと口角をつり上げ、そう呟く。嗚呼、本当に残念だ。こいつらを始末するために、わざわざラーニャが手を煩わせなければならないのだから――――


血の雨が降り注いだ。ラーニャの綺麗な空色の髪を、真っ赤な液体が濡らしていく。光を失った魔法陣の跡が残る床には人間だったものの残骸が転がり、血溜まりが出来ている。

自らの作り出した惨状には目もくれず、ラーニャは歩き出した。愛しいレオナもまた、この世界に呼び出されているはずなのだ。レオナが居なければラーニャは何も出来ない。レオナが居ない世界で生きるなんて考えられない。

だから――それを邪魔するものは、何であろうと消し飛ばす。

微笑みながら歩みを進めるラーニャの通った道が、紅く彩られていった。

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